片想い
オーベルシュタイン元帥の恋 その4
「はあ??」
皇帝ラインハルトの私室に呼び出されたウルリッヒ・ケスラーは、一瞬固まった。
入室してきたケスラーの顔を見るやいなや、彼の皇帝はサワヤカに微笑みながら告げたのだ。
「ケスラー。卿に、フロイライン・リモージュを招いての晩餐会の主催を勤めて欲しいのだが?」
ハッキリ言って、ケスラーはそのような仕事が大の苦手だった。
そして、ラインハルトもそれを知っているはずであった。
「我が皇帝。恐れながら申し上げますが、その役目は小官には荷が思いと存じますが?」
ケスラーが答えると、ラインハルトは微笑を絶やさぬまま説得モードに入ってきた。
「いいか、ケスラー。良く周りを見回して欲しい。この役をミュラーやメックリンガーに任せてみろ。国庫の財産を使い果たされるのがオチだ。このような仕事はロイエンタールが得意そうだが、アレはフロイラインを招いての晩餐会など絶対に許さないだろうし、ミッターマイヤーもフロイラインにはベタ甘だ。他の提督達も妙に浮き足立っているし、まあ、オーベルシュタインまでがボーっとしているのだから、無理もあるまい。そんなこんなで、ケスラー。卿が選ばれたわけだ。分かってもらえたか?」
もはや、皇帝に何を言っても無駄である。
聡いケスラーはそう察し、大人しくこの仕事を受ける事にした。
「御意・・・」
ガックリと肩を落としながら去り行くケスラーの背中に、ラインハルトの上機嫌な声が飛んだ。
「それでは、よろしく頼むぞ。このようなことは、奥方が詳しかろう。意見を聞くがいい」
「そのようにいたします・・・」
数日後、オスカー・フォン・ロイエンタール元帥は、晩餐会の招待状を手に握り締め、皇帝の前でプルプルと震えていた。
「皇帝!これは一体、どういうコトです!?」
「どうもこうも、フロイライン・リモージュを招いての晩餐会を開くのだ。フロイラインに喜んでもらえるような素晴らしい会にするぞ!!」
「皇帝っ!!」
絶叫するロイエンタールに、ラインハルトはわざとらしく耳を塞いで見せた。
「なんだ、やかましい。卿は一体、何が不満なのだ?いつもフロイラインを独り占めしているのだから、たまには余達と一緒に食事をさせてくれても良いではないか」
「・・・良くありませんっ!」
力強く答えるロイエンタールに向かって、ラインハルトはヒラヒラと手を振って見せた。
「卿の言い分は分かったが、晩餐会は決行するぞ。嫌なら卿は来なくて良いからな。ま、フロイラインは、来てくれると言っていたので卿が来なくても、余としては全く構わないぞ」
負けた・・・。
ロイエンタールは、そう思った。
この皇帝に、勝てるわけがないのだ。
すごすごと皇帝の御前を退出するロイエンタール。
先日のケスラーと同様に、彼の背中にも哀愁が漂っていた・・・。
アントン・フェルナーのオーベルシュタイン元帥観察日記 其の三
オーベルシュタイン元帥宛てに、皇帝名で、フラウ・ロイエンタールを招いての晩餐会の招待状が来た。
最初は何の招待状が分からず、不機嫌そうな手つきで招待状の封を切った元帥だったが、一瞬にしてその表情は晴れやかなものに変わった。
「フェルナー」
なんだか、声まで華やいでいる・・・。
「フラウ・ロイエンタールを招いての晩餐会の招待状だ。出席の返事をしておくように」
「は。確かに」
出席の返事をしたためながら元帥の様子を伺い見ると、明らかに心がどこか別世界に飛んでいる。
上の空で書類審査をする元帥の姿に、私は思わず涙が出そうになった・・・。
なんという不幸な方なのだろう。
よりによって、人妻に想いを寄せなくとも・・・。
「フェルナー」
「はっ。どうかいたしましたか?」
「晩餐会には、何を着ていけばいいのだろう?」
・・・・・・。
元帥が、あの元帥が、晩餐会に来て行く服の心配などっ!!!!
