とっておきのおはなし
(前編)
1 悪夢(笑)再び!?
『飛空都市でGO!守護聖様大運動会』と名付けられた、女王陛下主催の運動会のほとぼりもすっかり冷めた頃。
毎日平和に執務に励んでいる守護聖と、育成を頑張っている女王候補の元に、衝撃的なニュースが届けられた。
「たっ、大変です〜」
今回のニュースの情報源は、地の守護聖・ルヴァであった。
大変だと言いながらもどことなくほのぼのとして見える彼の手には、大きなポスターが握られている。
そのポスターを見て、いやな予感満載の守護聖達。
ルヴァが開いたポスターには、案の定、こう書かれていた。
『飛空都市でGO!守護聖様&女王候補大演劇大会!!』
前回のポスターは熱血劇画調であったが、今回のポスターは一転して少女漫画風で。
カワイイ丸文字ではあるが、デカデカと書かれているその文字に、
「うっ!?」
ルヴァの召集で聖殿の第一会議室に集まった守護聖&女王候補は、絶句した。
ポスターにはお姫様やら王子様やら魔法使いやらが描かれており、どの人物も、彼らの中の誰かしらをモデルとしたような姿形をしていた(ただし、キラキラの少女漫画風に)。
そしてポスターによると、劇の演目は『眠れる森の美女』と定められているようであった。
「こっ、これは・・・」
ジュリアスが、あからさまにイヤそうな顔つきをした。
「今日は街の本屋に行っていたんですけどね〜。そこでこのポスターを発見したものですから、取り急ぎ、あなたたちにお知らせしておこうと思ったんですよ」
ルヴァの言葉を引き取るように、クラヴィスが続けた。
「今回のポスターも、女王陛下の仕業なのだろうな・・・」
「そうとしか思えませんよねぇ」
溜め息をつく年長組の様子を見て、オリヴィエがハッとしたように言った。
「これって、前回と同じパターンだよね?というコトは、そろそろディア様からのお使いが来るタイミングじゃない??」
言い終えると同時に、会議室のドアが静かに開いた。
息を呑む彼らの目の前に現れたのは。
「あら、皆さんお揃いで。丁度良かったわ。皆さんにお話があって、探していたところでした」
使いの者ではなく、ディア本人がイキナリの登場である。
守護聖&女王候補勢ぞろい、という場面で、これ以上にないナイスタイミングな登場の仕方であった。
「今、ぜってー監視されてたよな、オレ達」
ボソリと呟いたゼフェルに、ディアはニッコリと微笑みかけた。
「何か言ったかしら、ゼフェル?」
「なっ、何でもねーよっ!!」
「それでは、私から皆さんにお話させていただきますね」
そう言いつつ、ディアは前回同様、皆に小冊子&ポスターを配付するのであった。
2 ディアからの宣告・リターンズ
配られた小冊子は『眠れる森の美女』の台本と思しき物で。ポスターは、ルヴァが持ってきたものと同じだった。
「ディア・・・。今度は一体、何をやろうというのだ??」
何となく返答を予測しつつも。首座の守護聖という責任感から、ジュリアスはディアに尋ねた。恐る恐る。
「前回の運動会が大変好評だったのは、皆さんもご存知ね?また何か企画して欲しいという投書が沢山来たので、女王陛下は今度は演劇大会を執り行おうとお考えです」
(やっぱり・・・)
守護聖達は、肩を落とし、うなだれた。
そんな彼らの気分を盛り立てようとしてか、ディアは朗らかに笑って見せる。
「さあさあ、そんなに辛気臭い顔をしないで。これは『女王陛下の』決定事項ですよ?どうせやるなら、楽しまなければ。と、いう訳で、早速、配役のくじ引きをしましょうね!」
何が『という訳で』かは良く分からないが、とにかく守護聖&女王候補達は、くじ引きをしなければならなかった。
何しろこれは、女王命令なのである。逆らうなど、とんでもないことであった。
くじを引くために順番に並んだ皆を見て、ディアは思い出したように言った。
「あら、そういえば。アンジェリーク、あなたはくじを引かなくていいのよ。あなたはもう、お姫様役が決まっているんですから」
アンジェリークがギョッとしたような表情になった。
「私が、お姫様!?」
それからアンジェリークは、上目遣いの表情になって、ディアを見上げた。
「あのー。そういう役って、ロザリアの方が似合うと思うんですけど・・・」
しかし、守護聖には通じる上目遣い視線も、ディアには通じなかった。
「あら、あなたにも似合うと思うわ、アンジェリーク」
優し〜く微笑んでアンジェリークの意見を退けた後、ディアはアンジェリークにとどめの一撃を見舞った。
「それに、これも女王陛下の決定事項なの。頑張ってね」
女王命令の一言で言葉に詰まるアンジェリーク。
そんなアンジェリークをロザリアが力強く励ました。
「大丈夫よ、アンジェリーク!ディア様のおっしゃるとおり、あんたなら素晴らしいお姫さまになれるわっ」
ロザリアの瞳は、メラメラと燃えていた。
(わたくし、絶対に王子の座を射止めて見せますわっ!!)
