片想い
オーベルシュタイン元帥の恋 その3




 翌朝。
 出仕した来た人々の中に、ロイエンタールの幕僚であるベルゲングリューンを発見し、フェルナーは彼を呼び止めた。
 良識派で知られるベルゲングリューンならば、真面目にフェルナーの悩み(オーベルシュタイン元帥の奇行について)を聞いてくれそうな気がしたからだ。
 他の面々に相談したが最後、
 『どうせ何か悪いものでも食べたのだろう』
 などと言われるのがオチだった。
 かいつまんでオーベルシュタインの状態を説明すると。
 腕を組んで考え込んだ後、ベルゲングリューンは言い辛そうに言葉を発した。
「オーベルシュタイン元帥は、恋をされているのではないか?」
「こっ、恋!?あの元帥がっっ!?!?」
 フェルナーが思わず絶叫すると、ベルゲングリューンは苦笑した。
「卿から聞いた元帥の様子にも驚きだが、卿がそんなに取り乱す様も、初めて見るな」
 言われて、フェルナーは我に返った。
「いや、これは失礼・・・。しかし何故、閣下が恋をしていると思われるのだ?」
 ベルゲングリューンは、遠い目をした。
「ロイエンタール元帥が奥方と出会ったばかりの頃、ちょうどそんな状態だったのだ。あの時は本当に大変だった。何を伺ってもさっぱる要領を得ないし、私は本気で困ったものだ・・・」
「それは・・・心中お察しする」
 とりたてて仲が良いという訳でもない(というか、ほとんど面識なし)この二人であったが。
 今、二人の間に、奇妙な連帯感が生まれつつあった。
「とにかく!」
 ベルゲングリューンが、フェルナーの肩を励ますようにして叩いた。
「恋の病を治してくれるのは、時間かその相手だけだ。オーベルシュタイン元帥が、一刻も早く通常の状態に戻られるよう、この私も心から祈ろう」
「・・・感謝する」
 あのオーベルシュタイン元帥が恋など・・・。
 と、半信半疑のフェルナーだったが。
 オーベルシュタインの朝の見回りに追従した際に、その言葉が事実である、ということを嫌というほど思い知らされることになる。



アントン・フェルナーのオーベルシュタイン元帥観察日記 其のニ

 ベルゲングリューンの言ったとおりだった!
 元帥は、恋をしている!!
 私は未だに信じられない思い(というか、信じたくない)だが、これは、紛れもない事実だ。
 しかも、相手が悪すぎる。
 ロイエンタール元帥の奥さんやんけっ!ズビシィッ(←ツッコミの音)!!
 ・・・あまりのことに、思わず取り乱してしまった。
 この私をこれほど狼狽させるとは、流石はオーベルシュタイン元帥だ。
 やることが、常人とは違う。
 などと感心していないで、早速本題に入ろう。

 元帥の夢うつつ状態の原因がハッキリと分かったのは、今朝のことだった。
 朝の見回りの供をしている時に、事件は起こった。
 見知らぬ女性が、宮殿内を歩いていることに、私は気付く。
 元帥もその人物に気付いたのだろう。
 静かに靴音を立てながら、女性に近付いて行った。
「あら、オーベルシュタイン元帥!」
 元帥に気付いて、女性は朗らかに笑う。
 二人は知り合いなのか!?
 と驚く間もなく、更なる驚きが私を襲った。
「フラウ・ロイエンタール?」
 元帥は優しく(!!!!)その女性に声をかけたのだ!
「ロイエンタール元帥とご一緒では?」
「ロイエンタールは、大切な打ち合わせとかで、今日は留守にしておりますの。私は、皇帝にご挨拶に」
 私は、信じられない様を目撃した。
 元帥は、少年のように恥じらいながら、彼女に言ったのだ。
「皇帝への謁見を希望されるなら、私もお付き合いしましょう。その後、もし宜しければ、お茶でもご一緒していただければ・・・」
 元帥が、女性をお茶に誘っているぅ~っ!?!?!?!?
 エクスキュラメーションマークやクエスチョンマークでは到底表現しきれないこの驚き。
 私のこの驚きを、一体誰が察してくれるだろう?
 そんな私の驚きを他所に、女性は無邪気に喜んでみせる。
「まあ!元帥とご一緒させていただけるなんて、光栄ですわvvv」
 なんとまあ、根性の据わった女性なのだろう。
 元帥とお茶なんて、私だっていささかの緊張感を伴うというのに(というか、ほとんど誘われない)。
 それを、光栄vなどと、ハートマーク付きで喜ぶとは!!
 目の前の光景が信じられず、呆然と立ちすくむ私に、元帥はチラリと視線を走らせた。
「フェルナー」
「はっ、はいっ!?」
「私はしばらく、このご婦人の供をしてくる。卿は先に、執務室に戻っているがよかろう」
 ・・・要するに、私は邪魔である、というワケだった。

 私はそのまま執務室に戻ったが、昼頃にようやく執務室に戻ってきたオーベルシュタイン元帥は、奇妙を通り越して不気味だった・・・。
 頬の血色はよくなり、絶えず微笑んでいる。
 あの元帥がっ!!
 笑顔など、年に2・3回見られればいいぐらいに、普段は笑わない、あの元帥がっ!!!
 その時には、私は知っていた。
 あの女性が、ロイエンタール元帥の奥方だという事を。
(閣下!この恋ばかりは、例え天地がひっくり返ろうと、叶うことはないと思います!!)
 そう言いたかったが、幸せそうな元帥に、そんな残酷なことは到底言い出せなかった。
 私は、ため息をついた・
「どうした、フェルナー?何か悩み事か?」
 元帥が優しく問いかけてくれる。
 私は、天を仰いだ。
 ああ、神よ!
 私は一体、どうすればいいのでしょうか?


~ 続く ~




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久々銀英パロですvフェルナーが、かなり原作と性格が変わってしまいました・・・。
つーか、フェルナー可哀想・・・(涙)。
これから元帥がますます浮ついてしまう様を見ないとだよ・・・。
次回辺りから、ビッテンやメックも登場させます~vvv




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