GAME(後編)




9 憂鬱な二人

 女王候補の二人が作ってきてくれたスペシャルランチを食べながら、リュミエールは溜め息をついた。
「リュミエール様、どうしたんですか?もしかして、お口に合いませんでした??」
 その溜め息を目敏く聞きつけて、アンジェリークが尋ねる。
「いいえ。貴方達が作ってくださったこのサンドイッチは、大変に美味です。美味しくいただいていますよ。ただ、わたくしは、自分がなかなか得点できないのがもどかしいのです」
「だって、リュミエール様は争いごとがお嫌いなんですもの。運動会が苦手で当然です」
「………(争いごとは好みませんが、他人に負けるのはもっと嫌いなのですよ)」
 そう思ったが、普段から温厚派で売っているため、言葉には出せないリュミエールであった。
 アンジェリークはリュミエールが沈黙したのをどう勘違いしたのか、本人にしては励ましのつもりで言葉をかけた。
「それに、得点の事なんて気にしなくて平気ですよ!今回は私、ゼフェル様に優勝していただきたいんです。だからリュミエール様はそんなに頑張っていただかなくても大丈夫ですから!!」
しかし、ハッキリ言って、ちっとも励ましになっていなかった。
 リュミエールはがっくりと肩を落とした。アンジェリークの瞳は一点の曇りもなく、キラキラと輝いている。リュミエールは知る由もないが、賭けの賞金で何を買おうかと、胸をときめかせているのである。
 そんなアンジェリークの表情を横目に見て、リュミエールは再び、重い溜め息をひとつ。漏らしたのだった。

 一方、もう一人の無得点男・オスカーは、ロザリアに絞られていた。
「もう!困りますわ、オスカー様。先程、ちゃんと頑張るとお約束いただいたばかりですのに。はっきり言わせていただくと、今日のオスカー様ほど格好の悪いオスカー様はありませんわよ?」
 思わず言葉に詰まるオスカーであったが、ロザリアが何故こんなにまでオスカーの勝利にこだわるのか、ふと疑問を覚えた。
「済まない、お嬢ちゃん。今日ほど自分の無力さを呪ったことはない。だが、どうしてお嬢ちゃんは、そんなに俺に勝って欲しいんだい?」
 今度はロザリアが言葉に詰まったが(賭けの対象になっている、などとばれたら、他の守護聖はともかく、ジュリアスが死ぬほど怒るに決まっているのだ)、すぐに笑顔を取り戻して答えた。
「だって、祝福のキスは、自分が好感を持っている殿方にしたいものですわ…」
 男の自尊心をくすぐられ、オスカーはころりと騙された。
「よーし、お嬢ちゃん。俺は、今度こそ頑張るぜっ!!!!」
「その意気ですわよ、オスカー様っ!」

