片想い
オーベルシュタイン元帥の恋 その5




 ラインハルトはニコニコと、彼の提督たちを見回した。
「皆、良く集まってくれた。今日は余が妹のように思っている、フロイライン・リモージュを招いての晩餐会を執り行う」
「今は、フラウ・ロイエンタールですっ!!」
 遠く離れた席からロイエンタールが訂正したが、その訂正はものの見事に無視された。
「今回の晩餐会の手筈は、全てケスラーが整えてくれた。礼を言う」
「恐縮です」
 ケスラーが、ラインハルトに向かって丁重に頭を下げた。
「そしてフロイライン・リモージュには、お忙しい中出席いただき、感謝する。良かったら、余の提督たちに声をかけてやって欲しいのだが・・・」
 カタリと椅子から立ち上がり、アンジェリークは層々たる面々を見回した。
「本日はお忙しい中、私のためにお集まりいただき、ありがとうございました」
 愛らしい声に、提督たちの多くがポーっとした表情になった。
 その様子を観察して。
 楽しいっ!楽しすぎるぞっ!!
 ラインハルトは、胸の内でムフフと笑ったが、
「卿らも色々と聞きたいこともあるだろう。今日は楽しく過ごそうではないかvvv」
 浮かれ具合は隠しようが無く、その語尾にはハートマークが飛んでいるのだった・・・。



 料理が運ばれてきた。
 ひらり、ひらりと優雅に可愛らしく、アンジェリークは料理を口元に運ぶ。
 そんなアンジェリークの姿を見て、メックリンガーは思った。
 昔、本で読んだワンシーンのようだ・・・。
 しかし、何の本だったかを思い出せず。
 料理そっちのけで、メックリンガーは考えたが、どうしても本の題名が思い出せなかった。

 メックリンガーが考えている間に、アンジェリークの周りにいる提督達は、彼女を質問攻めにしていた。
「ご趣味は?」
「お散歩、お昼寝、お菓子作り、ですわ」
 お菓子作りか・・。
 その答えを聞いたミュラーは、エプロンを付けてお菓子を作るアンジェリークの姿を想像し、ホワホワと幸せな気分になった。
「フロイラインが作った菓子を、余は是非食べてみたいぞ。そうだろう、ミュラー?」
 ラインハルトに声をかけられたが、ミュラーにはその声が聞こえていなかった。
「ミュラー?」
「はっ、はい!?」
 ハッと我に返ったミュラーは、彼の皇帝に、返事だけはしっかりと返した。
「一体、何をボーっとしているのだ?フロイラインに見とれているのか?ん??」
 歳若いミュラーは、ラインハルトにからかわれ、可哀想なぐらいに赤くなった。

「フロイライン、お好きな食べ物は?」
 ビッテンフェルトの質問に、
「ケーキと美味しい紅茶ですvvv」
 嬉しそうに答えてから、アンジェリークは小首をかしげた。
「美味しい紅茶といえば・・・。先日、オーベルシュタイン元帥に連れて行っていただいたお店の紅茶は、とっても美味でしたわvそうですわね、元帥?」
 イキナリ話を振られ、オーベルシュタインは思わず、ナイフを取り落としそうになった。
 質問者のビッテンフェルトは飲みかけのワインを噴き出しかけ、慌ててナフキンで口元を覆った。
 オーベルシュタインやビッテンフェルトだけでなく。
 居並ぶ提督たちも動揺を隠し切れなかった。
 水色提督の異名を持つファーレンハイトが、視線を宙に泳がせた。
 ミュラーは動揺のあまり椅子から転げ落ちそうになるし、メックリンガーは自慢の口髭を強く引っ張りすぎて涙目になった。
 そして、ロイエンタール。
「アンジェリーク!オーベルシュタインと茶を飲んだだと!?俺は聞いてないぞ!!」
 アンジェリークは、悪びれた様子も無く、言い放った。
「あら。ちゃんと言いました!私が『今日はオーベルシュタイン元帥と・・・』って言ったら、あなた、『分かった、分かった!』って答えたじゃないの。分かってたんでしょう?」
 ロイエンタールが、頭を抱えた。
 ラインハルトはテーブルに身を乗り出して、オーベルシュタインを小突いた。
「やるではないか、オーベルシュタイン!フロイラインを誘ってお茶をしたとは!!」
 オーベルシュタインは、石化寸前の状態で、可哀想にラインハルトに返事をすることも出来なかった。
 頬に赤みが差し、カチコチに固まっているその姿から、いつもの鉄面皮を想像することは難しかった。
「ん?どうした??何か言うことが無いのか、オーベルシュタイン??」
 カラカラと楽しそうに、ラインハルトは笑う。
 その姿は・・・実に、生き生きとしていた。
「私が退屈していたから、元帥は気を遣ってくださったんですわ」
 天使の笑顔で、アンジェリークはオーベルシュタインに微笑みかける。
「またご一緒させてくださいね、オーベルシュタイン元帥vvv」

 何故、フロイライン・リモージュがこんなにもオーベルシュタインの肩を持つのか?
 そんな雰囲気が、場に広がった。
 その空気を敏感に察したアンジェリークはニッコリと提督たちを見回したが、その視線は笑ってはいなかった。
「良い機会ですから、皆さんに申し上げておきますわ。私は、オーベルシュタイン元帥を尊敬しています」
 更なる衝撃が、ラインハルト自慢の提督たちを襲った。
 百戦錬磨の強者達が、あまりのショックに、一斉に青ざめた。
 何故、フロイライン・リモージュが!?何故なんだ〜!?
「組織を維持するためには、誰かが嫌われ者の役割を引き受けなければなりません。その役割を務めていらっしゃるのが、オーベルシュタイン元帥ですわ。周りから嫌われる、ということが分かっていながらもご自身の役割をしっかりと果たす。そのお姿を尊敬しているんです」

 確かに、世の中綺麗事だけでは済まない部分がある。
 その綺麗事では済まない部分を。
 オーベルシュタインは、当たり前のように自分で引き受けてきた。
 ・・・自分達から嫌われる、ということが分かっていながら。
 シュンと肩を落とす提督たちに、アンジェリークは優しく微笑みかける。
 今度は、瞳も優しかった。

 一方、アンジェリークの隣で、オーベルシュタインは、感動していた。
 本当に、この女性はなんという優しい人なのだろうか。
 どうしてこんなに、他人の心を思いやれるのだろうか??
 人妻であることは分かっていた。
 この女性に対する自分の気持ちが、叶わぬ想いであることも。
 けれども、好きだと思った。
「そろそろ、デザートの頃合だな。フロイライン、好きなだけ召し上がるが良い」
 場の雰囲気を和ませるように、ラインハルトがアンジェリークに声をかけた。
 先ほどの厳しい雰囲気とは一転して、アンジェリークは朗らかに笑った。
「はいvたーくさんいただきますvvv」



 アンジェリークはその後は上機嫌で、提督たちの相手をした。
 ラインハルトも負けず劣らずに機嫌よく、彼の提督たちを存分にからかい、存分に笑ったのだった。
 そして晩餐会は、和やかな雰囲気で終わりを告げた。


〜 続く 〜




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部下で遊ぶ皇帝と、ちょっぴり厳しいリモちゃん。
動揺する提督たち。
短いですが、書きたいことを書きました(笑)。
次回は多分、最終回です。
恋は叶いませんが、オーベルシュタイン元帥にとって、
きっとハッピーな終わりになると思います。



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