文字書きさんに100のお題

051:携帯電話
(24)





 窓からフワリと身体を浮かせて。
 ジェットの姿が、遠ざかっていく。
 ハインリヒは黙って、黄色のマフラーが闇夜に消えてゆく様を見送った。
 行かないで欲しいと思ったが、それは自分の我侭だ。
 お互いに、仕事を持っている。
 ・・・別々の土地で。
『また、すぐに会えるからさ』
 そう言って笑うジェットの表情が、瞼の裏に浮かんで。
 ハインリヒは、苦笑した。



 ボーっと、窓の外を眺める。
 今頃は、何処にいるのだろう?
 澄み切った冬の星空の下で、寒い思いをしているのではないだろうか?

 プルルル、プルルル・・・。
 機械的な呼び出し音に、視線を向けると。
 ベッドサイドに置いていた赤い携帯電話が、小さく震えていた。
 カチリと電話を開くと。
 液晶画面に、ジェットの笑顔。
 ハインリヒの表情が、パッと華やいだ。
「オレが側にいなくて淋しかった、ハニー?」
 開口一番、ジェットはからかうようにそう言い、ハインリヒにウインクを投げかけた。
「ばっ・・・誰がハニーだ!?それに、お前がいなくて清々してるぞ!!」
「ふぅーん・・・」
 ニヤニヤと、ジェットが笑う。
「電話取った時、キミ、すごく嬉しそうな顔してたぜ?それは、どうして??」
 今回の訪問時に、ジェットがくれた携帯電話。
 どうやら最新の機種らしく、テレビ電話が付いている。
 そのお陰で・・・ジェットからの電話に嬉しそうにしている自分の顔を見られてしまったらしい。
 ゴホンとハインリヒは咳払いした。
「別に、オレは普通だ」
「赤くなってるぜ?」
「煩い・・・」
 実際、ジェットの顔を見られたのは嬉しいが、嬉しさを表現する自分の表情まで見えてしまうのが気に入らない。
 ジェットが鬼の首を取ったかのように、からかってくるから。
「オレはまだ、空の下。もうすぐニューヨークに付く頃かな?心配要らないから、ハインリヒは早く寝ろよ」
「別に心配なんか・・・」
 琥珀色の瞳が、悪戯に揺れた。
「心配だって、顔してる」
「バカ野郎・・・」
 ジェットは白い歯を見せて笑った。
「それじゃ、そろそろ切るな。オヤスミ」
「・・・待て、ジェット・・・!」
「何?」
「次は、いつ会える?」
 ・・・聞いてしまった。
「いつだって会えるだろ?こうして、さ。淋しくなったら、電話くれよ」
 ハインリヒの頬に、笑みが浮かぶ。
「そうだな・・・」
 液晶画面に、そっとキスを落として。
「おやすみ・・・」
 そう言うと。
 極上の笑顔で、ジェットは笑った。
「またな」
 そして、ジェットの姿が、携帯の画面から消えた。

『いつだって、会えるだろ?』
 そうだな、いつでも顔が見られる。声が聞ける。
 本当に、便利な世の中になったものだ。
 でも・・・・・・。
 もう、ジェットには聞こえないけれど。
「映像じゃなくて、本物のお前に会えるのが一番嬉しいんだぞ、オレは」
 今は誰の姿も映さない携帯電話をベッドサイドに戻して。
 ハインリヒはそっと、語りかけた。



〜 END 〜




テレビで、携帯電話(テレビ電話できるやつ)の宣伝を見て、
24で使いたい!!
と激しく思い、ネタとして頂戴しました(笑)。
ちょっと(大分の間違いだろ・・・)ハインが乙女入ってますが、
許してくださいませ〜。




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