 リュミエールとオスカーは、午後の競技こそはっ、と、熱く心に誓うのだった。


10 涙の借り物競争

 そして、午後の第一種目・借り物競争が始まった。
 ランディの解説によると、
「何と!今回の借り物のペーパーは、女王陛下がお書きになりました!!」
 とのことだったので、一体どんな奇天烈な借り物が飛び出してくるのか、守護聖達はビクビクものであった。
 ピストルの合図と共に、走り出す守護聖達。他の6人と比べて、オスカーとリュミエールは必死である。
 必死に走った甲斐があって、いの一番に借り物メモをゲットしたオスカーは、メモを開いた途端、ムンクの叫びのような表情になった。
『オリヴィエのキスマーク(ほっぺたに)』
 黒々とした文字で、メモにはそう書かれていた。
(OH!何てことだ。男は俺の守備範囲外なのにっ(当たり前だ)。レディのキッスならともかく、よりによって、オリヴィエのキスマークをもらわなければいけないなんて!?)
等々思いつつも、オスカーの視線はオリヴィエを探して宙を漂った。
 この際、わがままを言っている場合ではなかった。オリヴィエは、このグラウンドの、オスカーのすぐ側にいるのだ。キッスの感触さえ我慢すれば、念願の得点ゲットは確実な筈だった。
 オスカーは、借り物メモをゲットして走り出そうとするオリヴィエを発見し、その肩をガッシと掴んだ。
「オリヴィエっ!!!」
「何だい、オスカー。私はこれから、タマという名前の猫を探さないといけないの。邪魔するんじゃないよっ」
「オリヴィエっ。何も言わずに、俺の頬にキスしてくれっっ!!」
「はぁ??」
 オスカーは無言で、自分の借り物メモをオリヴィエに示した。メモに目を走らせたオリヴィエはニヤリと笑った。
 競技前の注意で、守護聖達はランディから、
『自分の持ち物等を借り物として求められた場合は速やかに貸し出すこと。貸し渋りは妨害行為として失格』
という注意を受けていた。ここでオリヴィエがキッスを拒絶すれば、オリヴィエはこの競技、失格になってしまう。
(それなら…)
 オリヴィエは思った。
(思いっきり濃厚なキッスをして、オスカーに嫌がらせをしてやろう♪)
「オッケー!頬をこっちに向けなよ、オスカー」
 オリヴィエのサワヤカ笑顔に嫌な予感を感じつつも、オスカーは大人しく、右の頬を差し出した。オリヴィエがオスカーの頬を両手で挟み、
 チュッ!!!
大きな音を立ててキスをした。
 周りにいた守護聖達が、何事かと注視する中で、
「ちゃーんとキスマークをつけてあげたよん♪それじゃあね〜っ」
 オリヴィエは、猫を探しに去っていった。
キッスの感触に愕然としながら、それでもオスカーは何とかゴールに向かった。
「オスカー様、トップでゴールイン!でも、手ぶらですね?はい、メモを見せてください」
 ランディにメモ用紙の提示を命じられ、オスカーは力なく、メモ用紙を手渡した。
「えーと、オスカー様の借り物は、オリヴィエ様のキスマークですね。わかりました。さっきのキスは、このためだったんですねっ。オスカー様、一位ゲットです!!おめでとうございまーす!!!」
 念願の初得点。だが、その味は、苦かった…。
 一方、リュミエールも必死になって走り、借り物メモを無事にゲットしていた。
 慌てた手付きで、メモ用紙を開く。
『アンジェリークの頭に結んであるリボン』
 借り物の内容を確認し、リュミエールは小さくガッポーズを取った。
(アンジェリークはすぐ近くにいますし、これならわたくしも無事に得点をいただけそうです…)
 リュミエールは、一目散に観客席のアンジェリークに向かって走り出した。
「ア、アンジェリークっ!!」
「そんなに急いでどうなさったんですか、リュミエール様?」
 走り過ぎで息が乱れるリュミエールは、無言でメモ用紙をアンジェリークに示した。
「私のリボンが必要なんですね?」
 コクコクと頷くリュミエール。アンジェリークが手渡してくれたリボンをしっかりと握り締めると、ニッコリと無言で微笑み、わき目もふらずにゴールめがけて去っていった。
「リュミエール様もゴール!!借り物メモを提示してください」
 またもや無言のまま、メモを差し出すリュミエール。
 ランディはメモに目を通してからリュミエールの手に握り締められているリボンを確認し、
「リュミエール様、2位ですっ!!」
 高らかに宣言した。
 他の守護聖達は、観客席を巻き込んで、探し物の真っ最中である。
 そんな状態を横目で見やりながら、リュミエールは疲労のあまり、ヘナヘナとその場にしゃがみこんでしまったのだった…。

 ちなみに、3位はクラヴィスだった。
 クラヴィスが借り物メモを開くと、そこには
『クラヴィスの水晶玉』
 と、書いてあった。
「フっ……」
 クラヴィスは余裕の笑みを見せると、そのままスタスタとグラウンドから姿を消した。しばらくしてから再びグラウンドに姿を現したクラヴィスの手の中には、ご愛用の水晶球がしっかりと収まっていた。
 が、クラヴィスと僅差で先にリュミエールがゴールしていたため、惜しくも3位入賞なのだった。
(もう少し急いげば良かったのかも知れんな…)
 と、クラヴィスが思ったか否かは定かではない。
 クラヴィスのゴールを確認した後、ランディが笛を鳴らし、
「レース終了でーす」
 とお知らせをしたので、その他の借り物はうやむやのうちに、レースは幕を閉じたのである。


