大 好 き




 今日はあの方のお誕生日。
 プレゼントはあの方が好きなひまわりの花束。私が作ったお誕生日ケーキ。ケーキのクリームは、もちろん抹茶味。そして、私の心からのおめでとう。


 私はあの方が大好き。
 優しく包み込むような眼差しで見つめられると、胸の奥がほんわりと暖かくなる。まるで、気持ちの良いひだまりの中にいるみたいで。その心地よさが、大好き。
 あの方は優しい。いつでも他人の事を思いやっていて。私が悩んでいる時も、必ず相談に乗ってくれる。その優しさが、大好き。
 読書が大好きで、本に夢中になって時々私との約束を忘れてしまうこともあるけれど。そんな一生懸命な所も、大好きなの。
 博識で、のんびり穏やかで、誰からも好かれているあの方。
 あの方の事を考えると、好き!という気持ちがいっぱいいっぱい溢れてきて、とても幸せ。私は、あの方の全てが、大好き。


 あの方は口下手。その視線が、仕草が、私を『大好き』って言ってくれているのが分かるけど、言葉に出してもらったことは、ほとんどない。
 だから、時々意地悪しちゃうの。
 二人きりの時、私は尋ねる。
「私のこと、好きですか?」
 あの方は、しどろもどろになる。
「あ、あ、あー。あのですねぇ」
 私は、更に問い詰める。
「好きですか?」
 まるで少年のように照れながら、あの方は優しく告げてくれるの。
「貴方のことが、とても好きですよ」
 って…。
 そんな時、砂色の瞳が優しく揺らめくのを見るのも大好き。


 私はただの平凡な女の子だけど。あの方を想う気持ちは誰にも負けないつもり。
 だから、今日は言おうと思う。
『貴方が悩んでいる時は、私にその悩みを分けてください』
 そう、言おうと思う。
 時々あの方が悩んでいるのが私には分かる。だけどあの方は、絶対に私に弱音を吐いたりしない。
 でも。守られているだけじゃ嫌なの。だって、そんなのフェアじゃないわ。
 私の重荷を背負ってもらうだけではなくて。私だって、あの方の力になりたい。あの方が抱えている重荷があれば、半分私にも分けて欲しいの。
 悲しいことも、悩み事だって。二人で分け合えば半分になるはずだから。


 私はあの方の玄関の呼び鈴を鳴らす。いつものように、お世話係の方が扉を開けてくれる。
「こんにちは!」
 いつものように挨拶をすると、
「ちょっとお待ち下さいね」
 そう言って、奥に引っ込んだ。
 きっと、あの方は読書中。今日がご自分の誕生日だって事も忘れているかも知れない。結構、無頓着な方だもの。
 しばらくしてからお世話係の人が戻ってきた。
「どうぞ、こちらへ」
 案内されたのは、やっぱり図書室。本の山にうずもれた状態で、あの方は困ったように私を見つめた。
「おやー。アンジェリーク。今日は約束はなかったですよね〜?」
 どうやら約束を忘れて、私が怒って呼びに来たのだと思っているらしい。
 やっぱり、お誕生日を忘れているのね。
 私は花束とケーキを後ろ手に隠した。そして、ちょっとだけ怒ったふりをする。
「どうして私が来たか、心当たりがありませんか?」
「ええっ!?や、やっぱり約束があったんですか〜?」
 こうやって狼狽する姿も大好きだけど。本気で焦っているあの方が気の毒で。
 私はあの方に笑顔を見せて、そして、言った。
「ルヴァ様、お誕生日おめでとうございます。お約束はありませんでしたけど、今日、言いたかったんです」


 花束とケーキの箱を差し出すと、ルヴァ様は驚きの表情になった。
「えーっ、今日は私の誕生日だったんですか〜?あー、そう言われればそのような気が…。」
 ルヴァ様はそう呟く。そして、思い当たった!というように、表情を明るくさせた。
「ああ〜、それで、今朝ゼフェルが私に本をくれたんですねぇ。うんうん。ずっと探していた本だったんですよ。もらった時は、一体何が起きたのか分からなかったんですけどね」
 いかにもルヴァ様らしいエピソードだと思う。
 プレゼントした時、ゼフェル様はさぞかし、張り合いが無い思いをなさったに違いない。
 私は思わず吹き出してしまった。
 それからルヴァ様は、ひまわりの花束を見て表情を和ませた。
「ありがとうございます。私が好きだって言っていたのを覚えていてくれてたんですね〜」
 そんな事は当然。私はルヴァ様の事ならどんな些細なことでも覚えたいし、忘れるなんて以ての外。
「真実に向かって真っ直ぐに伸びて行く姿にあやかりたいですね」
 そう。ひまわりが好きな理由も知っている。
 でもルヴァ様はご存知かしら。ひまわりの花言葉には『貴方は素晴らしい』って言う意味があるコト。
 ルヴァ様はご存知かしら。ルヴァ様だって、真実を真っ直ぐに見つめる瞳を持っていること。私はそんなルヴァ様を、本当に素晴らしい方だと思う。
 だから、ひまわりはルヴァ様にとっても良く似合う。
 花束の次に、ルヴァ様はケーキの箱に視線を移した。
「これは、あなたが作ってくれたんですね、アンジェリーク?あなたのお菓子は絶品ですからね〜。いただくのが楽しみです。そうだ、これから二人で、お茶にしましょうか?」
 私は返事の代わりにルヴァ様に微笑みかける。こんな一時がとっても嬉しくて。
「ルヴァ様、ケーキの箱、私が持ちます!」
 図書室からリビングに場所を移って。
 ひまわりの花を花瓶に生けてから、私はルヴァ様のためにお茶を淹れる。
 ルヴァ様の大好きな緑茶。ケーキに緑茶は合わないなんて、そんなことは無い。
 緑茶はどんなお菓子にも合う、スーパー飲み物よ。なんて、ちょっとルヴァ様の影響を受け過ぎかな?
 でも良いの。私は本当に、ルヴァ様が大好きなんだから。


 そして、二人だけのお茶会が始まった。
 沢山のおめでとうと、ルヴァ様に言いたいこと。
 ちゃんと言わなくちゃ。
 ルヴァ様の事が大好きだから。もっとちゃんと私の気持ちを知っていて欲しいから。
 いつまでも大好きでいたいから。
 そしてルヴァ様にも、いつまでも私の事を好きでいて欲しいから。


 だから、心からの気持ちを貴方に伝えます。


 HAPPY BIRTHDAY ルヴァ様!




〜 END 〜







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