文字書きさんに100のお題

001:バレンタイン
(24)





 暦は、二月。
 まだまだ寒さが厳しい季節の真っ只中。
 ここ数日、ハインリヒにとって気掛かりな事があった。
 ・・・ジェットの視線である。
 時折、ひどく物欲しそうな視線が飛んできて、視線が合うと逸らされてしまう。
 あいつの誕生日は過ぎたし、一体何なんだ??
 直接ジェットに尋ねてみたりもしたが、のらりくらりと逃げられて、満足のいく返事は得られなかった。
 言いたい事があるなら、さっさと言いやがれ・・・!
 心の中で毒づきながら、それでも気になって律儀に考えてしまう、アルベルト・ハインリヒ(30)であった。

 そんなハインリヒを見かねたのか、フランソワーズが笑いながら助け舟を出してくれた。
「ねえ、ハインリヒ。ジェットはチョコレートが欲しいんだと思うわ」
「はあ?チョコレートだと??」
 ニッコリと極上の笑顔で、フランソワーズは微笑んだ。
「もうすぐバレンタインデーですものv好きな人からチョコを貰いたいって、当然の男心だと思うわ〜vvv」
 待て。
 ハインリヒは心の中でツッコミを入れた。
 オレも、男なんだが・・・。
「ま、頑張りなさいな。ワタシ、応援してるからvvv」
 何の応援だと聞く間もなく、フランソワーズはスカートの裾を翻しながら去って行く。
 取り残されたハインリヒは、一人、途方に暮れた。
 チョコレートだと!?一体オレに、どうしろってんだ!?



 本を買ったついで、と理由をつけて、デパートなどを覗いてみる。
 様々な店に、色とりどりのチョコが溢れていた。
 そして、幸せそうにチョコレートを選ぶ、女性達。
 この大勢の女性達に混ざってチョコをゲットする、という勇気は、ハインリヒにはない。
 しかし、ジェットが欲しいと言うのなら、何とかプレゼントしてやりたかった。
 何気なく足を踏み入れたコンビニエンスストア。
 フラフラとお菓子のコーナーをうろついたハインリヒは、あることを思いつき、小さくガッツポーズを取った。



 そして、バレンタインデーの日がやってくる。
 フランソワーズは、ギルモア邸に滞在している男性全てに、ニコニコと笑いながらチョコレートを配ってくれた。
「愛情たーっぷりよv美味しく食べてね〜vvv」
 チョコを受け取りながら、ハインリヒは、またジェットの視線を感じた。
 何かを欲しがるような、視線を。
「ジェット・・・」
 チョコをしまいに行くような素振りを見せつつ、ジェットとすれ違い様にハインリヒは囁いた。
「後でオレの部屋に来い。いいな?」
 ジェットの琥珀色の瞳が踊る。
 ハインリヒはそのまま、自室へと引き上げた。



 部屋に戻り、フランソワーズからのチョコレートをつまむ。
 カカオの甘い風味が口いっぱいに広がって、
 ・・・美味い・・・vvv
 ハインリヒは、満足した。
 流石はフランソワーズセレクトである。
 ホクホクしながらチョコをもう一粒口に運んだタイミングで、部屋のドアが軽くノックされた。
「・・・入れ」
 ドアが開き、ジェットが部屋の中に入りながら尋ねてきた。
「フランからのチョコ食べてるのか?美味い?」
「絶品だ」
 答えてから、ハインリヒはちょいちょいとジェットを手招きし、小振りの紙袋を差し出した。
「ホラ、ジェット。お前にやるよ」
 袋の中には、色んなチョコレート菓子を入れておいた。
 可愛らしいチョコは買えなかったが、せめてもの気持ちだ。
「ハインリヒ!!」
 袋を握り締め、感極まったようにジェットは叫んだ。
「オレのために?まさかホントに貰えるなんて思ってなかったから、嬉しいよ」
「フランソワーズのチョコほど、美味くはないと思うがな。安物だし」
 ガサガサと袋を開け、ジェットは中に入っていたチョコをパクついた。
「キミの愛情が詰まってると思うと、美味さ100万倍だぜ?」
「大袈裟な・・・」
 苦笑しながらも、ジェットが喜んでくれたことが嬉しくて、ハインリヒは自然と穏やかな表情になる。
「大袈裟なんかじゃないさ。これは、世界中で一番美味しいチョコレートだよ、オレにとってはね」
 至極真面目にジェットはそう言い、
「ありがとう、ハインリヒ」
 琥珀色の瞳が優しくハインリヒを見つめた。
「・・・大袈裟だって言ってるだろうが・・・」
 少し照れてしまってジェットから視線を外すと、くしゃりと髪を撫でられた。
「キミの気持ちが嬉しい」
 ジェットの顔が近付いてきて、キスされる・・・と思ったが。
 ただジェットは、ハインリヒの目の前で優しく笑っただけだった。
「本当に・・・ありがとう」
 その笑顔が、たまらなく好きだと思いながら。
「チョコ、甘いだろ?お茶を淹れてやるから少し待ってろ」
 そう言って部屋を出ようとすると、
「それもイイけど、それよりもっと甘いものが欲しいんだけど?」
 腕を引かれて抱き寄せられた。
「チョコより甘いのは、キミだよな?」
 ギュッとジェットに抱きしめられたまま。
 ハインリヒはその暖かな胸の中で、クスリと笑った。
 ひどく、良い気分で。
 長い指がサラリとハインリヒの前髪をかき上げた。
「食べてもイイ?」
「仕方ないヤツだな・・・」
 ハインリヒはジェットを見上げ、そっと、瞳を閉じた。



〜 END 〜




バレンタインは、アンケートでトップに輝いたサイゼロチームで。
せっかくのバレンタインvなのに、あまり甘くなりませんでした・・・。
一生懸命ラブラブを心がけたのですが、スミマセン〜!!!
中途半端な終わり方ですが、
『物語の続きは貴女の心の中で・・・』と言うことで、
想像の余地を残してみましたv
って、ジャンルが違いますね(笑)。





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