ANGEL'S TALE A




 そして今日も。
 アンジェリークがクラヴィスの執務室にやってくる。
「クラヴィス様、せっかくの日の曜日ですし、一緒にお出かけしましょ!!」
「よく来たな・・・」
 クラヴィスは、頬を緩めて微笑み、アンジェリークを手招いた。
「アンジェリーク。以前お前は、私の水晶球に興味を示していたな」
「はい・・・?」
 怪訝な表情で、アンジェリークがクラヴィスに近付いてくる。
「今日は、お前を占ってやろう・・・少し、気が向いたのでな」
「本当ですか??」
「・・・嘘など言ってどうする?さあ、もう少しこちらへ。そして、水晶の上に手をかざせ」
 躊躇いがちに。
 アンジェリークの手が、水晶球の上に伸ばされる。
 白い手が、水晶球の真上にかざされた時。
 クラヴィスは瞳を閉じ、自身の手をそっと、水晶球にかざした。
「・・・クラヴィス様!」
 アンジェリークから、小声で名前を呼ばれる。
 フッと、目を開けると。
 水晶球に映し出されたのは、可憐な白い花。
 心の中で思い描いていたのと寸分変わらないその絵に、クラヴィスは瞳を和ませた。
「これって・・・?」
 若草色の瞳が、不思議そうに水晶球に映し出された花を見つめる。
「お前の心の中を映し出したのだ」
「心の中??」
「そうだ。お前の心は、この白い花のように可憐で純白だ、ということになるな」
 アンジェリークの頬が、薄いピンク色に染まったが。
 次の瞬間、彼女はハッとしたように、クラヴィスに向かって叫んだ。
「クラヴィス様!黙って私の心の中を映し出しちゃうなんて、酷いですっ!!」
「・・・何故?」
 アンジェリークの頬が、大きくふくらんだ。
「だって!もしも変な映像が映されたら、どうするつもりだったんですか?」
「変な映像が映される?そんなことは、有り得ない。私は知っている」
 落ち着き払ってクラヴィスが答えると、アンジェリークはなおも恨めし気にクラヴィスを見つめた。
「でもっ。心の準備ぐらいさせてくれたって・・・」
「そう怒るな」
 アンジェリークに向かって、クラヴィスが微笑みかけると。
 まだ不服そうではあったが、彼女は小さくため息をついて言った。
「分かりました。許してあげます。でもその代わり・・・」
「・・・その代わり?」
 可憐な笑みをその頬に浮かべて、アンジェリークは上目遣いにクラヴィスを見上げた。
「今度、私にケーキをご馳走してくださいねv」
「約束する・・・」
「絶対ですよ!!」
 無理矢理、指切りをさせられる。
 柔らかく温かい指の感触に安らぎながらも。
 約束を守る日は、やってくるのだろうか・・・?
 クラヴィスはそう、自問自答した。
 大陸の中央の島に女王候補たちの建物が届く日は・・・すぐそこだった。
 何か言わなければならない。
 そう思って、クラヴィスはアンジェリークの若草色の瞳に視線を移す。
 クラヴィスの思い違いでなければ。
 その時、アンジェリークもまた、クラヴィスに向かって何か言いたげな表情をしていた。
 しかし、二人は肝心なことは何も言わず。
「・・・それじゃ、クラヴィス様。また遊びに来ますね」
「待っている」
 いつもと同じように、別れの言葉を交わした。