11 華麗に舞え!障害物競走

 次なる種目は障害物競走。
 ランディとお手伝いの人々が黙々とコースにハードルを設置する姿を、守護聖達はじっと眺めていた。
 障害物競争。守護聖達にとって、未知の競技である。
 こうして見るとハードルは結構高く見え、果たしてキチンと飛び越えられるのかという疑惑が頭をもたげてくる。
 そんな中、ランディだけが元気に、皆に声をかけた。
「お待たせしました。障害物競走の用意が出来ましたので、みなさん、速やかにスタートラインに並んでください」
 唯々諾々と、守護聖達は一列に並んだ。一様に緊張の面持ちである。
「それでは、スタート!!」
 ピストルの音と共に、皆が走り出した。
 ひらり。
 と、華麗にハードルを飛び越えたのは、以外にもマルセルだった。
「マルセル、華麗なハードル越え!日頃、森の中で鳥さんや動物さんたちと戯れている成果がこんな場所で発揮できると、誰が思ったでしょうか!?」
 ハードルを跨ぐような格好で、クラヴィスが続いた。
「クラヴィス様、ハードルを跨ぐように進みます!足が長いんですね〜」
 その後を、何でも平均的にこなすゼフェルが追いかけ、ジュリアスも必死の形相でハードルを跨いでいた。オスカーも同じく、である。
 ジュリアスとオスカーは思っていた。
(馬でなら、こんな障害物、簡単に飛び越せるのにっ!!!)
 しかし、自分の足で障害物を越えていくしかないのだ。
 オリヴィエも、なんとか無難にハードルを越えて行っていた。
 その一方で。
 ルヴァとリュミエールの二人は、ハードルを前に呆然と立ち尽くしていた。
「このようなハードルを越えるなど、わたくしには、とてもとても…」
「うーん。ハードルはまさしくハードルですね〜。越すに越せない逢坂の関のようです」
「ところでルヴァ様。今度お借りしたい本があるのですが…」
「おやおや〜、そうなんですか?いつでもお貸ししますので、私の執務室に来てくださいね〜」
 現実逃避を始めた二人を他所に、他の守護聖達は次々にゴールイン!
 1位はマルセル、2位はクラヴィス、3位は接戦の末、ゼフェルがゲットしたのだった。


