GAME(中編)
5 いよいよ開幕!運動会
そして、運動会の当日がやってきた。飛空都市はいつもどおりの晴天で、絶好の運動会日和である。
ディアの厳しい指導の下でリハーサルも何とかこなし、守護聖達は今日という日を迎えていた。
飛空都市大運動場は、もう、満席である。東京ドームなら、観衆5万人と発表されることであろう。
会場に女王陛下の姿はなかった。が、
「今回の運動会の模様は、完全生中継で女王執務室に届けられることになっていますからね」
ということで、守護聖達は頑張らざるを得ない状態なのだった。
そんな中、運動場の中央に、白いシャツに赤い蝶ネクタイ、黒いズボン姿のランディが登場した。
「皆さん、こんにちは!本日は『飛空都市でGO!守護聖様大運動会!!』においでいただき、ありがとうございます。今回、司会進行を務めます、風の守護聖ランディです。至らないところもあるかと思いますが、一日よろしくお願いします!」
大きな拍手の音に、ランディはホッと胸をなで下ろした。
(この調子で行くぞ、俺っ!)
「それでは、守護聖達の入場です!!皆さん、拍手でお迎えください」
観客席からの大歓声をバックミュージックに、守護聖達が登場した。
一応、誰もが運動ができるような格好をしている。
ジュリアスは純白のテニスウェアらしきものに身を固めており、クラヴィスは黒いTシャツに黒いズボンである。オスカーはカッチョ良いトレーニングウェアを身につけていた。リュミエールは、白いポロシャツに、白いズボン。オリヴィエは、いつも通りの派手な格好ではあるが、やはりズボンは着用していた。リュミエールから、ちゃんと運動できるようなズボンをはいてくるように、と、ニッコリ笑顔でくれぐれも念を押されたからだ。ゼフェルは黒のタンクトップに黒の半ズボンで、マルセルは小学生の体操着姿を思わせるようないでたちである。そしてルヴァは…。コテコテのジャージ姿であった。
ものすごい拍手の音に、守護聖達は面食らう。この運動会が、こんなにまで飛空都市の人々に歓迎されるとは思ってもいなかったのだ。
それどころか、
「あれだけ激しく宣伝をしておいて、客が来なかったらどうするのでしょう、ジュリアス様?」
「その時はその時。観客がいようといなかろうと、我々は女王陛下(と、賞品ゲット)のために力を尽くさねばならぬ。良いな、オスカー」
「はっ」
ジュリアスとオスカーの間では、このような会話まで交わされていたのであった。
とにかく、大勢の人々に見つめられながら、運動会の開幕である。
選手宣誓は、やはり、ジュリアスであった。
「宣誓!我々守護聖一同は、守護聖シップにのっとり、正々堂々と戦うことをここに誓う」
「ジュリアス様、カッコイイ〜!!」
空から降ってきた声に頭上を振り仰ぐと、特別閲覧席からアンジェリークが、ジュリアスに向かって手を振っていた。
「キャーッ!ね、ロザリア、ジュリアス様がこっち向いて下さったわよ」
アンジェリークは、このようなイベントが大好きであった。呆れ返って自分を見つめるロザリアの事など歯牙にもかけず、アンジェリークは更に声をかけた。
「ジュリアス様っ、頑張ってくださいね〜」
その時、飛空都市大運動場に集結した人々は、見た。ジュリアスの身体から、メラメラとオーラが立ち昇る様を。
「任せるが良い。この私の辞書に不可能という文字は無いのだからな」
自信満々なジュリアスの台詞に、ランディのナレーションが加わった。
「おおーっと、ジュリアス様、いきなりの勝利宣言だ!果たして、栄冠は誰の頭上に輝くのでしょうか?それではこれより『飛空都市でGO!守護聖様大運動会!!』を開催いたします。まずは、プログラムナンバー1、徒競走!です」
6 バリバリ走るぜ徒競走
「では、選手の皆さんは、スタートラインに並んでください」
ランディの声に促され、守護聖達はリハーサルどおりに整然と、徒競走用のスタートラインに並んだ。
「50メートルという短距離ですが、だからこそ、全身全霊をかけて守護聖達は走ります。短い距離に魂をかけて走る男達。結果は一体どうなるのでしょう!?」
ランディの軽快なしゃべりに、守護聖達は、皆、思ったという。
(この男の、一体どこが口下手なんだっ!?)
