BECAUSE I LOVE YOU
聖殿へと続くいつもの通い慣れた道。
オスカーは愛馬を走らせながら、考え事にふけっていた。
最近、何かすっきりしない思いにとらわれているのだ。
それが何なのか、未だにつかめずにいることに、少しばかり苛立たしさも感じている。
爽やかな朝だというのに、こんな気持ちではきっと仕事にも身が入らないだろう。
オスカーは突然馬の向きを変えると、森の湖を目指した。
湖のほとりでしばらくのんびり過ごせば、気分も変わるかもしれない。
湖の近くの森に到着すると、馬の手綱を木にくくりつけ、オスカーは湖の方に進んでいった。
森を抜け、湖の側まで来たところで、突然びっくりしたような女性の声が聞こえた。
その声の方向を見ると、湖へと落ちる滝を背景にして、アンジェリークが立っていた。
よほど驚いたのか、翡翠色の瞳がこぼれ落ちんばかりに見開かれていた。
「お嬢ちゃん、こんなところで何をしているんだ?」
アンジェリークの姿を見て、オスカーも驚いた。
「わ、わたしは、あの、その・・・。」
しどろもどろになっているアンジェリークに、オスカーは言い方が少々きつかったかと思い、今度はなるべく優しく声を掛けた。
「俺は別にお嬢ちゃんを咎めているわけじゃないんだ。ただ、こんなところにお嬢ちゃんがいるとは思わなくて、少し驚いただけなんだ。」
オスカーの口調が優しくなったので、アンジェリークも安心したようだった。
「わたしも、ここにオスカー様がいらっしゃるとは思いもよりませんでした。」
微笑みながら話すアンジェリークはまるで天使のようだな、とオスカーは密かに思った。
その天使は、申し訳なさそうな様子で、
「わたし、今日はなんだか気分がすっきりしなくて・・・。それで、気分を変えたくてここに来たんです。でも、女王候補がそんなことじゃいけませんよね。もっとしっかりしなくちゃとは思うんですけど。」
確かにアンジェリークは少しばかり元気がないように見えた。
自分と同じような理由でここに来たのかと内心驚きつつ、オスカーはもっと詳しく話を聞こうと、木陰にアンジェリークを誘い、柔らかな草の上に腰を下ろした。
「お嬢ちゃん、何か悩み事でもあるのか?もしそうだったら、独りで悩み事を抱え込まないほうがいい。良かったら話してくれないか。」
オスカーの真摯な瞳に、アンジェリークは打ち明けることを決心した。
「こんなことを言うと、不謹慎なのかもしれませんが、でも、オスカー様には言ってしまいます。わたし、女王試験が終わってしまうのが嫌なんです。このままずーっと続けばいいなって思っているんです。試験はとっても大変ですけど、その分やりがいがあります。それに、オスカー様やほかの守護聖様たちが色々と助けてくださいますし、今はとっても充実していて、毎日が楽しいんです。その生活がもうすぐ終わってしまうと思うと、とても寂しくて、悲しくなるんです。」
悲しげに揺れるアンジェリークの瞳を見ると、オスカーの心も痛んだ。
「今が楽しいというお嬢ちゃんの気持ちは分かるが、いっそ気持ちを切り替えて、試験が終わった後の新しい生活のことを考えてみたらどうだ?今よりも充実した、もっと楽しい毎日になるかもしれない。そう考えたら、お嬢ちゃんの気持ちも楽になるんじゃないか?まあ、もしお嬢ちゃんが新しい女王陛下になったら、そんな悩み事を抱えている暇もないくらい、目が回るような忙しい生活になるかもしれないがな。」
「私が女王になったら・・・。オスカー様のおっしゃるように、きっと忙しくなるのでしょうね。そして、今のように気軽に守護聖様がたとお話できなくなってしまうのでしょうね。」
寂しそうにアンジェリークがつぶやいた。
その言葉を聞いた途端、オスカーは自分のもやもやとした気分の原因がなんなのかをようやく悟った。
それは、アンジェリークが女王になって、手の届かない存在になってしまうことを無意識のうちに恐れていたからだ。