12 綱引きでパワー全開

 そして、本日2回目の団体競技、綱引き。である。
 グラウンドのど真ん中に長い一本の綱が置かれ、その真ん中に当たる地面には白いラインが引いてあった。
「お次の種目は綱引きです」
 綱を見て、オリヴィエが『ゲゲッ!?』というような表情になった。そして、そのゲゲな表情のまま、彼はランディに宣言したのだった。
「ちょっと、ランディ!こんなガサガサの綱、触れないわよっ!!私は断固として、手袋の着用許可を要求する!綺麗にお手入れしてる手が、台無しになっちゃうじゃないか!?」
 リュミエールがオリヴィエを窘めた。
「オリヴィエ。貴方は何ということを言うのです?そのような我侭、わたくしが許しませんよ」
「やだやだっ!こればっかりは、あんたに脅されたってスカされたって、譲らないからねっ!あんなの触ったら、私の柔肌は血を出しちゃうっっ!!」
 揉め始めたAチームを見やって、Bチームのメンバーはニヤリと笑った。
「おや、あちらのチームは仲間割れを始めましたね?これは私達にとって大チャンスですねー、ジュリアス?」
「うむ、この勝負、貰ったぞ」
「わー、頑張りましょうね!」
 結局、オリヴィエは手袋の着用を認められたらしく、白い手袋を身につけていた。ランディがその手袋にすべり止め等がついていないかを確認する。
「合格です」
 ホッと胸を撫で下ろしたオリヴィエ。よっぽど、綱に触りたくなかったらしい。
 そんなこんなで綱引きが、やっとのことで開催されることになった。
 綱の両側に、守護聖が4人づつスタンバイする。
「両チームとも位置についてください。準備はいいですか!?」
 AチームとBチームの間でバチバチと火花が飛び散った。玉入れと違い、向かい合ってのプレイとあって、イヤでもお互いにライバル心が湧き上がってくるのだった。
「それでは、スタート!」
 ピストルの音と同時に、守護聖達はいっせいに綱を引き始めた。
「おおーっと、Bチーム、押され気味です!頑張ってください!!」
 Bチームの面々が一様に『バカな!?』という表情を見せた。
 クラヴィスは綱など引けそうもないし、リュミエールは見るからに非力そうだ。オリヴィエだって力はなさそうだし(しかも、手袋をしているのだ)、運動神経が良いとはいえ、ゼフェルは体格的に少々劣る。
 そんなAチームが、どうして!?
「み、みなさん。もっと腰を落としてください〜」
 ルヴァの指示に従って、深く腰を沈めるBチームであったが、少しづつAチームの方に引きずられていってしまうのであった。
 そして。
「そこまでっ!この勝負、Aチームの勝利です!!50点差し上げますっ」
 先頭で綱を引いていたオスカーの足が、センターラインを越してしまったため、Aチームが綱引きでの勝利を治めた。
 愕然とするBチーム。
 点数が少ない守護聖達は、残った競技・二人三脚に全情熱を賭けるしか、優勝の可能性が無くなってしまったのだった。


13 熱闘!二人三脚!!!