ロザリアだけではない。守護聖達も、メラメラと燃えていた。
(自分が王子になって見せる!!そうして、あわよくば、アンジェリークとキッスを・・・)
先程までのだらけた雰囲気がウソのように、彼らは迅速にくじを引くのであった。
くじで決まった配役は、以下のとおり。
王様:ルヴァ、お后様:オリヴィエ、王子1:ゼフェル、王子2:ジュリアス、王子3:ロザリア、妖精1リュミエール、妖精2:ランディ、妖精3:オスカー、魔法使い:クラヴィス、その他:マルセル
マルセルが、泣き出しそうな表情になった。
「ディア様、その他ってなんなんですか??」
「え?その他はその他よ」
「答えになっていないですよ〜」
そんなマルセルの嘆きはさておき、ロザリアがディアに別の質問を投げかけた。
「王子が3人もいるのは、何故なのでしょう?」
「ああ、それは、台本がそうなっているからです。今回の劇の台本は、『眠れる森の美女』を題材に、女王陛下が書き下ろされたものですから」
ディアの美しい唇から漏れた『女王陛下の書き下ろし』という世にも恐ろしい言葉に、女王候補はともかく、守護聖達は青ざめた。
彼らは前回の運動会で、女王陛下のアイディアなるものに散々翻弄されたため、戦々恐々の体であった。
(今回は、一体何をやらされるのだろうか!?)
守護聖達は、一様にそう思った。
そんな不安をよそに、ディアは説明を続けた。
「配役は無事に決まりましたね。演劇大会の開催は、1ヵ月後の日の曜日。明日から毎日、執務後の1時間を劇の練習に割り当てていただきます。例外として、水の曜日は午後全部を練習時間とします。前日の土の曜日は、リハーサルを行います。言うまでもありませんが、練習・リハーサル共に全員参加ですからね。そして、こんかいの舞台監督は、不肖この私が勤めさせていただきますので、そのつもりで。それでは、解散しましょう」
そう言って会議室から出て行こうとしたディアであったが、帰り際、彼女はクルリと皆の方を振り返った。
「そうそう。言い忘れていましたが、台本は今日中に必ず目を通しておくように」
ディアの優しい微笑が、一同には悪魔の微笑みに見えたという。
3 地獄の練習風景
翌日から、厳しい舞台練習が始まった。
物語の内容がバレてしまうのであまり詳しくは書けないが、練習は、それはそれは厳しいものであった。
「リュミエール!そこはもうちょっと前に出てって言ったでしょう?何回言わせれば気が済むんです??」
「ディア様、申し訳ありません。ですが、あんまり前に出すぎるのも・・・」
「いいんです。あなたはもう少し、目立つことを考えて」
リュミエールに指示を出した後、ディアの視線はゼフェルに飛んだ。
「あらあら、そこはもう少し優しく台詞を言うんでしょう、ゼフェル?」
「優しくなんて、ムリだっつーの!!」
「そう??だったら、私にも考えがありますけど?」
「・・・ごめんなさい」
ゼフェルを黙らせると、今度はディアはジュリアスに、
「まあ、ジュリアス!あなたはどうして、そんなに棒読みなの??もう少しリラックスして頂戴」
「しっ、しかしだな・・・」
「女王陛下をがっかりさせないようにお願いしますね」
「ううっ・・」
伊達に長年補佐官をやっている訳ではなく、守護聖一人一人に見合った指導方法(脅しともとれる)を実践するディアであった。
ディアの特訓の甲斐もあり、2週間ほど経った時には、守護聖&女王候補たちの演技も何とか見られるようになってきた。
「皆さん、その調子よ。ここまで非常に順調に来ていますからね。当日には、とっても素敵な劇を観客の皆さんにお見せできるように頑張りましょうっ!!」
気合を入れて皆に喝を入れるディア。
守護聖&女王候補たちは、ディアに負けないよう、気合を入れて(渋々)練習に励むのだった。
さてさて。この演劇大会、無事に成功するのかは、続きをお楽しみに。
〜 続く 〜
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