ロイエンタール&リモージュちゃん
(ロイリモお披露目編)




 アンジェリークと子供たちは、無事に退院し。
 愛する妻の発案による、『オスカーの同僚の皆さんに子供たちをお披露目する会』の日が、刻々と迫ってきていた。
 招待状はすでに渡しており、当然といっては当然だが、彼らの返事は全て「出席」であった(笑)。
 しかし、ロイエンタールは高をくくっていた。
 自分の子供まで生んだアンジェリークを、よもや奴らも懸想するようなことはなくなるであろう、と。
 しかし、それはとんでもない間違いであった、と、ロイエンタールは気付いてしまったのだ。



 意気揚々とロイエンタール邸にやってきた、かの提督たちは。
「皆さん、いらっしゃい。お久し振りです」
 元気良く迎えに出たアンジェリークに、以前と変わらぬ熱い眼差しを送り。
「フロイライン・リモージュ。この度は、ご出産おめでとうございます。しかし、貴女は相変わらずお美しい」
「ご出産おめでとうございます、フロイライン。これは、私の気持ちです」
 等とほざきつつ、なぜか薔薇の花束やらティーカップやら可愛らしいアクセサリーやらを、アンジェリークに捧げたりしているのであった。
(出産祝いなのだから、ベビー服などを持ってくればいいものを・・・)
 そう思い、苛立ちながら彼らを睨み付けて、ロイエンタールは言った。
「おい、おまえたち!子供まで生んだ女性に、フロイラインはないんじゃないか?」
「何をおっしゃいます、ロイエンタール元帥!フロイラインは何時までたっても、フロイラインです!!」
 訳の分からないことをミュラーが力強く訴え、メックリンガーとビッテンフェルトも賛同の意をしめした。
「ミュラーの言う通りですぞ、元帥。美しい方は、いつまでもその美しさを失わないものなのです」
「そうだ、そうだ!!」
 そして、皇帝・ラインハルトまでも、彼らの助勢をするのであった。何しろ、この麗しき彼らの皇帝は、ロイエンタールと提督たちがアンジェリークを巡って醜い争いをするのを見るのがマイブームらしく、ミュラー達をけしかけている部分さえあるのである。
「良いではないか、ロイエンタール。フロイラインはフロイライン。ミュラーの言や良し、だぞ。余も継続して、フロイラインと呼ばせてもらう。妻が何時までも美しいことを、卿は神に感謝するが良い」
「我が皇帝・・・」
 流石に皇帝には逆らえず、渋々とその場を引き下がる、ロイエンタールであった。
「とにかく皆さん、どうぞ私たちの子供を見てくださいね!」
 アンジェリークは自分を巡るドタバタにはすっかり慣れているので(というか、気付いていない、という説もある)、相変わらず微笑みながら、お客たちを子供部屋に招きいれた。
 二つの揺り籠の中で眠る二人の小さな赤ちゃんを見て、
「まあ、見てウォルフ!なんて可愛いのかしら!!」
 感嘆の声を上げたのは、ミッターマイヤー夫人・エヴァンゼリンであった。
「本当に可愛いな、ロイエンタール。おまえがうらやましいぞ」
 心底うらやましげに、ミッターマイヤーが言った。ミッターマイヤー夫婦には、子供が無かったのだ。
「で、名前はなんと言うのだ?」
 アンジェリークがニッコリ笑って、ロイエンタールをつついた。
「あなたから皆さんに、名前をご披露してちょうだい?」
 ゴホン、と咳払いをした後、ロイエンタールは重々しく宣言した。
「子供の名前だが・・・。男児の方は、クリスティル・ミカエル・フォン・ロイエンタール。女児の方は、レティシア・ガブリエル・フォン・ロイエンタールだ」
「ロイエンタール。なかなかいい名前をつけたではないか?」
「はっ、皇帝。恐れ入ります」
 ラインハルトからのお褒めの言葉に恐縮するロイエンタールであったが、次のアンジェリーク発言で、周りから失笑を買ってしまった。
「でも皆さん、聞いてください。最初、ロイエンタールったら、アンジェリオとアンジェリナにする、とか言ってたんですよ?あまりにも芸がないと思いません??」
「・・・・・・」
 一同沈黙の後・・・。
「ロイエンタール、おまえって・・・」
 ミッターマイヤーが吹き出したのを皮切りに、客人たちがひとしきり大笑いした。
 その笑い声に触発されたのか。
 揺り籠の中の二人の赤ん坊が、パッチリとその瞳を開き。
 ――――皆に向かって、ニッコリと笑いかけたように、見えた。
「あら、アンジェリーク!赤ちゃんが笑っているわ」
