ENDLESS LOVE
その侵略者は、いきなり私の目の前に現れた。
聖地中を混乱に巻き込んで。
どうなってしまうの、私の宇宙。
愛を込めて守ってきた、私の大切な宇宙。
でもきっと、私の守護聖たちが助けに来てくれる。
不安な思いを抱えながらそう思った私の目の前に。その人は現れた。
「ようこそ我が居城へ。私が、皇帝レヴィアス。お前を捕らえた張本人だ」
自らを『皇帝』と名乗る、漆黒の髪を持った男性(ひと)。
本人が言うように、この人が私の宇宙に混乱を招きいれた。
憎むべき、相手。
でも私は、彼を憎むことが出来なかった。
あなたは、どうしてそんなに悲しい瞳をしているの?
侵略者とは思えない、綺麗な悲しい瞳を。
そんなに悲しい瞳で、私を見つめないで。
あなたの悲しみが私に乗り移って。
・・・私が、泣きたくなるから。
華やかな玉座に座っていても、彼は全く、嬉しそうにも楽しそうにも見えなかった。
宇宙を手に入れる準備は着々と進んでいるというのに。
鬱々とした眼差しで。時折、聞こえてくるのは、深い深い溜め息。
あなたは本当に、宇宙を手に入れたいの?
目的に向かって進んでいるときの人の瞳は、もっと希望に輝いているはずなのに。
あなたの瞳に映る光は・・・もっと、業の深い何か。
憎しみ?悲しみ??
いいえ、そんな言葉では言い表せないような。
そんな瞳をしながら宇宙を手に入れて、あなたは本当に嬉しいの?
彼が、私を相手に話をする。全く、つまらなさそうに。
過去の話、現在の話、そして、彼の望む未来の話。
どうして私に話してくれるの?
彼の瞳は私を見つめるけれど。その視線は、私を見ていながら、見ていない。
私を通して、何処か遠くの、何かを見ているような。
宙に漂わせたその視線の先に、あなたは、何を見ているの?
宇宙を手に入れた後の、自分の姿?
あなたが治めるはずだった、故郷の惑星?
それとも。
愛した女性がいた、楽しい頃の思い出??
私は、彼をじっと見つめる。
じっと、じっと。
彼は、私のその眼差しに気付くと・・・目を伏せる。
私より優位に立っているはずなのに、どうしてそんな表情をするの?
どうしてあなたは、視線を伏せるの??
あなたはまるで、子供のよう。
愛情を求めても得られない、おどおどとした、小さな子供。
彼が時折、優しい瞳で私を見つめるようになった。
でも、私は最初から知っていたわ。
本当は、彼が優しい心を持っていること。
瞳は人を語ってくれる。
どんなに悪人ぶっていても。
瞳の奥底で輝いている、優しい光は消せないものなの。
勝手に思ってもいいの?
あなたのその、優しい瞳の煌き。少しは私のことを想ってくれてるって。
そう、思ってもいいの??
私は、あなたがどうしようもなく好き。
好きになってはいけない人だと思っても、なお。
あなたの過去も、今も、そして未来も。
その心の傷も含めて、あなたの全てを愛したい。
だから。
『一緒に生きていきましょう』
あなたに、そう伝えたいけれど。
きっと、あなたはあなたの道を行く。私が、私の道を行くように。
私は知っている。
それが、あなたの生き方。
「お前の守護聖たちが、お前を救いにやってきているぞ。すぐ側までな。嬉しかろう?」
私が助けられた後、あなたはどうするの?
「私は、最終決戦の準備をする。もう、会うこともなかろう。ではな」
それだけ言うと、私に背を向けて。彼は、去っていこうとする。
「待って!」
私は、彼を呼び止める。
「待って、レヴィアス!!」
振り返った彼に、私は言った。
「何も言わないで、そのまま行ってしまうの?私の気持ちは、どうなるの!?」
「・・・お前の、気持ち・・・?」
「私は、あなたが好き」
唇を歪めて、彼が笑う。
「好き?私を??馬鹿なことを。私は、お前をこうして苦しめているのだぞ?」
「それでも・・・。それでも好きよ。あなたが何者だろうと、私はあなたが好き」
「・・・・・・」
苦しそうな表情になって、彼は再度、私に背を向けた。
そして、歩き出そうとした。
私は、彼のマントに手をかける。
「あなたが私を好きでなくても、構わないわ!一度でいいから、私を抱きしめて、そして、キスして・・・」
自分でも信じられないような言葉が、唇から飛び出した。
彼の身体が、強張るのが分かった。
そして。
彼は、私を抱きしめてくれた。壊れそうなぐらいに、強く。強く。
それから、彼は私にキスをした。噛み付くように激しいキスを、深く、深く。深く。
彼の身体が自分から離れていった時、私はどうしようもない気持ちになり、床に倒れこんだ。
今度こそ。彼が、私から去っていく。
「・・・行かないで、レヴィアス。戦うだけが、道じゃないはずよ」
そのまま、振り返ることなく。彼は言った。
「お前には、私の気持ちは分かっているはずだ」
「・・・ええ。だから、行くのね」
静かに静かに、彼が頷くのが分かった。
そして彼は・・・。
私の目の前から、消えたのだ。
現れたときと同じように、突然に。
やっぱりあなたは行ってしまうのね。
分かっていたはずなのに、こんなにも心が痛い。
あなたも私を好きでいてくれるのでしょう??
それなのに、どうして二人は離れ離れにならなければいけないの?
分かっていた。それは、二人の目指した道が違うから。
あなたは、破壊し、征服するために。
私は、守り、愛するために。
あなたは、自分の目指した道に殉ずるのですか?
私の守護聖たちは、きっと。あなたを退けてしまうでしょう。
あなたが『和解』という言葉に手を差し伸べてくれたら。
でも、それはありえない。
自分の信じた道のために、生きて、死ぬこと。
それが、あなたの生き方。私の生き方。
レヴィアスの手から救われた後。私は長い間、意識を失っていたらしい。
目が覚めたときには。
全てが終わっていた。
彼は。砂になって、風と共に消えた。
ロザリアから聞いた。
皇帝レヴィアス消滅の報告がロザリアと、意識のない私のもとにもたらされた時。
私の瞳から、涙が零れた、と。
夢うつつに、悲しい気持ちになっていた時があったのを覚えている。
その時、彼は逝ってしまったのだ。
私を置いて。
あなたは、この世界から消えることで、自分の罪を償ったのですか?
その美しい瞳は、最期まで悲しい光を灯していたのですか?
消え去る時に、私のことを少しでも想ってくれましたか??
私には、分かるの。あなたはきっと、生まれ変わって私の前に現れる。
そうしたら、私を迎えに来て。そして、抱きしめて、キスをして。
私は待っている。あなたを。
ずっと、ずっと・・・。
だから。絶対に。
私を迎えに来てね。約束よ、レヴィアス。
~ To be Continued? ~
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