キラキラと輝く金の髪が、目の端に映る。
 眩いばかりの光を辺りに振り撒きながら、少女は歩いていた。
 若草色の瞳に、様々な色を浮かべながら。
「アンジェリーク」
 背後から少女の名前を呼ぶと。
 華奢な肩がピクリと反応し、
「じゅっ、ジュリアス様!?」
 彼女は直立不動の姿勢でジュリアスを振り仰いだ。
 その姿に、思わず苦笑してしまう。
「そう硬くならずとも良い。今日はお互いに、休日ではないか」
 そう言うと、アンジェリークは直立不動の姿勢のまま、元気に返事をした。
「はいっ!!」
 ジュリアスの頬に、笑みが浮かぶ。
 少女の明るく元気な姿に、ジュリアスは好感を持っていた。
「ところで、そなたは一体、何をしているのだ?一人なのか?」
 立て続けに質問を投げかけると、アンジェリークは困ったように首を傾げた。
「今日はロザリアは用事があって、だから一人なんです。ウィンドウショッピングがてら、ケーキでも食べようかな、って思って・・・」
「ふむ・・・」
 ジュリアスは、腕を組んだ。
 今日は、飛空都市の街の人々の様子を視察に、というのが本当の目的だったが。

 この女王候補について知る、良い機会かも知れぬ・・・。

 などと自分に都合よく言い聞かせ、ジュリアスはわざとらしくならないよう気をつけながら咳払いをした。
「アンジェリーク」
「はい?」
「そなたさえ良ければ、この私が一日付き合おう。女王候補の休日の生活を知る良い機会だ」
 パッと、アンジェリークの表情が輝いた。
 頬に赤みが差すその様に、胸がキュッと締め付けられるような気がして。
 ジュリアスは幾分、戸惑った。
「そなたが行きたい場所に私を連れて行くが良い。何処にでも付き合ってやろう」
 ジュリアスを見上げながら、アンジェリークは嬉しそうにニコニコと笑い。
「はいvよろしくお願いします!!」
 やっぱり元気に、返事をした。
「で?」
 促すと、アンジェリークはキョトンとした表情でジュリアスを見上げた。
「はい??」
「そなたは何処に行きたいのだ?」
 重ねて尋ねると、アンジェリークは少し考える仕草を見せた後、
「ケーキ屋さんに行きましょうvジュリアス様がお嫌でなかったら」
 そう言って、また笑った。



 アンジェリークに連れて行かれるがままに、可愛らしい作りの店の中に入った。
 メニューと真剣に睨み合うアンジェリーク。
 なんて表情の豊かな少女なのかと思う。
 笑ったり、泣きそうな顔をしたり。
 頬を膨らませたり。
 こうして、ケーキのメニューと睨み合いをしたり。
 考えに考えた末に、アンジェリークはケーキを二種類と、紅茶を頼んだ。
 ジュリアスは、エスプレッソを。
「ジュリアス様、ケーキは召し上がらないんですか??」
 ひどく不思議そうに聞かれ、ジュリアスは苦笑しながら答えた。
「好んで食べるほどではないからな」
「とっても美味しいのに・・・」
 アンジェリークは少し不満そうではあったが、大人しく引き下がった。

