ロイエンタール&リモージュちゃん
(ロイリモ出産編)
「まだなのか!?」
ロイエンタールは廊下をうろうろと歩き回っている。
「ロイエンタール閣下、落ち着いてください。」
「しかし、あんなに苦しそうなのに・・・!」
そういうとまた落ち着かない様子で歩き回るロイエンタール。
−−−、何が起こったかというと、話は今朝までさかのぼる。
「オスカー行ってらっしゃい。今日もお仕事頑張ってね。」
「ああ、おまえも予定日が間近なんだから無茶はするなよ?」
「やあねぇ、大丈夫よ!無茶なんかしないわ。」
「そうか?あわてて転んだりするなよ?家のことも使用人に任せて自分でしようとするな。それから・・ ・・・・。」
「オスカー!もう心配性なんだから。子供じゃないのよ?それより時間は大丈夫なの?」
「そんなものよりおまえの方が大事だ。」
臆面もなく言うロイエンタールにアンジェリークは顔を赤らめる。
「もうっっ!あまり恥ずかしいこと言わないで!・・・・・・っつ。」
なにやら顔をしかめるアンジェリークにロイエンタールは心配になる。
「どうした?どこか痛いのか。」
「うん・・・、破水したみたい。」
「なに!?すぐに病院に行こう。」
そういうロイエンタールにアンジェリークは落ち着いて
「まって、先に病院に連絡しなくちゃ。荷物もあるし。」
慌てるロイエンタールを尻目にアンジェリークは落ち着いて支度をするとランドカーに乗り込んだ。
「あなたは仕事に行くのよ?」
「なぜだ!俺達二人の子供だろう。」
そんなロイエンタールの言葉に内心感激しながらも
「だって、初産だからすぐには産まれないもの。それにあなたは帝国元帥なのよ?大事なお仕事があるわ。」
「しかし・・・・・・!」
そんなことを言われてもロイエンタールには納得できるはずもない。アンジェリークに何かあったら、と不安でいっぱいな顔をするロイエンタール。
そんな夫の顔に弱いアンジェリークは困ってしまう。ひとつため息をつくと、
「オスカー、早くお仕事に行ってね。」
「アンジェ!」
不満げな夫に向かって微笑むと、
「早くお仕事を終わらせて病院に来てね。」
そう言って頬に口付けた。
「分かった。」
ロイエンタールはそう応えるとすぐさまランドカーに乗って仕事に向かった。
あまりの素早さにアンジェリークは呆れながらも笑ってしまう。夫の気持ちが嬉しくて。
「・・・・・・、それにしてもベルゲングリューン、大丈夫かしら?」
ロイエンタールは自分の執務室へ急いで向かった。
「ベルゲングリューン!」
「おはようございます閣下。本日の執務は・・・」
「今日は早退する。」
来て早々の言葉に、さすがの副官も驚きを隠せない。
「は?なぜです。」
「妻の一大事だ、のんびり仕事などしていられるか!本当なら休むつもりだったものを・・・。」
あからさまに不満顔のロイエンタールを見ても、さすがに慣れているベルゲングリューンは平気である。
びくびくしているほかの部下達を尻目にのんびりと尋ねる。
「アンジェリーク様に何かありましたか?」
ロイエンタールの様子を見て、あいかわらず溺愛していらっしゃる、と思わされる。
「出産が始まったのだ。」
風邪か貧血だろうと思っていたベルゲングリューンはさすがに驚いた。
「病院に向かわれなくてよろしいのですか?」
「急ぎのものを片付けたらすぐに向かう。」
アンジェリーク様に何か言われたのだな、と思いながらも口には出さず、
「本日は急ぎのものはございません。閣下、すぐにお帰りになって結構ですよ。」
「しかしカイザーに・・・。」
「私が後のことはしておきます。閣下はすぐに奥方様のところへ向かわれた方がよいのでは?」
「感謝するぞ!ベルゲングリューン」
その言葉を言う間も惜しい、というように慌てて執務室を後にした。
「ロイエンタール閣下が人の親に。変われば変わるものだ。」
ランドカーを降りると慌てて病院の中へ入っていくロイエンタール。
分娩室の前につくと、そこには館の使用人たちがいた。
「ロイエンタール様。」
「まだか?アンジェリークの様子はどうなんだ!?」
「−−−−−−!」
その時分娩室の中から苦しそうなアンジェリークの声が聞こえる。
「!大丈夫なのか!?」
「旦那様、奥方様は初産なのですよ?そうすぐには産まれません。」
幾分年かさの、そう、アンジェリークの母親のような年齢の使用人がロイエンタールをなだめる様に言う。
「どのくらいかかる?」
「早くて数時間。一日近くかかる人もありますよ。」
それを聞くと脱力したように備え付けの椅子に座り込むロイエンタール。
アンジェリークが苦しんでいても何の力になってやれない自分がもどかしい。
代わってあげることができたら、とどんなにか思うだろう。
しかも、自分の幼少に愛された記憶のないロイエンタールには子供に対する不安がある。
愛することができるだろうか?