「現在お召しになっている、軍服でよろしいのでは?軍服はフォーマルな衣装ですから」
そう答えると、元帥は少しだけ残念そうな顔をした。
「そうか・・・。言われてみればそうだな」
元帥!貴方は一体、どのような格好をして晩餐会に臨もうとしていたのですか?
突っ込みたい気分満載だったが、元帥があまりにも気の毒なので、私はそれを断念した。
元帥が本日決裁した書類には・・・印の押し漏れがたっぷりとあった。
その書類を元帥に差し出し、印をもらいながら、私は途方に暮れた。
いつまでこの状態が続くのだろう・・・??
・・・それは、神のみぞ知ることだった。
そして、アンジェリークのための晩餐会の日がやって来た。
ウキウキと部下達を迎え入れるラインハルトの手には、くじ引きの箱がしっかりと持たれていた。
「席はくじで決めるぞ。ただし!ロイエンタールには、フロイラインから一番離れた席に座ってもらう。いつもフロイラインの一番近くにいるのだし、それが当然だろう?それと、フロイラインの隣の席のうちのひとつは、余の指定席だ♪」
「皇帝!横暴ですっ!!!」
ロイエンタールが抗議したが、聞き入れられるはずがなかった。
「どいてくださいよ、ロイエンタール元帥!」
「そうだ、そうだ!我々はくじを引くのだからな」
憮然とするロイエンタールの肩を、ミッターマイヤーが宥めるように叩いた。
「いいじゃないか。ロイエンタール」
「そうよ、オスカー。いつまでも子供じゃあるまいし、少しは慎みなさい!」
アンジェリークからも叱られて、ロイエンタールはシュンと萎れた。
フワリとしたピンクのドレスを身にまとったアンジェリークは、ひどく愛らしく見え、ロイエンタールはそのことにも不満を漏らした。
「それはそうと、アンジェリーク・・・。どうしてそんなに可愛い格好をしてくるんだ!?ダメじゃないか!」
「何言ってるの?皇帝陛下からのお呼びなのよ。これでも足りないぐらいだわ。あなたって、時々本当におかしいわね・・・」
最愛の妻からけちょんけちょんに言われ、ロイエンタールは凹んだ。
その間にも、くじ引きは続く。
提督達は次々にくじを引いていくが、誰一人として、アンジェリークの隣の席を確保することが出来なかった。
全ての提督が席に着いたが、アンジェリークの左隣の席はぽつねんと空いている。
「・・・遅れまして、申し訳ありません・・・」
そこに遅れて登場したオーベルシュタイン。
ラインハルトはひどく嬉しそうに、彼の優秀な提督に話しかけた。
「オーベルシュタイン。残り物には福がある、とは良く言ったものだな?フロイラインの左隣が卿の席だぞ」
実は、ラインハルトはくじに細工をしていた。
くじの中に、アンジェリークの左隣の席を入れておかなかったのだ(笑)。
そしてラインハルトは、オーベルシュタインが遅刻をするように手段を講じたのだった(例:仕事の山を押し付けて、すぐにやれ、と命じる等)。
普段血色の悪いこの元帥の頬が仄かに上気する様を、その場に居合わせた提督達は見てしまった。
(新たなるライバル出現か!?)
人妻を捕まえて、ライバルも何もあったものではない。
そして、ラインハルトは忍び笑いを漏らした。
(よーし!今日も楽しく遊ぶぞ〜♪)
そして、波乱に満ち溢れるであろう晩餐会が、幕を開けた。
〜 続く 〜
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すっごく久々の更新でスミマセン。
オーベルシュタイン元帥には、もう行くとこまで行ってもらいますっ!!
つか、この話がいつどんな風に完結するのか、自分でも良く分かってなかったり(笑)。
書いているうちに、何とかなるでしょう(ちょっと無責任?)。
次回は、皇帝のお楽しみタイムです。
フェルナーの日記はお休みかな?
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