 ウェイトレスがテーブルの上に、ケーキと紅茶のポットを並べる。
 アンジェリークはキラキラと瞳を輝かせながら、その様子を眺めていた。
 白いティーポットとティーカップ、そして、愛らしい色や形をしたケーキは、目の前の少女にとても似合っているように、ジュリアスには思えた。
 軽やかな仕草でカップにお茶を注ぎ、その香りに、アンジェリークはうっとりとした表情になった。
「はぁぁ〜vいい香り〜vvv」
 そしておもむろに、ケーキにフォークを突き刺し、口元に運ぶ。
 小さな口元から、満足そうな吐息が零れた。
「お、美味しい〜vvv」
 エスプレッソを味わいながら、ジュリアスは蒼の瞳を細め、アンジェリークを見つめる。
「ケーキといっても、様々な色や形があるのだな・・・。そなたのような年頃の娘は皆、このようなケーキが好きなのか?」
 尋ねると、アンジェリークはニッコリと微笑んだ。
「大部分の子は、好きだと思いますよ。中には苦手な子もいるでしょうけど。少なくとも、私は大好きですっ!!本当に美味しいんですよ!ジュリアス様も是非、召し上がってくださいっ!!」
 ケーキを愛しげに見つめながら、アンジェリークは真剣に力説する。
 その様子に、ジュリアスの口唇から笑みが零れた。
「フ・・・」
「あ、ジュリアス様、笑ったりなんかなさって!!ひどい、私は真面目にお話しているんですよ!?」
「分かっている。・・・そなたのそのような態度が好ましくてな。笑って悪かった」
「ホントのホントに美味しいんですから!!」
 主張しながら、アンジェリークはフォークにケーキを乗せて。
 ジュリアスに差し出した。
「ジュリアス様も一口召し上がってくださいvvv」
 自分でも信じられないことではあったが。
 言われるままに口を開き、ジュリアスはパクリとケーキを食べた。
「美味しいでしょ?」
 満面の笑みで尋ねられ、ジュリアスは答えた。
「うむ。なかなか美味だな・・・」
 その言葉に、アンジェリークはパッと花が開くようにして、笑った。
「そうですよね〜vvv」

 ジュリアスがエスプレッソのカップを2杯ほど空にしたタイミングで、アンジェリークはケーキを食べ終わり、最後の紅茶を美味しそうに飲んだ。
「はぁぁぁ〜v」
 口元から零れたのは、ひどく満足そうな声。
「もういいのか?」
 ジュリアスが問うと、アンジェリークはコクリと頷いた。
「はいv」



 自分が食べた分は自分で払うなどと、とんでもない事を言うアンジェリークを睨みつけて凍らせ、その間に、ジュリアスはケーキ屋の会計を済ませた。
 店を出ると。
 道を歩く人の数が増え、街には、人が溢れているように見えた。
 ともするとジュリアスから遅れがちになるアンジェリークを振り向き。
「アンジェリーク」
 手を、差し伸べる。
「人が多くなってきた。そなたが嫌でなければ、私の手に掴まるがよい」
 若草色の瞳が、優しく輝き。
「ありがとうございます、ジュリアス様」
 白くほっそりとした指が、ジュリアスの手をキュッと握った。
 ドキリと。
 心臓が一瞬、一際高く音を立てたような気がしたが。
 ジュリアスは素知らぬ風を装い、アンジェリークに声をかけた。
「はぐれぬようにな」
「大丈夫ですよ。ジュリアス様がこうして、手を繋いでくださってますからv」
 嬉しそうな声。
 ジュリアスは思わず、握っている手の力を強めた。
 自分でも、どうしてそうしたのかが分からないまま。
 そして、アンジェリークの手を引いたまま、歩き出した。
「次は何処に行きたいのだ?」
「本屋さんに行きたいですv」
「分かった」
 ジュリアスは、次の目的地へと歩いた。
 アンジェリークと二人。
 手を、繋いだまま。
 アンジェリークの手を握っている右の手が、まるで、熱を持っているかのように熱く感じられる。
 それでも、アンジェリークの手を離すことはせずに。
 心臓が絶え間なく高い音を立てるのを感じながら、歩いた。

 チラリとアンジェリークに視線を向けると。
 目と目がぶつかり、アンジェリークは極上の笑顔でジュリアスに微笑みかけ。
その笑顔に、ジュリアスの頬にも自然と。
 笑みが浮かんだ。



〜END〜

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竹内じゅん様から、48000でキリ番リクエストいただきました。
『ジュリリモで、女王候補時代でまだ想いを伝え合ってない二人だけど、
ふとしたことで手を繋ぐことに・・・という甘いお話』
というお題を頂戴いたしました〜。
竹内さまからご許可をいただいたので、当サイトでもアップさせていただきました。
竹内さま、リクエストありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願いいたしますvvv




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