「アンジェリーク様〜!」
泣き出しそうな顔で、女官が補佐官執務室に駆け込んでくる。
「大丈夫?何があったの??」
優しく尋ねる女王補佐官に、女官は涙目で訴えた。
「オスカー様が、仕事をしてくださらないんです〜!!!」
女官を宥めながら話を聞いた所、アンジェリークの頼みで持っていった書類の処理を、あっさりと断られたという。
その書類は・・・実は、急ぎの書類だった。
「本当に困りますわ、アンジェリーク様。一体どうしたら良いのでしょう?」
細い腰に両手を当て、アンジェリークはプクリとふくれた。
「もう!オスカー様ったら・・・!イイわ。私が直接お話します」
「お願いしますわ、アンジェリーク様!!」
女官の期待の眼差しを一身に受け、アンジェリークは炎の守護聖の執務室へと向かった。
「レディには大変申し訳ないが、この書類は処理できないな」
オスカーがそう言うと、書類を持ってきた女官は気の毒なほどに、うろたえた。
「そうは申されましても・・・。補佐官様から、急ぎだと言付かっております」
「乗り気じゃないんだ。悪いな」
何でアンジェリークが自分で持ってこないのだ!!!
と、オスカーは大声で主張したかった。
もう随分長いこと顔を合わせていないような気がする。
お互いに忙しいという事は重々承知してはいるが、仮にも恋人同士ではないか。
取り付く島も無いオスカーに、女官は泣きそうな顔になる。
オスカーがフイとそっぽを向くと、パタパタと執務室を飛び出して行った。
きっと、アンジェリークの所に戻ったに違いない。
そう思い、オスカーはニヤリと笑った。
パタパタと廊下を駆け、アンジェリークはいささか乱暴に炎の守護聖の執務室のドアを開いた。
「オスカー様!!」
アンジェリークは怒っているというのに、オスカーは非常に爽やかな笑顔で呑気な発言をかました。
「よう、アンジェリーク。久し振りだな。元気にしていたか?」
ツカツカと執務机に歩み寄り、アンジェリークは大きな音を立てて、机を叩いた。
「真面目に仕事をしてください、オスカー様!!」
「おいおい、レディ。あんまりカッカしていると、眉間の皺がクセになるぜ?」
グッと言葉に詰まると、オスカーはアンジェリークに向かって両手を差し出した。
「・・・何かおねだりですか・・・?」
尋ねると、それはそれは嬉しそうに笑った。
「俺の腕は、君を抱きしめるためだけにあるんでね。腕の中が淋しいと、仕事が捗らないんだが・・・?」
カタリと、オスカーが座っていた椅子が音を立て。
オスカーが、立ち上がった。
目の前に、アンジェリークがいる。
これはもう、抱きしめるしかない!!!
オスカーは固く、そう決意した。
椅子から立ち上がると、アンジェリークが軽く身構える。
「そんなに警戒するなよ、アンジェリーク」
パチリとウインクをしながら、腕を伸ばす。
そして、華奢な身体をギュッと抱きしめた。
柔らかな身体から、温もりと優しい香りが伝わってくる。
「オスカー様・・・!」
腕の中で、アンジェリークが身じろいだ。
「お仕事を、キチンとしてくださいってば!!」
その声が本気で怒りかけていたので。
名残を惜しみながら身体を離すと、アンジェリークは膨れっ面をしていたが、その頬は微かに赤かった。
「分かった、分かった。俺のレディのたっての頼みだ。真面目にやろう」
降参、というように軽く両手を挙げて見せると。
「早く書類を片付けてください!!」
厳しく命じられた。
椅子に戻り、ペンを手に取ると、アンジェリークはオスカーの近くに椅子を置いて、ちょこんとそれに座った。
「アンジェリーク?」
「その書類をキチンと処理するまで、見張ってますからね」
言いながら、思いついたように立ち上がる。
「お茶でも淹れましょうか?ね?」
久々のアンジェリークの笑顔に、オスカーは胸が熱くなった。
コポコポと小気味良い音を立てながら紅茶のカップにお茶を注ぎ、アンジェリークはそれをオスカーに差し出した。
「どうぞ」
「ああ、済まないな・・・」
アンジェリークは黙って、ほんのりと立ち昇る紅茶の蒸気を眺めなた。
久々の二人きりの空間で、ホッとする。
「オスカー様」
「何だ?」
「・・・何でもありません。あ、書類の処理をお早くお願いしますね」
オスカーの腕が伸び、大きな手の平がポンポンとアンジェリークの頭を撫でた。
「落ち着いたら、二人一緒に休暇を取ろう」
「はい」
「そして、二人でどこか遠い所にバカンスに行こう」
「はい」
アンジェリークはオスカーを見つめ、クスリと笑った。
落ち着いたら・・・。
楽しみだな。
それから数十分後。
無事に処理された書類を両手に抱え、アンジェリークはオスカーの執務室を出た。
「またいつでも両手を広げて待ってるぜ、レディ?」
そう言うと、アンジェリークは悪戯っぽく笑った。
「また来てあげますね、オスカー様。私がいないと、お仕事できないんですものね〜」
「仕方ないだろ?君が側にいてくれないと、生きてはいけないんだから」
その言葉には答えずに、アンジェリークはサラリとスカートを動かしながら去っていく。
なんだか、とても嬉しい気分で。
執務机に頬杖を付きながら、オスカーは笑い。
パタパタと補佐官執務室に戻りながら、アンジェリークは笑った。
〜 END 〜
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このお話のネタは、お友達のレディあきらさんから頂戴しましたvvv
ありがとうございました〜。
このお話は、あきらさんに捧げさせていただきます。
ネタさえあれば、ちゃんとアンジェも書けるんだよ、私(笑)!!
と、しみじみと思わされた一作でした。