RAINY BLUE




 喧嘩の原因は。
 馬鹿馬鹿しいほど些細なことだったはずだ。
 もう、思い出すこともできないぐらいに。
 オリヴィエはそう思いながら、街をフラフラと徘徊していた。
 大きく見開かれたエメラルド色の瞳から零れ落ちた涙。
 それだけが、オリヴィエの脳裏に焼きついていた。
(泣かせちゃったな・・・)
 アンジェリークの悲しそうな顔が脳裏に浮かぶと、自分も泣きたいような気分になる。
 薄く開かれた唇から、ひとつ、ふたつとため息が漏れた。
 遣り切れない思いで空を仰ぐと。
(冷たっ・・・)
 ポツリポツリと落ちてくるのは、雨の雫。
 空から降ってくる、涙。
(まだ、泣いているかも知れない)
 瞳から涙を零しながら走り去っていったアンジェリーク。
 あの時、追いかけて抱きしめれば良かったのに。
 それができなかった自分に腹が立つ。
 空を仰いだまま瞳を閉じたオリヴィエに、段々と勢いの強くなる雨が容赦なく降り注ぐ。
 オリヴィエの癖のある金髪も、雨に濡れた。
(この辛い想いも、アンジェリークを泣かせてしまった事も。全部雨が洗い流してくれれば良いのに・・・)
 そう思って、再度ため息をつくと。
『みゃー』
 どこからか小さく、猫の鳴く声が聞こえたような気がした。
「??」
 よくよく耳を澄ますと。
『にゃーん』
 やはりどこからか、か細い泣き声が聞こえてくる。
 素早く辺りに視線を走らせると、電柱の影に隠れるようにして、子猫が雨に濡れていた。
 小さなその身体が小刻みに震えている。
 その姿は、オリヴィエにアンジェリークの泣き顔を連想させた。
「あんたも一人なのかい?」
 ほろ苦く笑い、話しかけながら、オリヴィエは子猫を抱き上げる。
 元々は白かっただろうに、汚れて灰色になっているその子猫に、オリヴィエは頬を寄せた。
「可哀想に。・・・ここで会ったのも何かの運命だ。私があんたを拾ってあげるよ」
 上着のまだそれほど濡れていない部分で、オリヴィエが子猫の身体を拭いてやろうとした時。
 パシャリ。
 近くで、水の跳ねる音がした。
 思わず音のする方向を振り向くと。
 降りしきる雨の中で輝く、金色の光が目に映った。
「オリヴィエ様!」
 そう、呼びかけてくれる声の主は・・・。
「アンジェリーク・・・?」
 オリヴィエは、目をぱちくりとさせる。
「私邸に伺ったら、まだお帰りになっていないって・・・。心配したんですよ!」
 淡いピンク色の傘をさしたアンジェリークは、背伸びをしながらその傘をオリヴィエに向かって差し伸べる。
 そしてアンジェリークは、手に持っていたカバンから、大きなタオルを取り出した。
「はい。ちゃんと拭いてくださいね、風邪をひきますから」
 そのタオルを手渡そうとして、アンジェリークはオリヴィエの手のひらの上にいる、子猫に気付く。
「オリヴィエ様?その子猫、どうしたんですか??」
 その問いかけに、オリヴィエはハッと我に返った。
 アンジェリークがこうして探しに来てくれるなんて、思ってもみないことで。
 思わず、思考回路が止まってしまったのだ。
 オリヴィエは慌てて、アンジェリークの瞳を覗き込んだ。
 エメラルド色のその瞳は・・・いつもと同じ優しい光を湛えて、オリヴィエを見つめていた。
「この猫、捨てられてたみたいでさ。ここで会ったのも何かの縁だから、私が飼おうと思ってるんだ」
(本当は、こんなことを言いたいんじゃない)
 そう思いながら、オリヴィエは答える。
 アンジェリークは、笑う。
 ついさっき、泣いていたのが嘘のように。
「可愛い子猫ちゃんですねv名前はどうするんですか?」
「・・・アンジェ」
「え??」
「今決めた。そのコの名前は、アンジェだよ」
 アンジェリークの頬が、仄かに赤くなった。
「オリヴィエ様?」
「そしたら、ずっとあんたと一緒にいるような気分になれるだろ?」
「もう、オリヴィエ様ったら!」
 ぷくりと頬をふくらませるアンジェリークを見て、オリヴィエは小さく笑った。
 それから、急に真面目な顔になって、
「アンジェリーク。さっきはごめんよ。私がどうかしてたんだ」
 そう、謝ると。
 胸のつかえが取れたようにスッキリした。
「もういいんです。私も悪かったんですから」
 アンジェリークは、やっぱり優しく微笑む。
 その笑顔を、オリヴィエは心から愛しく思った。
「さ、早く帰りましょ、オリヴィエ様?雨に濡れて風邪をひいた、なんてコトになったら、ジュリアス様からた〜っぷりお説教されちゃいますよ」
「そうだね『そなた、自分の体調管理もしっかりとできないのか!?』なーんてね」
 タオルを肩にかけると、オリヴィエはアンジェリークの手から自分の手に、傘を移した。
「私が持つから。あんたはアンジェをお願いね」
「はいっ!!」
 可愛らしいピンクの傘の下で、二人は仲良く寄り添う。
 降りしきる雨の中、二人の姿は段々と小さくなり・・・やがて、消えていくのだった。

〜 END 〜



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元ネタは、ラブラブ通信&マサさんです。
ラブ通のオリヴィエ様が子猫に手を差し伸べているイラスト!!
アレを見て、「このオリヴィエ様で、一作書けるのでは??」と、
マサさんが案をくださいました。
ウチのオリヴィエ様って、どうしても他の守護聖のサポート役になってしまって、
なかなか恋愛対象になりにくい(笑)のですが、
「子猫を抱き上げて、『あんたも一人なのかい?』とか、
ヴィエ様に傘を差し伸べるリモちゃん!!」
等、色々アイディアいただきまして、今回の話が書けました。
ご協力ありがとうございましたv
ヴィエ様とリモちゃんの喧嘩の理由は・・・。
皆様のご想像にお任せしますvvv
まだまだラブラブ話を書くにはスランプ気味ですが、カティリモも頑張ります〜っ!!




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