自分の忌まわしい金銀妖瞳と同じだったら・・・、などという不安がついてまわる。
もちろんアンジェリークはあの母親とは違う。
だからこそ苦しむ声を聞くと、やっとめぐり逢えた愛しいものを失うかもしれない恐怖が襲ってくる。
どうかアンジェリークが無事でありますように・・・!
神など信じていない自分が初めて祈るような気持ちになっていることに気づく。
そんな自分に驚きながらもなおも祈りつづける。
と、その時中から元気な赤ん坊の泣き声が響いた。
ほっとしたロイエンタールの耳に、もう一度先程より少し小さな泣き声が届く。
内心首をかしげていると、続いて分娩室の扉が開く。
「おめでとうございます。双子のお子様です!母子共に元気ですよ。」
その声を聞いて、飛びこむように中に入るロイエンタール。
「アンジェリーク?」
「オスカー?この子たちを見て。私たちお母さんとお父さんになったのよ?」
そう言って傍らにいる産まれたばかりの赤ん坊を見つめる。
「ああ・・・、おまえが無事でよかった。」
それを聞くと驚きながらも嬉しそうに微笑むと言った。
「さあ、抱いてあげて?お父さん。」
はじめて見るやわらかい生き物におっかなびっくり、といった様子で触れるロイエンタール。
「小さいな・・・。」
アンジェリークさえ無事なら、と思っていたが、自らの子供を抱き上げるとじわじわと喜びが湧き上がってくる。
自分にまた家族が増えたのだ、という実感が湧き上がりゆっくりと喜びに変わっていく。
「ありがとうアンジェリーク。」
「変なオスカー。お礼なんて。」
いつもの優しい笑みを浮かべてロイエンタールを見つめるアンジェリーク。
「いつも、おまえだけが俺に幸せをくれる。望んでも得られないと思っていたものをくれるんだ。」
そういって心から嬉しそうに、いとおしそうにアンジェリークを見つめた。
「オスカー、私も幸せよ。あなたが私に幸せをくれるの。」
昔の自分なら誰かを幸せにするなんて考えもしなかっただろう。
違う宇宙にいたたったひとりにめぐり逢えたことを奇跡のようだ、と心から思う。
「アンジェリーク・・・。愛している。」
臆面もなくそう言うロイエンタールにさすがに照れながらもアンジェリークは、
「私も誰より愛しているわ。」
この孤独な生い立ちの人に家族をつくってあげられたことを心から嬉しく思い微笑む。
そしてロイエンタールも自分に微笑みかけてくれるアンジェリークに嬉しそうに見つめる。
これからもずっと一緒に幸せになるのだ。新しい家族と共に。
今後二人の子供たちにロイエンタールは振りまわされていくのだが、それはもう少し先の話である。
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こちらも茉莉花猫さまからいただいた、ロイリモ小説です!!
妊婦編に続いての出産編!!
ロイエンタール、ますます悶々としてますね(笑)。
ロイエンタールのリモちゃん溺愛ぶりに対するベルゲングリューンの慣れ具合も可笑しくて。
しかもしみじみとしたシーンも盛り込んであり、ホントにすばらしい作品です。
双子の赤ちゃん、名前はどうなるんでしょう??
興味津々のまま、話は・・・続くんですよね、茉莉花さん!? 。
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