君のためにここにいる




 大陸アルカディア。
 不思議な力により、この地に連れてこられてから。
 もう、数週間が経過していた。
 アンジェリーク・コレットによる育成は順調で。
 大陸は、日々発展していた。



 風の守護聖・ランディは、執務の息抜きに、と、天使の広場に出かける。
 アルカディアの多くの人々が集うこの広場の活気は、いつでも彼に、元気と勇気を与えてくれた。
(勇気を司る守護聖が勇気をもらう、って言うのも変な話だけどな・・・)
 そんなことを思いながら、ランディは広場をゆっくりと回っていく。
 香辛料を売る店、野菜や果物を売っている店もある。
 そして、ランディが花屋の前を花屋の前を通り過ぎようとした時。
(ええっ!?)
 売り子の少女は、太陽の光を溶かし込んだような金の髪の少女。
 その輝きは、ランディの女王陛下だけが持つ、美しい輝きのはずだった。
 我が目を疑いつつ、ランディが振り返ると。
 ランディの女王・・・アンジェリークは、悪戯っぽく微笑んだ。
「いらっしゃいませv」
「へっ・・・じゃなくて、アンジェリーク!!」
 この場で『陛下』と呼ぶのは宜しくないと判断し、ランディは女王の女王候補時代の名前を呼んだ。
「一体どうして、こんな所にいるんです!?」
 綺麗な眉を顰めてアンジェリークは言う。
「あら、ランディ。いつも言ってるでしょう?敬語はナシにしてちょうだい」
「・・・分かりました」
 ゴホンと咳払いをし、ランディは彼女の希望通りに、敬語をやめて話しかけた。
「で、一体どうして、君はこんな所で花屋の売り子をしているんだい?」
 ランディの話し方に満足したのか、アンジェリークはニッコリと微笑む。
「少しでも、アルカディアのみんなと触れ合いたかったの。それには、みんなの中に溶け込むのが一番でしょ?みんなが幸せかを知りたかったのよ、私・・・」
 滅びを迎えようとするこの大陸を守っているのは、ランディの目の前で微笑んでいるこの美しい女王で。
 これ以上この女王に無理をさせたくない、というのがランディの正直な気持ちだった。
 けれども。
 今、心から嬉しそうに笑うこの女性を責める気には、とてもなれなかった。
「君が大切に守っているこの大陸なんだ。みんな、幸せに決まっているだろう?」
 詰る言葉の代わりにそう言うと、アンジェリークの瞳が優しい光を放つ。
「ありがとう、ランディ」
 女王に相応しい、優しい光を。
 思わずボーっとしてその瞳に見とれていると、アンジェリークは普通の少女の瞳に戻り、ランディに問い掛けた。
「と、いうワケで。ランディ、お花はいかが??」
「えっ!?」
 ランディは、周りを見回す。
 色とりどりの花々が、そこには溢れていた。
「えっと・・・」
 花達をじっと見つめながら、ランディは真剣に思案する。
(アンジェリークに似合いそうな花は・・・)
「あのピンク色の花と・・・」
「ガーベラね!私も大好きなの〜vv」
「あと、ピンクのミニバラと、カスミソウを使って、小ぶりの花束を作ってもらえるかな?」
「確かに承りました♪」
 心から楽しそうに、アンジェリークが笑う。
 その微笑みは、ランディにとって太陽の光よりも眩しかった。
 近くにいるのに、遠すぎて手の届かない女性。
 女王と守護聖という関係以上は望まない。
 ただ、近くで見守るだけ。
 器用な手つきで花々をまとめていくアンジェリークの白い指を眺めながら、ランディがそんなことを考えていると。
「出来上がり〜!!」
 アンジェリークが、ピンクの可愛い花束をランディに差し出した。
「はい、どうぞ」
 ランディはその花束を受け取り、代金を支払う。
「ね、ランディ。そのお花、誰にあげるの?とっても可愛らしい雰囲気のお花よねv」
 興味津々で瞳をキラキラと輝かせる女性に、ランディは苦笑する。
(この花束をあげたい人は、キミなんだよ)
 なんて、そんな事を言えるはずがなかった。
 ランディは無言で、アンジェリークに花束を差し出す。
「・・・私に?」
 若草色の瞳が、大きく見開かれる。
「そう、君に」
 思いの丈を込めて、やっとのことでそれだけ言うと。
 ランディの目の前で、アンジェリークの笑顔が弾けた。
「嬉しい!」
 女王のその想いは風に乗って、彼女が見守る大陸に優しく降り注いだ。
 周りの人々の表情が、心なしか先ほどまでより穏やかで優しくなったように感じられる。
(やっぱり、キミは素晴らしい女王だ)
 瞳を細め、眩しそうにアンジェリークを見つめるランディの目の前で、
「ありがとう、ランディ。本当に嬉しいわ」
 彼女は、花束に可愛らしくキスをした。
 キスされた花々は、優しく空に舞い上がり・・・アルカディア中に、花びらの雨を降らせた。
「ふふっ。キレイでしょう?」
 喜ぶアルカディアの住民たちを眺める、アンジェリークの瞳は、穏やかだった。
「私ね、みんなに幸せになってもらいたいの。そんなの偽善かもしれないけど・・・そのために、私は女王であるのよ」
「そして・・・そんな君のために、俺はここにいるんだよ」
(いつでも見守っているから・・・)
「君だけのために、俺がいるんだ」
 アンジェリークの若草色の瞳が、ランディを見つめてくれる。
「ありがとう。あなたはいつでも私に勇気を与えてくれる・・・私の、風の守護聖」
 そう言って、アンジェリークは空を見上げた。
 ランディもまた、空を見上げる。
 空から舞い降りてくる淡いピンクの美しい花びら。
 この花びらは、アンジェリークの優しさが姿を変えたものだったから。
 腕を伸ばし、両の手のひらで花びらを受け止め、ランディはそっと、その花びらを握り締めた。
(・・・ずっと、見守っているよ) 
 自分の傍らで優しく微笑むアンジェリークを見つめながら。
 ランディはそう、心に誓うのだった。
〜 END 〜



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全然関係ないんですけど、Twinコレクション2でのランディ様の歌。
歌はカッコ良かったですが、あの花屋の女性は誰!?と、皆さん思いませんでしたか(笑)?
あの花屋の女性がリモちゃんだったら・・・という思いを込めて、
ランディ様の歌のイメージに会わせ(?)今回の小説を捏造しました(爆)。
マジで捏造って感じっすね・・・。
花屋リモちゃんを妄想するに当たって、
舞台は・・・と思った時に浮かんだのが、アルカディアの天使の広場。
あそこには、確か花屋があったはず!!
民を愛するリモちゃんが、人々に紛れて働いちゃってもOK!
と言うコトで、舞台はアルカディアに決定と相成りました。
歌の内容が内容なので、ちょっと切ないテイストになりましたが・・・。
ま、たまには、こんな捏造小説も良いですよね?(←自分で言うな!!)




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