片想い
オーベルシュタイン元帥の恋
ある日。
帝国元帥、パウル・フォン・オーベルシュタインが宮殿の廊下を歩いていると。
ピンク色のフワフワとしたワンピースを身に纏った女性の姿が目に入った。」
女性の隣には、ナイルハルト・ミュラー上級大将。
まるで少年のようにはにかみながら、その女性をエスコートしている。
その様子に視線を走らせ、オーベルシュタインは眉を寄せた。
この宮殿内を、彼の知らない人間が歩くことなど・・・あってはならないことだった。
カツカツ。
静かに靴音を響かせながら、オーベルシュタインは静かに二人に近付いた。
「ミュラー提督?」
抑揚がなくやはり静かな呼びかけに、ミュラーと女性が振り返る。
女性は柔らかそうな金の髪と、優しい若草色の瞳を持っていた。
血色の良い頬は、薔薇色だ。
(なるほど、美しい女性ではあるな・・・ミュラーが骨抜きになるのも無理はない)
そう思いつつ。
女性に向かって形ばかりに頭を下げてから、オーベルシュタインはボソリと訊ねた。
「ミュラー提督・・・その女性はどなたかな?」
「この方は、ロイエンタール元帥の・・・」
ミュラーが答えようとした時。
「アンジェリーク!」
廊下に響き渡る、低く張りのある声。
その声の主・・・オスカー・フォン・ロイエンタール元帥を振り仰ぎながら、女性は優しく微笑んだ。
「オスカー!ミュラー提督から、会議中だと伺っていたけれど・・・?」
漆黒の髪を揺らしながら、ロイエンタールは脇目も振らずに駆けて来る。
ミュラーを押しのけるようにして女性の隣のポジションを確保し、ロイエンタールは爽やかに笑って見せた。
「会議?お前が来ているというのに、会議なんてやってられるか!すぐさまケリをつけてきた」
(一体何なのだ、ロイエンタール元帥のこの不気味な爽やか笑いは・・・?)
鉄面皮は、そのままに。
心の中でやや呆然としながら、オーベルシュタインはその場に立ち尽くす。
爽やか笑いで優しく女性を見つめた後。
ロイエンタールの視線が、オーベルシュタインに走った。
次の瞬間、彼は冷ややかに、意地悪く言う。
「卿はこんなところで一体、何をやっているのだ?俺のアンジェリークの側に近付かないでもらおうか。卿のいつも誰かを陥れようと企む性格の悪さと陰湿さがアンジェリークに伝染したら大変だからな!」
言いながら、ロイエンタールは女性の肩を抱き寄せようとしたが。
その手は、女性によって払い落とされた。
「オスカー・フォン・ロイエンタール!」
厳しい口調でフルネームを呼ばれ、ロイエンタールは驚きに目を見張る。
「アンジェリーク?」
「何て失礼なことを言うの!?今すぐにオーベルシュタイン元帥に謝りなさい!!」
ロイエンタールの金銀妖瞳が、更に大きく見開かれた。
オーベルシュタインもまた、驚いていた。
自分は、この女性に名前を名乗った記憶が全くないというのに。
何故、名前を知っているのだろうか??
「謝る?オーベルシュタインに、俺が??」
言葉を反復するロイエンタールに、女性は断固たる態度で続けた。
「そうよ。あんな言い方、失礼でしょう?オーベルシュタイン元帥だって、好きで嫌な役割を引き受けてる訳じゃないでしょうに。誰かがやらなければいけない事を、やってくださってるんじゃないの。それをあんな嫌味な言い方をするなんて!早く謝りなさい!!」
オーベルシュタインにとって、それは信じがたい光景であったが。
ロイエンタールが、子供のようにシュンと項垂れる。
そして、彼はオーベルシュタインに一言、こう言った。
「オーベルシュタイン、済まなかった・・・」
「・・・いや・・・」
オーベルシュタインが言葉少なに答えると。
なおも厳しくロイエンタールに視線を走らせてから、女性はオーベルシュタインに微笑みかける。
「ロイエンタールが大変失礼をいたしまして、申し訳もありません。初めまして、ですよね、オーベルシュタイン元帥?お噂はかねがね伺っておりますわ。私はアンジェリークと申します」
「俺の妻だぞ!」
牽制するように、ロイエンタールが付け加えた。
(そう言えば、結婚しました葉書が届いていたな)
ボンヤリとしながらそんな事に思いを馳せるオーベルシュタイン。
「オーベルシュタイン元帥がされているお仕事は、組織の中で誰かがしなければならない事。進んでその身に引き受ける元帥は、ご立派な方だと思います」
自分のやってきたことに対して、こんな風にフォローしてくれた人間は・・・彼女が初めてだった。
アンジェリークの背中に天使の羽が見えるような気がして、彼は目をしばたかせる。
「アンジェリーク!そんなに褒めるんじゃないっ、いらぬ誤解を招くだろう!?」
ロイエンタールの声を遠くに聞きながら、オーベルシュタインは黙って、アンジェリークを見つめた。
その若草色の瞳が優しい光を湛えて揺れる。
人妻である。
という事が分かっていながら。
オーベルシュタインの心は激しく波立った。
「どうぞお見知りおきくださいね」
最後にそう言って、彼女が春風のような微笑みを見せた時。
ズッキューン!!!
怪しい効果音がオーベルシュタインの心の中を走った。
悪戯なキューピッドが・・・オーベルシュタインの心をその矢で射抜いた瞬間であった。
〜 続く 〜
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久々の銀英パラレルです。
今回のテーマ(?)は、オーベルシュタイン元帥の横恋慕vvv
報われぬ愛に身を焦がす(爆)オーベルシュタイン元帥の笑える姿をご堪能ください。
今回は、プロローグみたいな感じなってしまいましたね〜。
次回から、また皇帝が面白がってオーベルを焚き付けます(笑)。
久々にお邪魔虫提督たちも書けると思うと嬉しいっ!!
一番好きなミュラーは既に登場させちゃいましたけどvv
つーワケで、気長に続きをお待ちください。
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