「いよいよ、最終競技、二人三脚までやってまいりました!」
 ランディに言われるまでもなかった。守護聖達は皆、引き締まった表情で、スタートラインに立っている。
「これまでの得点をおさらいします。ジュリアス様・75点、クラヴィス様・ 145点、リュミエール様・80点、オスカー様・50点、マルセル・110点、ゼフェル・175点、ルヴァ様・100点、オリヴィエ様65点です。そして、この二人三脚では、1位のチームに200点、2位のチームに100点の得点が与えられます!スペシャル大逆転のチャンスなので、皆さん、頑張ってください!!!」
 大逆転のチャンス到来とばかりに、現在得点の少ない守護聖達は、希望のオーラを身にまとった。得点の高い守護聖達も、逆転されてなるものかという気合に満ち溢れている。
各ペアの間では、以下のような会話が交わされていた。
 ゼフェル・ルヴァ組。
「ゼフェル、いいですか〜?決して焦らないで下さいね。練習通りにやれば、必ず結果がでます。あなたが焦ってしまってスピードを上げたら最後、自慢ではありませんが私はとても付いて行けませんからね。そしたらもう、転ぶしかないんですよ?」
「だーっ!分かってるって!!ちゃーんと練習通りにやればいいんだろ?任せときな」
 リュミエール・オリヴィエ組。
「リュミエール!ここまで来たら、狙うよ、優勝!!」
「勿論です。オリヴィエこそ、練習通りしっかりと走ってくださいね?そうしないと、わたくしたちは、それはそれはみっともなく転ぶことになりますから」
「了解、了解。私もこの美しい身体に傷を付けたくないしね」
 オスカー・マルセル組。
「マルセルっ」
「はいっ」
「練習通りに行けば、もう俺達の優勝は決まったようなモノだ。だがしかし、二人とも200点ゲットとなると、坊やの方がトータル点数的には多くなるな?そこで、二人の協力の末1位を獲得できた時は、賞品の山分けを提案したい」
「…ごもっともな意見だと思います。分かりました」
 ジュリアス・クラヴィス組。
「クラヴィスよ、今こそ二人の練習の成果を見せる時だな。皆、我々がこのように一致団結して事に臨んでいるとは思ってもいまい」
「………(コクリと頷く)」
 どのチームも、ペアを組んでいる二人の現在の得点が違うため、二人の協力の成果でどちらかが優勝した場合に賞品を分け合うことは、暗黙の了解ごとであった。
気合を入れ直しつつ、お互いの足を紐で結ぶ守護聖達。
そんな中で燃えるハートを持つ男、炎の守護聖・オスカーは、他のペアが肩を組み合っているにもかかわらず、マルセルの腰に手を回した。何故か不敵に笑っている。
 ランディの声が、グラウンドに響いた。
「位置について、用意、スタート!」
 決戦の火蓋が切って落とされた。
 スタートダッシュに成功したのは、オスカー&マルセルだった。
「いちにっ、いちにっ」
 二人で叫びつつ、もんのすごい勢いで、コースを駆けて行く。
「オスカー様・マルセル組、凄いスピードです!」
 猛スピードでゴールに向かう二人を見て、他の守護聖達の反応は様々。
「えーっ、何なのあの二人はっ!?ねえ、リュミエール、あんなのってアリ??」
「落ち着いて下さい、オリヴィエ。あのオスカーのことです。さぞかし姑息な手段を使ってのスピードに違いありません。どうせ彼らは失格になるのですから、わたくしたちはわたくしたちでマイペースを保っていれば良いのです」
「あんたって、やっぱり…」
焦るオリヴィエとは反対に、リュミエールは涼しい顔である。
 自称『私はいつも冷静だ!』なジュリアスは焦りを隠せない。
「なっ、なんと!?何故あの二人は、ああも早く走れるのだ!?」
「ジュリアスっ、そんなに焦ると歩幅が乱れて…っ」
「うっ!?」
 ものの見事に転倒する二人。クラヴィスが、静かにジュリアスに説教を垂れた。
「おまえはここぞという時の冷静さに欠けるのだ…」
「すまぬっ。申し開きようもない。かくなる上は、体勢を立て直して、迅速に進むしかあるまい」
 大きな図体の割に迅速な動きで、体勢を立て直す二人であった。
「おい、ルヴァっ!オスカー野郎とマルセル、めっちゃくちゃ速いじゃねーか!?」
「まあまあ、ゼフェル。落ち着いて。焦ると転びますよ?あ、ほら。今、ジュリアス達が転びましたね〜」
「おめーは、悠長に何を言ってやがる(怒)」
「ゼフェル。あなたは、今まで高得点をゲットしてきているんですから、別に1位を取らなくても優勝できますよ?2位の100点を取ることが出来れば、ですけれども。2位を取るためにも、焦らずマイペースで行きましょうね?」
「わーったよっ」
 そんなこんなで、皆が焦ったり宥めたり怒ったり転んだりしている間に、オスカー・マルセル組は、めでたくゴールイン(というと、二人が結婚するようだ)。
「オスカー様・マルセル組、ダントツトップでゴールインです!いやー、凄いですね!!」
サワヤカに二人を祝福するランディ。
 その時、特別閲覧席のディアが、白旗を上げた。
「おや?ディア様から物言いがついたようですね。レース終了後、物言いについて伺います」
 残りの3組の中では、ジュリアス・クラヴィスが少々遅れを取っていた。転んだことがかなり影響しているようで、
「あああっ。私は何と愚かなのだ?あんなところで転ばなければ…」
「今更言っても始まらぬ。今は、走ることだけに集中するのだな」
「クラヴィス…そなた、慰めてくれるのか?」
「フッ…」
 二人の間には、奇妙な友情(?)が生まれつつあったのだった。
 リュミエール・オリヴィエ組とゼフェル・ルヴァ組は、どっこいどっこいのスピードで、デットヒートを繰り広げていた。抜きつ抜かれつ、である。
「このままじゃ勝てねえっ。ルヴァ、ちょっとだけスピードアップするぞっ!」
「分かりました。せーの、の合図でいちに、いちにっのスピードにしましょう」
「(二人で)せーの、いちに、いちにっ」
 ほんの少しだが、ゼフェル&ルヴァの前進の速度が上がった。
「げっ?ちょっと、ゼフェル達、スピード上がっちゃったんじゃない?」
「オリヴィエ。先程から言っているでしょう、マイペースと。焦った時点で、私たちの負けです。黙って走るのですよ」
 リュミエールとオリヴィエは、無言でただひたすら、走ることだけに情熱をかけた。
 が、ルヴァとゼフェルには、とうとう追いつけなかったのだ。
「はいっ、2位はルヴァ様&ゼフェルです。3位がリュミエール様とオリヴィエ様です。お疲れ様でしたー!!」
 そして、ディアからの物言いが始まった。
「ただいまの競技、オスカー・マルセル組を失格とします。」
 どよめく会場、守護聖達。
「待ってください、ディア様!この俺達の、一体何が不満なのですか!?」
「貴方達は、二人三脚になっていませんでしたね、オスカー?マルセルを抱えて走っていたでしょう??」
 ディアからのスルドイ指摘に、オスカーは言葉に詰まった。
「オスカー様にも言い分があるでしょうから、ビデオ判定をしましょう!」
 ランディの一声で、バックスクリーンに、巨大なエキシビジョンが現れた。問題のオスカー・マルセルの走り具合が映し出される。
「二人の足元を、良く御覧なさい。マルセルの足が、浮いているでしょう?」
「ああっ。本当です!オスカー様、一人で走っていますね?」
 マルセルが泣き崩れた。
「だから僕、イヤだって言ったのに…。オスカー様が無理矢理っ…!!」
「オスカー、そなた、このような卑怯な手を使うなど、恥ずかしくないのか!?」
「しかしジュリアス様。我々は身長差が厳しすぎて、肩さえロクに組めなかったのです。そこで、仕方なく…」
「貴方があんなに速く走るなど、どうせこのような理由だと思っていましたよ、オスカー」
 すっかりオスカー一人が悪者であった。しかし、これも自業自得である。
 思いもかけぬ不名誉な記録が残ってしまった、オスカーとマルセルの二人三脚であった。
「とにかくっ。オスカー様・マルセル組が失格になりますので、1位はルヴァ様・ゼフェル組。2位がリュミエール・オリヴィエ様になりました!さあ、総合点数の第1位はっ!?」
 スコアボードが、更新された。
「第1回『飛空都市でGO!守護聖様大運動会!!』の優勝者は、ゼフェルです!!優勝者のゼフェルには、豪華賞品と、トロフィー、女王候補からの祝福のキスが進呈されます」