そんな余談は置いておいて。
守護聖達がスタートラインに並んだのを確認すると、ランディは運動会用ピストルを構えた。
「それでは、皆さん。位置について」
守護聖達は、訓練された兵隊のように、腰を落とした。
「よーい」
ここで、腰を浮かして。
「ドン!」
を合図に、走り出す。
幸先の良いスタートを切ったのはゼフェルで、次にオスカー、ジュリアスと続いていた。
「先頭を走るのはゼフェル!いつも俺から逃げ回っているその脚力は、伊達ではありません。それに続くのはオスカー様、ジュリアス様。やはりここは、日頃の運動量が物を言うようです」
ランディが解説をしているうちに、ゼフェルが一番でゴールインした。何しろ50メートルそうなので、あっという間に走り終えてしまうのだ。
次に、オスカー、ジュリアスもゴールに駆け込む。知られたくない人もいるだろうし、以下は、略である。
「はいっ、この徒競走ですが、1位はゼフェル、2位がオスカー様で3位がジュリアス様でした!一位から三位まで、50点・30点・15点の得点が与えられます。スコアボードの係の方、よろしくお願いしまーす」
各守護聖の名前が書いてある巨大スコアボード(手書きではなく、スタジアム並みの自動スコアボード、である)の下に、得点の欄がある。ゼフェルとオスカー、ジュリアスには、それぞれ、得点欄に得点が記載されたのだった。
7 悶絶!?パン食い競争
お次の種目は、パン食い競争である。
「このパン食い競争で使用しているパンは、女王陛下お気に入りの店のお気に入りのパンです!めちゃくちゃ美味しいこと間違いありません」
というランディの解説を聞いて、ちょっとやる気の守護聖達。
「女王陛下のお気に入りっていうんだから、きっと想像を絶する美味しさに違いないねっ」
パン好きのオリヴィエが、瞳を輝かせる。
「それでは、パン食い競争を始めます。位置について、ようい、ドン!」
守護聖達が一斉に走り出した。
やはり足の速いのはゼフェルで、真っ先にパンのある地点にたどり着く。そして、『ゼフェル』という札が貼ってあるパンの袋めがけてぴょんぴょんと跳ねた。
守護聖の身長差が激しいため、パンの高さもそれぞれに設定してあり、各守護聖ごとにパンに札が貼られているのであった。
パンの袋を迅速に口で掴んだゼフェルは、迅速に袋を開け、迅速にパンを口に運んだ。そして、大きくパンにかじりついたゼフェルは、次の瞬間、悶絶していた。
「おおーっと、ゼフェルが身悶えしていますっ!一体何が起こったのでしょうか?」
「あめー!!!!!!!!!!!!!!水くれ、水っ!!」
「どうやらパンが甘くて口に合わないようです。ここでリタイヤか!?」
ランディの熱血解説をバックミュージックにし、ゼフェルに続いてパンをかじったジュリアスやオスカーも、表情を変化させた。
「パンの中に入っている、この奇妙な味の物体は一体何なのだ!?」
「……甘いことは確かですが、不思議な味がします」
パンを食すのに抵抗感がありまくりの守護聖達の中で、ルヴァだけが嬉々としてパンをほおばっていた。
「あ〜、これはアンパンですねぇ。このこしあんの口溶けの良さ、風味、パンのしっとりとした感触。どれを取っても最高です。桜の塩漬けとの相性も抜群で、さすがは女王陛下お気に入りのパンだけありますね〜」
「ルヴァ様、この味に抵抗を感じないのですか?」
リュミエールの質問に、
「私は普段から餡を食べなれていますからね〜。抵抗どころか、大変美味しくいただいていますよ。餡はとってもヘルシーな食べ物で、ダイエットにも…。ああ、ここで解説をしている場合じゃありませんね。早くゴールに向かわなければ…」
穏やか〜に答えて、パンを食べ終えたルヴァは、ただ一人、ゴールに向かって走っていき、悠々とゴールした。
「ルヴァ様が一位です。おめでとうございます!」
そのままレースは動きを止めたかに思われたが、
「お先に失礼しまーす」
甘いもの大好きなマルセルが、なんとかパンを食し終えたようで、素早くゴールに向かって走る。
「マルセル、お待ちっ!」
その後をオリヴィエが追う。ルヴァの解説の中で、あんはダイエットに良いという一言を聞きつけたオリヴィエは、味には抵抗があるものの、自身のスレンダーバディのためにひたすら必死にパンを食べたのだった。
「マルセルとオリヴィエ様のデットヒート!さあ、どちらが早くゴールにたどり着くのでしょうか!?」
ようやくレースらしくなり、盛り下がり気味だった観客席の雰囲気が、ちょっとだけ復活した。
結局、先にゴールに向かって駆けていったマルセルが2位。オリヴィエが3位ということで、パン食い競争は幕を閉じた。
ちなみに、他の守護聖達はリタイアである。
スコアボードに、得点が反映される。得点の振り分けは、徒競走と同じなのであった。
8 玉入れで一致団結?
