文字書きさんに100のお題
032:鍵穴
(24)
「ハインリヒ?」
呼んでも、返事はない。
ジェットはため息をつき、固く閉じられたドアに向かって話しかけた。
「オレが悪かったって。だから、そんなに怒らないでくれよ」
やっぱり、返事はない。
ドアノブの下に鍵穴を発見し、ジェットはその穴から部屋の中を覗き込んだ。
瞳を細めて、中の様子を伺う。
行ったり来たりしている黒い影は、恐らくハインリヒの姿だろう。
せわしげに部屋の中をウロウロするその姿に、苛立ちの色が見えた。
ハインリヒと、ケンカをした。
理由は本当に些細なことで、ジェットはここまでハインリヒが怒ってしまうなんて露ほども思っていなかった。
(ただ、皆の前で少しからかっただけなのに・・・)
しかし、いつもより少し虫の居所が悪かったらしいハインリヒには、かなりカチンときたようで。
ハインリヒは部屋に篭城し、ジェットは途方に暮れている、という訳である。
『要するにさ、キミって、デリカシーが足りないんだよね。ハインリヒが怒るのも当然だよ』
イワンやジョーに言わせると、そういうコトらしい。
(どうせオレは、お上品さには欠けますよ)
半ば不貞腐れながら、ジェットは鍵穴から部屋の様子を伺った。
やっぱり、ハインリヒはせわしなく部屋の中を動き回っているようだ。
「ハインリヒ〜。ホントにゴメン。もう、からかわないから!」
「・・・・・・・・・」
ハインリヒの無視攻撃に、ジェットはくじけそうになったが。
少しの間を置いて、その影が、だんだん近付いて来たように思えた。
そして、視界が真っ白に遮られて。
「いてっ!!!」
ドアノブが、思いっきり額に当たり、ジェットはその痛みに思わず涙目になった。
ハインリヒが、ドアを開けてくれたらしい。
呆れたような声が、頭上から降ってくる。
「・・・何をしているんだ、お前は?」
「え?ハハハハ・・・」
まさか、鍵穴からこっそり覗いていましたとは言えず、ジェットは曖昧に笑ってごまかした。
「いつまで人の部屋の前にいるつもりだ?邪魔で邪魔で仕方ない」
冷ややかなその物言いに、
(まだ怒ってるよなぁ・・・)
チラリとその表情を伺うと。
意外にも、ハインリヒは怒った顔はしていなかった。
「アレ・・・?」
「何だ?」
「いや、なんでもない・・・」
ハインリヒは、ジェットにクルリと背中を向けた。
「オレも少し大人気なかったしな。今日のことはなかった事にしてやる」
言い捨てて、ハインリヒはスタスタと部屋の中に入っていった。
どういうリアクションを取っていいか分からず、ジェットがそのまま突っ立っていると。
「オレは言わなかったか?部屋の前にそうしていられると、邪魔で邪魔で仕方ないんだ。このままオレの部屋に入るか、自分の部屋に戻るか、どっちか決めろ」
「・・・もちろん、中に入らせていただきます」
イソイソと部屋に足を踏み入れるジェットに、
「鍵穴から部屋の中を覗くなんてバカな真似、もうするなよ?」
笑いを含んだ、ハインリヒの声。
「・・・バレてた?」
「当たり前だろ。お前は分かりやすすぎるんだ」
「キミに対しては、ね」
「全てにおいてそうだろうが?」
そんな会話を交わしていると、
(あ。なんか、いつもの雰囲気・・・・)
同じことを思ったのだろうか。
ハインリヒが、ジェットを振り返った。
視線と視線がぶつかって。
そして二人は、顔を見合わせて、笑った。
〜 END 〜
2004年最初の24デーなので、短くても何か一作!!
と思い、書きました。
あまり良い出来ではないと思うのですが、気持ちだけはっ!!
しかし、この人たち、ケンカ(?)しててもベタ甘ですねぇ。
どうにかして欲しいですねぇ。
って、どうにかしなくてはならないのは、私の頭か(笑)。
そんなこんなで、短いお話で失礼いたしました〜。
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