Christmas




 アンジェリークの問いかけ眼差しに耐え切れず、ロイエンタールは言った。
「よし!では、ミュラー達を誘って、大々的にクリスマスパーティを行おう!!おまえの言う通り、大勢で賑やかに祝うのも楽しいだろうからな。アンジェリーク、準備を頼んで大丈夫か?」
「バッチリ任せて、オスカー!うーんと気合入れて、準備するわ♪」
(あんまり気合を入れなくてもいいぞ、アンジェリーク・・・)
 ロイエンタールは、心の中でそっと、そう思った。



 翌朝。
 コーヒーの芳しい香りで、ロイエンタールは目覚めた。
 隣で寝ていたはずのアンジェリークの姿が見当たらなかったので、彼は目をこすりつつ、洗面台に向かった。
 顔を洗ってリビングに行くと、
「おはよう。良く眠れた?」
 アンジェリークの笑顔が、ロイエンタールを優しく迎えてくれた。
「おはよう、アンジェリーク」
「朝食が出来てるわ。召し上がれ」
 可愛い妻から至れり尽くせりの扱いを受け、ロイエンタールはなんだか申し訳ないような気分である。
 世の夫たちは、こういう時、どのような態度を取るものなのだろうか?
今度ミッターマイヤーに聞かねばなるまい、と、しみじみと思うロイエンタールであった。

 ロイエンタールの出掛けに、アンジェリークは念を押す。
「ちゃんと皆さんを誘っておいてね、オスカー。約束よ?」
「・・・分かった。約束する」
「それじゃ、いってらっしゃい!」
 華奢な手をヒラヒラと振ってロイエンタールを見送る最愛の妻に、ロイエンタールは笑顔で出仕するのだった。
 そして、朝の謁見の後。
ロイエンタールは居並ぶ提督達を見回して、渋々言ったのだ。本当に嫌々だったが、彼女と約束をした以上、その約束は果たさねばならなかった。
「妻のアンジェリークが、クリスマスの日に卿らを誘って、クリスマスパーティを開きたいと言っていてな。良かったら、来て欲しい」
 提督達は、瞳をキラキラと輝かせて、答えたのだった。
「是非是非!伺わせていただきます、ロイエンタール元帥!!」
「アンジェリーク主催のクリスマスパーティか、ロイエンタール?ならば俺も、誘ってもらおうかな?」
「ミッターマイヤー!卿は、奥方と二人でクリスマスを祝うんじゃないのか?」
「エヴァとは、イブの日に祝っておくよ。俺も人数に入れといてくれ。頼んだぞ」
「・・・・・・」
 ロイエンタールは諦めたのか、ミッターマイヤーにはもう何も言わず、他の提督達に告げた。
「卿らも、他に約束があれば、無理して来る必要はないんだぞ?」
「いいえ、約束なんて、ありませんとも!」
「あったとしても、無視してそちらに伺います」
「他ならぬ、フロイライン・リモージュのお誘いなのだからな」
(ああ、やっぱり、誘うんじゃなかった・・・)
 絶望的な思いで、頭を抱えたくなる気分の、ロイエンタール。



 そして、クリスマスの日がやってきた。
 執務終了後、ロイエンタールの周りに、同僚がわらわらと集まってきた。
 皆そわそわして、頭を撫で付けてみたり、軍服についた汚れを払ったりと、忙しそうである。
「では、行こうか?」
 引率の先生のように彼らを引き連れて家に帰ろうとした、ロイエンタールに、
「ちょっと待ったぁ!!」
 そう、声がかかった。声の主は・・・彼らの皇帝である。
「ロイエンタール!フロイライン・リモージュ主催のクリスマスパーティに、余を呼ばないとは何事だ!?卿とフロイラインの中を取り持ったこの余を仲間はずれにするなど、酷いではないか?」
「仲間はずれなど、とんでもありません、我が皇帝」
 慌てて弁解に回るロイエンタールに、美しき皇帝陛下は極上の笑顔を見せて、嬉しそうに言った。
「それなら、余も連れて行ってもらおうか?」
「御意」
 かくして、ロイエンタール家に向かうメンバーに、豪華キャストが加わったのであった。