パン食い競争の後は小休憩が入り、守護聖達は口の中をすっきりとさせて、再びグラウンド内に集結した。
いよいよ初の団体競技、玉入れ、である。
この守護聖達が団体競技を出来るのか否かは全くもって謎であったが、とにかくここまで来たらやるしかないのだ。
「今回、玉入れ用のカゴは、女王候補に持ってもらいます。二人とも、ヨロシクな!」
サワヤカにランディが告げ、二人の女王候補がグラウンド内に現れた。
「ちなみに今回の玉入れは、女王候補の二人にカゴを背負って逃げてもらい、自分チームのカゴの中にいくつ玉を入れられるかを競います。ただの玉入れでは面白くないとの、女王陛下のご発案です」
アンジェリークはゼフェルを賭けの対象にしているため、オスカーチームのカゴを。ロザリアもまた、自分が賭けているオスカーがいない、ジュリアスチームのカゴを持つことになっていた。
アンジェリークは天使の微笑で、ジュリアスチームを励ました。
「皆様、頑張ってくださいねっ。私、一生懸命逃げますから。ゼフェル様、徒競走の時、とってもカッコ良かったです〜」
「おっ、そうか!?うーっし、これからも気合入れて頑張るからな、期待してろよ?」
「はいっっ」
ロザリアは、どことなく迫力のあるニッコリ笑顔で、
「皆様、気合を入れて頑張ってくださいね。不肖ながら、このわたくしも頑張って逃げさせていただきますわ。特に、オスカー様。まだ一度も得点の対象になっていらっしゃらないようですけれども、わたくしを失望させないでくださいね?」
「うっ。お嬢ちゃんの口から、そんなに厳しい言葉が飛び出すとは…。だが安心してくれ。このオスカー、お嬢ちゃんの期待に応えるために全身全霊をかけて、これから勝負させてもらうぜ」
「楽しみにしておりますわ」
ランディがカゴに入れるためのお手玉を、守護聖達の周りに平等にばら撒いた。司会をしたり、スタート係になったり、雑用をこなしたりと、彼は大変良く働いていた。
「それでは、玉入れを開始したいと思います!みんな、準備は良いですか?それでは、スタート!!」
守護聖達がいっせいに、辺りに散らばっているお手玉をかき集め始めた。かき集めたお手玉を、女王候補が背負うカゴめがけて投げる。
二人が一生懸命逃げるため、カゴがちょこまか動いて、なかなか玉が命中しない。
「1球ずつ丁寧に投げても、あまり効果が出ないようです。質より量で、とにかく沢山の玉を手に取っていっぺんに投げた方がいいみたいですよ〜」
ジュリアスチームのルヴァが、皆に指示を出した。
「よしっ、皆、ルヴァの言うとおりに投げるのだ」
日頃、命令されるのが大嫌いなゼフェル・クラヴィスも一致団結していっぺんにお手玉を投げ出した。少しずつではあるが、カゴに玉が入り出す。
「ジュリアス様チーム、かごに少しずつですが、玉が入り出しました。何かコツを掴んだのでしょうか?それに引き換え、オスカー様チームは苦戦しておりますっ」
ランディの解説を聞いて、ジュリアスチームの様子を見たリュミエールが、
「みなさん、あちらのチームのように、とにかく掴めるだけ玉を掴んで、カゴめがけて投げるとよろしいようです。現に、あちらのカゴには玉が入り出していますよ。わたくし達も、真似をするべきだと思うのですが…」
「リュミエールの言う通りかも知れん。真似しいと馬鹿にされても構わん。とにかく、大量に投げて投げて、投げまくろう!」
「了解」
人と玉とが入り乱れて、やっている本人達はいたって真面目だが、端から見ると結構笑える風景であった。
しばらくして、守護聖も女王候補もへたれてきた頃、
「はい、終了でーす!!」
ランディの元気な声がグラウンドに響いた。
「アンジェリーク、ロザリア、お疲れ様!それでは、カゴの中に入っているお手玉の数を確認します。二人とも、準備は良いかな?」
女王候補の二人が、背中からカゴを下ろした。
「はい、では、女王候補の二人は、俺が数字を数えたら、お手玉を空高く投げてください。それでは、いちっ。に……」
ランディが数を数える度に、女王候補の手からお手玉が放り投げられた。
「さんじゅういち、さんじゅうに、さんじゅうさん」
ランディが33個目まで数えた時、空に向かって投げられたお手玉は、1つだけだった。アンジェリークがニッコリ微笑んで、カゴをひっくり返した
「アンジェリークのカゴが先に空になったということは…。この勝負、ジュリアス様チームの勝ちですっ!!!」
「よしっ」
ジュリアスが、彼にしては珍しく、ガッツポーズを取った。その隣で、クラヴィスも何気に嬉しそうである。
二人は、自分たちにまだ得点が無いことをかなり気に病んでいたのであった。
「勝利チームの人達には、50点の得点が与えられます!」
こうして、まだ得点ゲットしていない者は、オスカーとリュミエールだけになってしまった。
普段あまり仲の良くない二人だが、今日ばかりは、お互いに悲しい連帯感を持ってしまうのだった。
「それでは、これで午前の競技を終わります。1時間のお昼休みです。午後の第一種目は、借り物競争。みなさん、お楽しみにっ!!」
〜 続く 〜
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