あなた






 月明かりに誘われるようにして、フラリと外に出る。

 ロザリアやジュリアスがこんな姿を見たら、血相を変えて怒るわね。
 そう思って、一人、クスリと笑った。

 女王の御座に昇って、どれくらいの月日が流れたのだろう。
 多分そんなに経ってはいないのに、覚えていられないほどに、過去の出来事に感じられる。

 最近、酷く疲れやすくなっているような気がしていた。

 白いネグリジェが闇の中でゆれる。
 ひらひら、ひらひらと、まるで蝶のように。
 頼りない足取りで、アンジェリークは歩いていた。

 ふらふらと歩いて、辿り着いた先は、夜の公園。
 噴水から流れ落ちている水が、月の明かりを反射して、キラキラと柔らかく輝いているのが目に留まった。
「すごく、キレイ・・・v」
 ふわふわと噴水に近づいて。
 そのまま、ぱしゃんと飛び込んだ。
 夜の闇に、水滴が弾けた。
 キラキラ、キラキラ。
 アンジェリークが噴水の下で動く度に、跳ね上がった雫が、宝石のように光る。
 その様子を見つめながら、
「ほんとに、キレイねvvv」
 クスクスと笑っていると。

「陛下?一体、何をされているんです?」

 呆れたような声が、聞こえてきた。
 聖地からは少し離れた惑星の、視察に行っていたはずだ、この声の主は。
 しばらく、声も聞いていなかった。

 声の方向を振り向いて。

「あら、オスカー!」

 名前を呼べば、アイスブルーの瞳が優しく揺れた。
「お呼びでしょうか、陛下?」
 気取った仕草で悪戯っぽく一礼し、大きな手のひらが恭しくアンジェリークの手を取って。
「貴女の忠実な騎士に、何かお命じになりたいことは?」

 ああ、自分はこの人が好きなんだな、と。
 何だか、改めて気づいてしまった。
 ただ声を聞くだけで、こんなにも嬉しい。

 そして、こんな時に思う。

 女王が恋をしちゃいけないなんて、誰が決めたの?
 愛する人と共にする、時間。
 そこから生まれる優しい気持ちや愛しさで、私は宇宙を包むのだから。
 あの人が生きる宇宙を、私は愛して。そして、守るの。

 だから、いいじゃないの。
 人を好きだと思う気持ちを持っていても・・・イイじゃない。

「ねえ、オスカー。濡れちゃって、寒いわ。・・・暖めて」

 クスクスと笑いながら言うと。

「困った陛下だ・・・」

 苦笑を含んだ瞳でオスカーが笑って。
 ふわりと、青いマントがアンジェリークを包み込んだ。
 そのままひょいと、抱え上げられる。

「そのままでは、風邪をひきますよ。私邸にお戻りになられますか?」
「帰りません!」
 ツンとしながら答えると、澄ました返事が戻ってきた。
「かしこまりました。御意のままに」
 ひょいと抱き上げられて。
「え?え???」
 頭の中がはてなマークで溢れている間に、オスカーはスタスタと迷いない足取りで歩いていく。
 そして、連れて行かれた先は・・・。

 オスカーの、私邸だった。

 真夜中だというのに、屋敷は煌々と明るい。
「俺だ!今帰った」
 大きな門を抜け、これまた大きな玄関のドアを開け、オスカーが一声かけると。
「お帰りなさいませ、オスカー様。今夜お戻りのご連絡をいただき、お待ちしておりました」
 黒いスーツの執事が現れ、アンジェリークに視線を当てて、僅かに首を傾げた。
「おや、そのお方は・・・?」
「陛下だ。夜のお散歩中に噴水に落ちているところを捕獲してきた」