「だだいま」
 ロイエンタールが帰宅すると。
「皆さん、いらっしゃい!いつもロイエンタールがお世話になっております」
 アンジェリークが小走りに駆けてきて、皆を出迎えた。
「アンジェリーク!君は、相変わらず美しい!!」
 ミッターマイヤーが大袈裟に叫んで、アンジェリークを抱き寄せ、その頬にキスをした。
「まあ、ウォルフ様、お久し振りです」
 ロイエンタールが素早く、ミッターマイヤーとアンジェリークを引き離したと思ったら。
「フロイライン・リモージュ。お久し振りです」
 ミュラーがアンジェリークに真紅の薔薇の花束を捧げ、その手の甲に、口付けた。
 続いて、ビッテンフェルト、メックリンガーもアンジェリークに貢物を捧げ、恭しく手の甲に口付ける。
「こらっ、おまえ達っ!!」
 更に3人をアンジェリークから引き離している隙に、
「フロイライン・リモージュ!久し振りだな。ミッターマイヤーの二番煎じになるようだが、相変わらず花のように美しくていらっしゃる」
「まあ、皇帝までいらっしゃったのですか?大してお構い出来ませんけれど、どうぞお上がりください」
 ラインハルトまでが、アンジェリークを褒め称えるので、ロイエンタールは生きた心地もせず、客人たちを睨み付けた。
 そんなロイエンタールの様子を見たアンジェリークは、クスリ、と笑って、
「オスカー?ただいまのキスをしてくれないの??」
 その優しい言葉に救われたように、ロイエンタールは皆の前で、アンジェリークに重々しくただいまのキスをして見せた。
(どうだ!アンジェリークにただいまのキスが出来るのは、世界広しともいえど、この俺だけだっ!!)
 なんとなく自慢げに胸を張るロイエンタールを見て、ビッテンフェルトがアンジェリークに気付かれないように、小さく舌打ちした。

 客間は、クリスマス一色に飾り付けられていた。
 大きなクリスマスツリー。
 沢山のリースが壁に掛けてある。
 テーブルには、大きなクリスマスケーキと、七面鳥の丸焼きが載っていた。
 その他にも、様々な料理が。
「フロイライン、これは全部、あなたが準備したのですか??」
 ミュラーの問いかけに、アンジェリークは心配そうに尋ねた。
「はい。ちゃんとクリスマスっぽく仕上がってますよね?」
「もちろんですとも!!」
 客人たちは口を揃えて返答し、アンジェリークを喜ばせるのであった。
 その後、一見和気あいあいとした雰囲気の中で、クリスマスパーティは進行して行ったが。
 独身者の提督達は、アンジェリークの側に行こうと躍起であったし、ロイエンタールもそれに対抗して、躍起になっていた。
そんな様を見ながら、アンジェリークが皇帝ラインハルトとミッターマイヤーに話しかける。
「ロイエンタールったら、子供みたいで済みません。皇帝やウォルフ様にもご迷惑をおかけしているのではないですか?」
「いやいや。普段のロイエンタールは、あんなキャラではありませんからご安心を、フロイライン」
「ロイエンタールがムキになるのは、あなたに関してだけみたいだからな」
「それにしても、フロイライン。貴女の料理は絶品だ。ロイエンタールが羨ましい」
「まあ、皇帝陛下ったら!」
 3人のラブラブな雰囲気を敏感に感じ取ったのか、ロイエンタールが今度は、こちら側にものすごい勢いでやってきた。
「我が皇帝、ミッターマイヤー、楽しんでいただいていますか?」
「余は十分に楽しんでいるぞ、ロイエンタール(卿のうろたえ振りにな(笑))」
「アンジェリークの料理は最高だな、ロイエンタール!エヴァと同じぐらいの味だぞ!」
「それは、良かった」
 言うが早いが、ロイエンタールはアンジェリークの側にぴったりと寄り添い、囁いた。
「アンジェリーク!何もされていないだろうな!?」
「大丈夫よ。オスカーって、本当に心配性ね」
 言葉を交わしている間にも、
「フロイライン・リモージュ!女王陛下はお元気でいらっしゃいますか?」
「オスカーやランディは元気にしているだろうか?」
「リュミエール殿に、よろしくお伝えください」
 ミュラーやビッテンフェルト達が、アンジェリークに話しかけてくる。
「ええーい!卿らは散れ散れ!!」
 こうして、賑やかで楽しいクリスマスの夜が、更けていくのであった。


「オスカー、皆さん、お帰りになったわよ」
 ようやく帰る運びとなったお客たちを玄関先まで見送って。
 客間に戻ってきたアンジェリークはが見たものは。
 椅子にもたれかかって、ぐっすりと寝ているロイエンタールの姿だった。
アンジェリークを守るために死力を尽くしたロイエンタールは、疲れ果ててしまったのか、すやすやと安らかな寝息を立てて眠っていた。
「まあ、オスカーったら、ホントに子供みたいなんだから」
 寝室から毛布を持ってきて、ロイエンタールに掛けた後に。
 アンジェリークは優しく笑って、彼女の大好きなダーリンの頬にキスをした。
「メリークリスマス、オスカー」


 いい夢を見てね、ロイエンタール提督(笑)。






     
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