SHALLOW SLEEP
玉座に座り、君はいつでも優しく微笑んでいる。
そう、君はまるで、慈母のよう。
誰もに平等に与えられる、君のその微笑みが痛い。
そっと手を伸ばし、君に触れたいのに。
触れることの出来ない女性(ひと)。
君は、近くにいるのに遠い人になってしまった・・・。
浅い眠りに、淡く揺られる。
輝く太陽の下、無邪気な君の笑顔。
日の光を溶かし込んだような、金の髪が眩しい。
エメラルドの瞳が、俺だけを見つめて。
「オスカー様!」
優しい声が、俺の名を呼ぶ。
俺も、君の名を呼べばよかった。
今ではもう、呼ぶことの出来ない君の名を。
「アンジェリーク・・・」
でも、ここは夢の中だ。
想いを込めて名前を呼ぶと、君ははにかみながら微笑んでくれる。
そして、両手いっぱいの優しさを俺に与えてくれる。
君が側にいてくれる喜び。
こんなに大切なんて、失うまで分からなかった。
気付くのが、遅すぎた恋。
不思議なくらいに、君の気配を感じる。
こんなに、側にいるのに。
目の前に君がいて、手を伸ばせばすぐにも届きそうなのに。
君に触れることが出来ないなんて。
華やかな玉座に座っている、穏やかな君の笑顔を見るのが辛い。
謁見なんてもう、無しにすればいい。
そうすれば、君を見なくて済むようになる。
そうすれば、少しはこの胸の痛みも治まるかも知れないから。
執務室の窓の向こうで、風がざわめいている。
心は、君の許へ駆け出す。
外に出れば、君に会えるかも知れない。
けれど。
会えたとしても、何を言えばいい?
俺は、どうすればいい。
俺は君に、永遠の愛と忠誠を捧げるだけ。
そう。永遠に変わることのない、愛と忠誠を・・・。
俺が、本当に君に会うことが出来る時間は・・・。
この浅い眠りの波間に漂っている一時だけ。
ふと目を覚まして辺りを眺めると。
目に映るもの全てが、無彩色の世界。
ただ、君が側にいないだけで。
「オスカー様」
あの頃と同じように、ニコリと微笑む、君の笑顔。
本当に好きだ。
君の笑顔だけが、俺のこの心を潤してくれる。
俺の心を、君だけが。
愛している。
心の底から、湧き上がってくるこの想い。
君のエメラルドの瞳が、青い空の色を映し、不思議な色合いになる。
木々が白い頬に、影を落とした。
君は眩しそうに空を見上げるけれど。
俺にとっては、空よりも君が眩しい。
「アンジェリーク」
手を伸ばして、君に触れる瞬間。
君はやっぱり微笑んでいる。
その笑顔は、今は、俺だけのもの。
腕に抱きしめると、君の優しさが俺に流れ込んできて。
俺も、優しい穏やかな気持ちになれる。
君と過ごす、夢の中。
現実の世界に引き戻されると、君は、やはり遠い人。
世界の全てを愛し、世界の全てから愛される、君は、女王。
俺を見つめる君の瞳が、優しく揺れるけれど。
その瞳は、俺だけのものじゃない。
だから俺は、夢を見ていよう。
君がいつでも、俺の側にいてくれる夢を。
君の夢を・・・。
いつまでも、見続けよう。
〜 END 〜
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