 エヴァンゼリンが、嬉しそうに叫んだ。
「男の子はロイエンタールに、女の子はアンジェリークに似ているんじゃないか?」
「それに、見て、ウォルフ!二人とも、何て綺麗な金銀妖瞳!!」
『女の子はアンジェリーク似』というミッターマイヤー発言に、かつてロイエンタールとアンジェリーク争奪戦を繰り広げた(最初から、勝負は見えていたのだが(笑))提督たちは、わらわらとレティシアの揺り籠に群がった。
「ホントだ!笑い方なんか、フロイライン・リモージュにそっくりだぞ!?」
「きっと、天使のような女性に育つのでしょうね」
「我々が童話の中に出てくる妖精なら、この美しい小さなフロイラインに、世界中の幸せを贈るのだが・・・」
 ロイエンタールが、彼らと揺り籠の中に割って入った。
「レティシアは、卿らになど渡さないぞ!!この子はアンジェリークのように美しくたおやかに育て、俺のような然るべき夫に嫁がせるのだ!」
 ムキになって言い募るロイエンタールを見て、アンジェリークは呆れたように笑った。
「いやーね、オスカーったら、親バカなんだから!今から結婚のことなんて心配してどうするの?」
「しかしだな、このような事は・・・」
「はいはい、分かりました」
 ロイエンタールを軽くあしらって、アンジェリークはクリスティルを抱き上げた。
「この子は、オスカーみたいな素敵な人に育てるのよ」
「フロイライン・リモージュも、親バカの素質を十分にお持ちだな?」
「あら、そう見えます、皇帝?」
 ロイエンタール邸は、華やかな笑いに包まれる。
 その様子を見て、メックリンガーが叫んだ。
「フロイライン・リモージュ!!」
「どうしました、メックリンガー提督?」
「今、ビビッと来たのです!美しい貴女たち母子を、是非この私に描かせていただきたい!!」
 言うが早いが、芸術提督、という異名を持つこの提督は、持ってきた荷物の中からイソイソと画材道具を取り出した。
「まあ、メックリンガー提督!!いいのかしら、高名な芸術家であるあなたに、肖像画を描いてもらえるなんて・・・」
「美しい物を描きたい、と思うのは、芸術家として当然の心です。ご心配なく。それでは、フロイライン。お子さんを抱いていただき、そのソファに腰掛けてください」
 指定されたソファに、アンジェリークはゆったりと腰掛けた。子供たちと一緒に。
「えー、では、俺も一緒に・・・」
 抜かりなく一緒の画に収まろうとしたロイエンタールであったが、メックリンガーから厳しい叱責を受けてしまった。
「ロイエンタール元帥は、いけません。画の清らかさが損なわれます。ここは是非、フロイラインとお子様たちだけでお願いします」
 ミュラーとビッテンフェルトが、その言葉に賛同するかのように、深く深く、頷いた。
 普段はロイエンタールの理解者であるはずのミッターマイヤー夫妻でさえ、納得の表情を見せた。もちろん、皇帝・ラインハルトも、メックリンガーと同意見のようであった。
 メックリンガーの言葉には多少の嫌がらせ精神が含まれていたのだが、芸術とは何とや、ということをほとんど解しないロイエンタールは、
(そういうものなのか・・・??)
 と、すごすごと引き下がらずを得ないのであった。
 そしてロイエンタール邸には、かの高名なエルネスト・メックリンガー作の家族の肖像画が飾られることになるのだが。その画には、何故か父親の姿が抜けていたという(笑)。
 しかしその理由は、その肖像画が描かれた日に、ロイエンタール邸にいた者たちにしか分からないのであった。
 なにはともあれ、子供を中心として、幸せそうなロイエンタールとアンジェリーク。
 ミュラー、ビッテンフェルト、メックリンガーは、幸せそうなロイエンタールを羨ましく思いつつも、これでロイエンタール邸を訪ねる新しい口実ができた、と、心の中で細く笑むのであった。



〜 子育て編へ続く(??) 〜



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ラ という訳で、お披露目編を書かせていただきました。
ロイエンタールが非常に可哀相な状態になっております。
これでいいのか、お父さん(爆)!?
やっぱり私は、お邪魔虫の提督たちを書くのが好きです(笑)。
そして、茉莉花様の子育て編が楽しみでごじゃります。




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