 それから数日後の夜。
 飛空都市を包んだ、眩しい光。
 先に中央の島にたどり着いたのは・・・アンジェリークの建物だった。
 アンジェリーク・・・!!
 クラヴィスは私邸から飛び出し、女王候補寮へと向かう。
 心の底からクラヴィスは後悔していた。
 どうしてあの日、言っておかなかったのだろう。
 どうして。
 息を切らしながらアンジェリークの部屋まで走り、クラヴィスは乱暴に部屋のドアをノックした。
「アンジェリーク!」
 彼女はもう寝ているかも知れないと思ったが、それでもクラヴィスは名前を呼ばずにはいられなかった。
「・・・アンジェリーク!!」
 ピンク色のドアが、静かに開く。
「クラヴィス様・・・」
 いつもキラキラと輝いている若草色のその瞳が。
 今日は、曇っていた。
「どうしてそんな表情をしている?お前は、女王になるのだぞ」
 自分の唇から発せられた言葉に、クラヴィスは苛立った。
 本当は、こんな事を言いたいのではなかった。
 もっと別の、大切な・・・。
「そうですね。私、女王になるんですね・・・」
 沈んだ声でアンジェリークは言う。
 月の雫を落としたように美しい涙がその瞳に浮かんでいることに気付き、クラヴィスはハッと息を呑んだ。
「ケーキのお約束・・・」
 最後まで言い終える事ができずに。
 アンジェリークの瞳から、涙が零れる。
 言わないと、きっと一生後悔する。
 そう、クラヴィスは思った。
「アンジェリーク」
 静かに、名前を呼ぶ。
 涙に濡れた瞳で、アンジェリークがクラヴィスを見上げた。
「私は、お前との約束を守ろう。アンジェリーク。お前が今、私の手を取ってくれさえすれば。そして、これからの人生を、私と共に歩いて欲しい。・・・女王になど、ならずに」
 そう言ってアンジェリークに手を差し伸べると。
 少女は俯き、何かを考えているようだった。
 しばらくの時が過ぎ、クラヴィスに向かって顔を上げたアンジェリークの瞳は。
 いつもどおりの真っ直ぐな瞳だった。
 過去を振り返らず、未来を見つめる・・・クラヴィスが、美しいと思った瞳。
 ほっそりとした手を伸ばし、アンジェリークはクラヴィスの手を取った。
「私、決めました。自分の気持ちに嘘はつけません。クラヴィス様と一緒に、生きていきたい・・・」
 ギュッとその手を握りしめ、クラヴィスはその場に跪いた。
「アンジェリーク・・・」
 指先にそっと口付ける。
「・・・私の、天使・・・」
 アンジェリークも床に膝を付く。
 そして、クラヴィスの瞳を覗き込んで優しく微笑んだ。
「大好きです。これからも、二人で歩いていきましょう。ね、クラヴィス様?」
「・・・・・・」
 クラヴィスは思い出す。
 悲しい時だけでなく。
 嬉しい時にも、人は泣くことができるのだ、という事実を・・・。

 

 そして、女王試験は終わった。
 新しい女王にはロザリアが即位し、アンジェリークは補佐官として女王を補佐することになる。



 お前は今でも、白い羽を持っている。
 女王としての翼をもいでしまったのは、私だけれど。
「クラヴィス様!」
 駆け寄ってくるお前の背に、確かに見える。
 真っ白な、天使の羽が。
 きっとその白い翼は、私にしか見えない。
 お前だけが、私の心から微笑みを引き出してくれた。
 だから。
 その羽は、私だけの物。
 差し伸べた腕の中に、小柄な身体が飛び込んで来る。
 その華奢な身体を抱きしめて、私はそっと耳元で囁いた。
「愛している・・・」
 抱きしめた腕から。
 天使の羽がフワリと数枚、宙に舞い上がり。
 風に流れて消えていった。

 過去ばかりを振り返っていた私は、もういない。
 私に未来を見せてくれるお前が、いつでも側にいてくれるから。
 眩しく輝いていることだろう。
 お前と一緒に歩いていく、これからの長い道のりは・・・。



〜 FIN 〜




クラヴィス様、お誕生日おめでとうございます!
無事に(?)バースデーに完結しました!!
良かったですぅ(感涙)。
クラ様SSというコトで、いつもながら思うように書けませんでしたが・・・。
私の願望(←妄想??)を込めたLLEDにさせていただきました。
二人のこれから、は、皆様の心の中で!
クラ様、どうぞこれからもお幸せに。
そして永遠に、アンジェの中での私のNo1男性でいてくださいvv





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