14 サワヤカに閉会式

 優勝者のゼフェルはグラウンド内に設置されていた表彰台に、誇らしげに立っていた。
「それでは、優勝者のゼフェルに、賞品とトロフィーの進呈をいたします」
「ちょっと待った」
「??」
「オレがこうして表彰台に立てたのも、二人三脚でルヴァが一緒に協力してくれたおかげだからよ。ルヴァも一緒に、表彰してやって欲しいんだ。もちろん、賞品も半分にするつもりだぜ!」
 ゼフェルらしからぬ(そんなことはない?)優しくサワヤカな発言。
「ぜ、ゼフェル〜。なんて優しい子に育ったんでしょうねぇ」
 ルヴァは感涙にむせび、会場の人々も、清々しい感動を覚えた。
 ランディがチラリとディアを見て、ディアがニッコリ頷いたので、
「どうぞ、ルヴァ様も表彰台に上がってください!」
 表彰台に上ったルヴァは、照れくさそうである。
「おめでとうございます、ゼフェル様!アンジェ、とっても嬉しい!!」
「ルヴァ様、お疲れ様でした」
 二人の女王候補が、かわるがわる、ゼフェルとルヴァの頬にキスをした。
 それから、ゼフェルとルヴァは両手を上げて、観客の歓声に答えたのだった。
「なんだか照れますね〜」
「結局、ルヴァだって2位なんだから、堂々としてりゃ良いんだよ!」

『守護聖様達も、やっぱり人間なんだな…』
 運動会を見た飛空都市の人々は、守護聖達への親密度を深めたという。
 そして、ゼフェルとルヴァが貰った商品をどのように使用したか、アンジェリークが賭けで勝ったお金を何に使ったのか…。
 
 物語の続きは、あなたの心の中で!

〜 END 〜







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