彼女が女王になったら、気軽に話すことはおろか、その姿を見ることも稀になるかもしれない。
オスカーは改めてその現実を認識し、愕然とした。
そんなことは断じて受け入れることはできない。
アンジェリークのいない生活は、もはやオスカーには考えられないことだった。
オスカーが急にだまりこんでしまったので、アンジェリークはどうしたのかと、オスカーの顔を窺った。
すると、急にオスカーがこちらを向いた。
アイスブルーの瞳が、まっすぐにアンジェリークの瞳を見つめる。
「お嬢ちゃん、俺も実を言うと悩み事を抱えていたんだ。そして、それはまったくお嬢ちゃんと同じ悩み事だ。」
「私と同じ?」
「そうだ。さっきお嬢ちゃんにああ言ったものの、実は、俺も女王試験がこのままずっと続けばいいと思っている。お嬢ちゃんと一緒に過ごす時間は、今や俺にとってかけがえのないものになっているんだ。このままの生活がずっと続いて欲しいとは思うが、それが無理な望みということも俺は十分わかっている。試験には必ず終わりが来る。そして、お嬢ちゃんか、ロザリアのどちらかが女王になる。今の育成状況からすると、恐らくお嬢ちゃんが女王になることは確実だろう。だが、俺にはそれは耐えられない。お嬢ちゃんが女王になって、遠い存在になってしまうことは、絶対に嫌だ。
だから・・・。」
オスカーはアンジェリークの華奢な手を取り、握り締めた。
「女王試験を辞退して、ずっと俺のそばにいて欲しい。」
アンジェリークはオスカーの突然の申し出に驚いた。
しかし、すぐに驚いた顔は泣き顔へと変わった。
真珠のような涙がアンジェリークの頬を伝うのを見て、オスカーはうろたえた。
「お嬢ちゃん、俺は君を泣かせるつもりはなかったんだ。あんまり突然で、驚くのも無理はないな。だから、返事は今すぐでなくていいんだ。ゆっくり考えてから、返事をくれればいい。」
「いいえ、いいえ。」
アンジェリークは急いで言葉を継いだ。
「私が泣いているのは、嬉しいからです。確かに突然でびっくりしましたけど。でも、本当に嬉しいんです。信じられないくらいに。」
アンジェリークはにっこりと微笑んだ。
天使の笑顔だとオスカーは思った。
「今すぐお答えします。返事はもちろん『はい』です。だって、私は、ずっとオスカー様のことが好きだったんですもの。」
「お嬢ちゃん、本当なのか?」
「ええ、本当です。さっきだって、オスカー様にお会いしたいって、滝にお祈りをしていたんですよ。そしたら、オスカー様が本当に現れてびっくりしました。」
「お嬢ちゃんが俺と同じ気持ちだと知って、俺がどんなに嬉しいか分かってもらえるだろうか?」
オスカーはアンジェリークの肩を抱き寄せた。
「お嬢ちゃん、たった今から俺ひとりだけの女王になってくれ。俺だけのアンジェリークに・・・。」
アンジェリークは頬を染めながら頷き、オスカーの胸に顔を埋めた。
オスカーはアンジェリークをしっかりと抱きしめた。
もう二度と離さないと心に誓いながら・・・。
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お知り合いのマサさんにおねだりして書いていただいた、オスリモですv
マサさん、ありがとうございますv
嬉しいです、イエーイ!!
題名はふみふみがつけて良いというコトで、つけさせていただきました。
すっごくサワヤカなオスリモですよねvvv
初めてお書きになられたとは思えないほどの素晴らしいお話です。
オスカー様カッコイイですしvvv
(ふみふみが書くと、ギャグキャラですから(笑))
リモちゃんキュートですし♪
次は管理人が大好きな、クラリモとかジュリリモをお願いしたいですなぁ。
と、さり気なくおねだりしつつ。
本当にありがとうございましたvvv
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