文字書きさんに100のお題
091:サイレン
(24)
誰もいない通路を、ただひたすらに走る。
仲間との合流地点は、すぐ近くのはずだった。
けれども、ひどく遠く思える。
サイレンの音が鳴り響く。
「00ナンバー達が逃げたぞ!!」
「追え!」
バタバタと、人が駆け回る気配。
その騒々しさが、ハインリヒにある記憶を呼び起こさせた。
壁を越えようとした時の記憶を。
あの試みは、失敗に終わった。
そしてハインリヒは、大切な人を失った。
また今度も、失敗してしまったら・・・?
縁起でもないと思いながら、それでもその考えを振り払うことが出来ず、ハインリヒは不安に震えた。
また、大切な人を失ってしまったら・・・?
『ハインリヒ!』
脳内に、直接響く鋭い声。
声の主を振り仰ぐと、002・・・ジェット・リンクが厳しい表情でハインリヒを見下ろしていた。
『ボーっとするな!見つかるぞ!!』
「ジェット・・・!」
ハインリヒ目掛けて、ジェットが急降下してくる。
「こっちに来い!」
差し伸べられた手を取ると、ハインリヒの身体は、フワリと宙に浮いた。
そのまま、抱きかかえられる。
「ジェット・・・」
ひたひたと押し寄せる不安を払拭できないまま、ハインリヒがジェットを見上げると。
「そんなに、不安に押しつぶされそうな顔をしないでくれ。自分を、そしてオレを信じるんだ」
「信じる・・・?」
「そうだ。オレ達は、絶対に自由になれる!なってみせる!!そう、信じるんだ」
ジェットの瞳が、ハインリヒをじっと見つめた。
その琥珀色の瞳に宿っているのは、強い意志の光。
「オレは、自由という名の空に飛び立ってやる。仲間と共に。そして、キミを連れて・・・必ずだ・・・!!」
言った後、ジェットはハインリヒに笑いかけた。
「だから、キミも信じてくれ」
その笑顔が、なんと眩しいことか。
あれだけ不安だったのが嘘のように、心が急に落ち着いてくるのが分かる。
どんな逆境の中にいても笑顔を失わない、強い心を持つ男。
その存在に、自分がどれだけ勇気付けられてきただろう。
ジェットと一緒なら、どこまでも進んでいけるような気がした。
信じる。
仲間を、そしてジェットを信じる。
「頼りにしてるぜ・・・」
万感の思いを込めて呟くと、
「任せとけ!」
なんとも頼もしい返事が戻ってきた。
ハインリヒは、笑った。
そして笑う余裕が出てきた自分に驚き。
ジェットの腕の中でもう一度、笑った。
サイレンの音は鳴り止まない。
けれどもそれは、不安を増長させる音ではなく、自由への道標だと思おう。
「ここを抜ければ、もう合流地点だ。あの扉、壊せるか?」
「お前は誰に向かってモノを言ってるんだ?」
頬に不敵な笑みを浮かべ、ハインリヒは右手のマシンガンを構えた。
鈍色の扉の向こうに。
仲間の笑顔と。
そして、ジェットと一緒に飛び立つ、広く青い空が見えたような気がした。
〜 END 〜
ブラックゴーストから脱出する時の24です。
私のイメージだと、皆と合流する前はこんな感じです。
オフ本の「Ring」を書いた時に、脱出シーンを割愛したので、
今回チャレンジしてみましたvvv
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