 ほ、捕獲って・・・。

 オスカーの腕の中でアンジェリークが呆然としていると。
「オスカー様、お帰りなさいませ〜v」
「お帰りなさいませvvv」
 パタパタと軽やかな足音と共に、制服姿の女性が数人現れた。
「あら、オスカー様!」
「もしかして、その方って・・・」
「陛下だ。身体を濡らして寒がっておられるので、湯浴みをしていただくように。手配は任せたぞ」
「お任せください」
 オスカーが、女性達にアンジェリークを引き渡した。
 そして、執事に視線を走らせる。
「セバスチャン、陛下のお部屋を準備して差し上げろ」
「ちょっ・・・!オスカー!!」
「どうぞ、ごゆっくり」
 優雅に一礼をして。
 ヒラリとマントを翻しながら、オスカーはカツカツと去っていってしまった。
「陛下って、本当にお綺麗ですねv」
「ささv湯浴みに参りましょvvv」
 あれよあれよと言う間に浴室に連れて行かれ、中に放り込まれる。
「陛下〜vお背中お流ししましょうか〜??」
 浴室のドアの向こうから楽しそうな声。
「大丈夫ですっ!!」

 何で、こんなことになっちゃったんだろう・・・?

 などと心のどこかで思いながら。
 けれども、この状況を楽しんでいるアンジェリークだった。


 バスタイムを済ませると、大きな部屋に連れて行かれた。
「さ、陛下vどうぞお休みになってください」
「陛下のお付の方々には、明朝一番で、こちらにいらっしゃるとご連絡しておきますので、ご安心くださいね」
「は、はあ・・・」
 ふかふかのベッドに、押し込まれる。
「では陛下、お休みなさいませ」
「良い夢を」
 口々に声をかけながら、女性達が去っていく。
 まるで、嵐のようだった。

「でも、楽しい人達ね・・・v」

 クスクスとベッドの中で笑っているうちに。
 そろりそろりと眠気が襲ってくる。
 知らぬ間に、アンジェリークは眠りの世界に引き込まれていった。





「陛下・・・。陛下!」
「んん〜。もうちょっと寝かせて〜」
 もぞもぞとベッドの中で身じろぎしていると、クスリと小さな笑い声。
 クシャリと髪を撫でられて・・・。
「陛下?起きられない、ということは、お目覚めのキスをご所望ですか?」

 え・・・?

 徐々に、意識が覚醒して。
「ご所望じゃないですっ!!」
 ガバっとベッドの上に状態を起こすと、楽しそうに笑っているオスカーの姿。
「おはようございます、陛下。今朝はお顔の色も良くて、安心しました」

 いつになく、目覚めはスッキリだ。
 疲れも、大分取れたような気がする。

「・・・おはようございます」

 本当に、スッキリだ。
 昨夜までの不安定な状態が、嘘のように。

 うん。私は、やっぱり・・・。

「好きよ、オスカー」

 唐突にそう言うと。
 切れ長の瞳が、丸くなった。

「やっぱり、お目覚めのキスを所望するわv」

 目を閉じて、片頬をオスカーに向けた。

 チュ。

 優しく、キスが落ちてくる。

 何だかとても嬉しくて、アンジェリークは目を開き、クスクスと笑った。

 ねえ、どんな時でも・・・。

「オスカー。あなたが傍にいてくれるから、私、頑張れるのかも知れない」
「そう言っていただけると、光栄です」

 その優雅な一礼の仕方。
 恭しく私の手を取って口付ける時の優しさ。
 日常生活での、ささやかな心遣い。

「あなたが、大好き」

 告げたら、本当に心が軽くなった。

「よーし!今日はお仕事頑張っちゃおうv」

 大きく大きく伸びをして。
 アンジェリークは元気よく、ベッドから滑り降りた。




  〜 END 〜




−−−−−−−−−−−−−−−−−
アンジェは、オスリモで〜vというご要望をいただいておりましたvvv
全然、イメージソングの内容に沿わなかったのですが、オスリモ。
こんなんでお楽しみいただけるかしら・・・。
ちょっと心配です(汗)。
自分では、楽しく書きました。




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