片想い
オーベルシュタイン元帥の恋 その2
アンジェリークは尚もにこやかに微笑みながら、オーベルシュタインに話しかけた。
「これから、皇帝にご挨拶に伺うんです。オーベルシュタイン元帥は、これからどちらへ?」
ロイエンタールがあからさまに、
『付いて来るなよっ!!!』
という表情をしたが、オーベルシュタインは構わずに返事をした。
「私も、皇帝に用が・・・」
実は皇帝に用事などは全くなかっが。
用事など、作ろうと思えばいくらでも作れる。
などと、日頃の彼に似合わぬことを思うオーベルシュタインであった。
「あら!では、ご一緒させていただいてもよろしいですか?」
「・・・ヤー」
こうして、普段は全く行動を共にする機会がないであろう4人が、同時に皇帝ラインハルトの元に向かうことになったのである。
「フロイライン・リモージュ!」
アンジェリークの姿を確認するや否や、ラインハルトは彼女に駆け寄ってその手を握りしめた。
「我が皇帝。恐れながら申し上げますが、アンジェリークはもう、フロイラインではありません!」
ロイエンタールが嫌な顔をしながらそう主張したが、お構いなしである。
「何を言っている、ロイエンタール。フロイラインは幾つになってもフロイラインだ!」
それからラインハルトはミュラーに視線を走らせた。
「ミュラー。フロイラインを連れてきてくれて礼を言うぞ」
「はっ」
ミュラーがビシイっと敬礼をする側から、アンジェリークがラインハルトに声をかけた。
「ラインハルト様?」
「ん?何だ、フロイライン??」
「私、オーベルシュタイン元帥にお会いするのは初めてです。ご紹介くださらないんですか?」
「うむ。では、余から紹介しよう。これが我が有能な軍務尚書、パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥だ」
「何度かこちらに伺っているのに、お会いするのは初めてです。もっと早くにご紹介いただきたかったのに!」
アンジェリークのその言葉を聞いて、
「おやおや!」
ラインハルトは、楽しそうに笑った。
「フロイラインは、オーベルシュタインがお気に入りかな?」
「あら!」
アンジェリークは頬をふくらませる。
「お気に入り、なんて元帥に対して失礼です!私はただ、ご尊敬申し上げているだけですわ!!」
ロイエンタールが、苦虫を噛み潰したような表情をした。
それを見て、ミュラーが困ったような顔になる。
オーベルシュタインの青白い頬は、ほんの少しではあるが、血色が良くなったように見えた。
そんな部下達を面白そうに眺め、ラインハルトはニヤリと笑った。
人が悪そうに。
「フロイラインは、相変わらず余を楽しませてくれる・・・」
「え?何か仰いました、皇帝??」
「いやいや、何でもないぞ!」
何でもないと言う割には、妙に嬉しそうである。
そして麗しい皇帝は、ヒラヒラと手を振り、皆に退出を促した。
「もう、行っても良いぞ。フロイライン、滞在中には、しばしば余に顔を見せに来るように」
「もちろんですわ!」
提出していく部下3人+部下の妻を見送りながら、ラインハルトはウキウキと思った。
(フロイラインを使って、余の提督達で遊ばせてもらうぞ!メックリンガー、ビッテンフェルトに、フロイラインが来たことを告げねばな。オーベルシュタインもフロイラインに好感を持っているようだし・・・楽しくなってきたな♪)
アントン・フェルナーのオーベルシュタイン元帥観察日記 其の一
パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥は、私の上司である。
元帥の仕事振りは、いつでも迅速かつ正確だ。
私は、元帥が仕事を滞らせたことを一度も見たことはない。
そんなオーベルシュタイン元帥であるが、今日は様子がおかしい。
朝の宮殿の見回りから戻られたと思ったら、一人で赤くなったり青くなったりしている。
元帥の顔色が青白いのはいつものことだが、顔色が赤いというのは私の元帥部下人生で初めてで、極めて貴重なワンシーンだ。
しかも落ち着かな気に、執務室をウロウロと歩き回っている。
これも、部下人生で初の体験だ。
一体、どうしてしまったのだ、オーベルシュタイン元帥は?
そう思う間も与えず、元帥は私に更なる驚きを与えてくれた。
なんと!元帥は、未決済の書類にろくろく目を通さず、印を押し始めたではないか!!
いつもは、しつこいぐらいに書類を審査するあの元帥が!!!!
どうして元帥がこのような状態になってしまったかは全くの謎であったが、後で我に返った時、絶対に今のご自分の行動を後悔するに違いない。
「オーベルシュタイン元帥?」
声をかけると、元帥の顔がゆっくりと私の方を向いた。
義眼が鈍い光を放った。
「・・・フェルナーか・・・いたのか?」
元帥が朝出勤された時点から、ずっといるのですが・・・。
そう突っ込みたい気分満載ではあったが、私は別の言葉を口に出した。
「閣下。僭越ながら申し上げます。本日の閣下は、書類審査が甘いように思われますが、如何でしょうか?」
「私はいつもどおりやっているつもりだが・・・甘く見えるか?」
いつもどおりなんて、とんでもない!甘いも甘い、甘々ですっ!!!
などとは、口が裂けても言えなかった。
元帥は、全く一体、本当にどうしてしまったのだろう?
私までおかしくなりそうだ。
後で誰かに相談してこよう。
そして私も、今日中に、必要な書類を出しておいた方が良いかも知れない(笑)。
〜 続く 〜
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
オベリモの続きです〜。
いつもと違う(笑)オーベルシュタインが書けて満足。
ロイエンタールがちょっと抜けてますが・・・。
どんまい、自分!!
今後は、フェルナーがラブ元帥を観察していくコトに(笑)。
オーベルシュタイン元帥、早く正気に戻ってフェルナーを安心させるように!
って、変にしてるのは私だネ!
ブラウザを閉じてお戻りください。