サヨナラからとり戻せ




 バッチーン!!
 鋼の守護聖の私邸に、突然響き渡った平手打ちの音。
 それから。
「ゼフェル様なんて、大嫌い!!」
 金の髪の少女がその私邸から飛び出した。
「補佐官様?」
「アンジェリーク様、どうされたのですか!?」
 呼びかける声に振り向きもせず、彼女は駆け去って行き…。
 そのまま、聖地から姿を消してしまったのだった。

 ゼフェルは、イライラしていたのだ。
 昨日まで聖地に滞在していた、他宇宙からの使者。
 女王陛下の補佐官という立場から、その中年の男の世話をしていたアンジェリーク。
 アンジェリークの好意を良いことにその男は彼女に何かとちょっかいを出し、それだけでは飽き足らず、彼女を好色な目で眺めたりしたのだ。
 よりによって、天使のように清らかな、ゼフェルだけのアンジェリークを!!
 アンジェリークと二人きりの時、その男を悪し様に罵ったゼフェルは、彼女からやんわりと叱られた。
「仮にも女王陛下のお客様ですよ?そんな失礼な事、言わないで下さい」
「だってよー。いっくら陛下の客だって、あんな礼儀知らずな野郎にはビシっといってやらねーと」
「ダメです、ゼフェル様。お客様ももう帰られるんだから、そこまでにして下さいね?」
 釈然としないゼフェルであったが、アンジェリークにそうまで強く言われると、引き下がらずを得なかったのだった。
 そして、その中年ヒヒジジイがようやく帰ったと思ったら…。
 ゼフェルは出くわしてしまったのだ。アンジェリークとランディが庭園で何やらヒソヒソと話している場面に。
 ランディの野郎、オレのアンジェにっ!!
 そう思ってランディの前に飛び出そうとした時、
「ゼフェル様にはナイショですよ?」
「分かってるって」
 二人の会話が耳に入って。ゼフェルはその場を動けなくなってしまった。
(一体、どーゆーコトだよ??)
 アンジェリークとランディはお互いに手を振りあって、その場を立ち去る。
 取り残されたゼフェルは、愕然として、今の二人の言葉を頭の中で反芻した。

 ゼフェルは、更にイライラしてしまった。
 庭園から逃げるように私邸に帰ってきた後も、アンジェリークとランディの事が気になって仕方がない。
(もしかして…)
 アンジェリークとランディは、自分が知らないだけで特別な関係なのではないか?という疑問が頭をもたげてくる。
(アイツに限って…)
 そう思うが、ゼフェルとアンジェリークが女王陛下公認の仲になってもなお、他の守護聖たちは隙あらばアンジェリークを狙っているのだ。アンジェリークがそんな彼らにほだされない、という保証はどこにもないのだった。
(ホンットにイライラするぜ!)
 ゼフェルは不機嫌に髪を掻きあげて、不機嫌にベッドに寝転がった。
 そんな時、執事がアンジェリークの来訪を告げて。不機嫌ながらも少し気分が良くなったゼフェルは、アンジェリークを部屋に招き入れたのだった。
「こんにちは、ゼフェル様!」
「よお」
 何だか不機嫌そうなゼフェルを見て、アンジェリークは小首をかしげた。
「ゼフェル様、何だかご機嫌悪そう」
「んなコトねーよ」
「ホントですかぁ?」
「で、何の用事で来たんだよ?」
 素っ気ないゼフェルの物言いに、アンジェリークの表情が微かに曇ったが、今日のゼフェルはそんな事、気にしていられなかった。アンジェリークの顔を見ると、どうしてもランディを思い浮かべて不機嫌になってしまう。
(こんな事なら、居留守使って合わなきゃ良かったぜ)
 そんなゼフェルの気持ちを知ってか知らずか、
「そうそう、今度ランディ様が…」
 アンジェリークがランディの名前を唇から紡ぎ出した瞬間、ゼフェルの頭の中で何かがブチ切れてしまった。
 本当に言い訳になるが、最近ゼフェルはイライラしていたのだ。
「おめーよぉ。こーやってオレの所に殊勝に通ってくるけど、ホントはランディが好きなんじゃねーの?」
 アンジェリークの若草色の瞳が大きく大きく見開かれた。
「ゼフェル様、何を言ってるんですか?」
「とぼけるな!オレが何も知らないとでも思ってんのか!?」
 見る見るうちにアンジェリークの表情が悲しく曇り、その後、滅多にないことだが、彼女は表情を険しくした。
「とぼけるなって…。一体、何が言いたいんですか!?」
「おめーが別れて欲しいってんなら、オレはいつでも別れてやるからよ。そん時は遠慮せずに言えよな」
 言ってすぐに、ゼフェルは後悔した。本当はこんなコト、言うつもりはなかったのだ。ゼフェルは彼女を手放す気など全く無いし、彼女を悲しませるなどもっての他と、いつでも思っているのだから。
「ゼフェル様…。私のこと、そんな風に思っていたんですか?」
「あーん?思ってて悪ぃかよ」
 しかし、口はゼフェルの意思とは関係なく、どんどん酷い言葉をアンジェリークに向かって投げつけるのだった。
「……っ」
 アンジェリークは俯いて、なにか呟いたようだった。
「何か言いたいことがあれば、言えよな?」
 追い討ちをかけるように投げかけられたゼフェルの言葉に
「ゼフェル様なんて、大嫌いっ!!」
 激しい平手打ちとその言葉を残して、アンジェリークはゼフェルの部屋を飛び出していってしまったのだ。
 ゼフェルは、見てしまった。去り際に、彼女が泣いているのを。
 追いかけて、謝らないといけない。理性ではそう思ったが、感情の方がそれを許さなかった。
 そして、騒ぎ立てる使用人達にゼフェルは冷たく告げたのだった。
「ほっとけ。オンナのヒステリーに付き合う必要はねーだろ」
 左の頬が、ヒリヒリと焼けつくように痛んだのは、ぶたれたせいだけでなく。ゼフェルの心の中の痛みを表しているのかも知れなかった。

 アンジェリークは、ただ、悲しかった。
 やっと空いている時間を見つけてゼフェルに会いに行ったら、ゼフェルは不機嫌そうで。そして彼は、アンジェリークを全く信用していないような言葉を彼女に投げつけたのだった。
(私はいつだって、ゼフェル様だけが大好きなのに…)
 ゼフェルを叩いた右の手が、たまらなく痛かった。
 拭っても拭っても、涙が溢れてきて。
 そんなやり切れない気持ちのまま、アンジェリークは思った。
(もう、聖地にはいられないわ。だって…、ゼフェル様に嫌われちゃったんだもの)
 そう考えて、アンジェリークは星の小径へと歩を進めたのだった。



 ゼフェルが異変に気が付いたのは、夜になってから。
「ゼフェル様のお屋敷に行って来ると外出されたまま、アンジェリーク様がお戻りにならないのですが…」
 アンジェリークの私邸の執事が、帰りの遅い主人を心配して迎えに来た時だった。
「はぁ?アイツなら、大分前に帰ってったぜ(正確には帰っていったんじゃなくて、オレが追い出したようなもんだけどよ)」
「いいえ、私邸には戻っておりませんし、聖殿の執務室にもいらっしゃらないご様子。アンジェリーク様は私邸で夕食を召し上がるご予定でした。それなのに戻ってこないということは、何かがあったに違いありません。ゼフェル様、お心当たりはございませんか?」
 何か、についての心当たりなら、いくらでもあった。が、言うことなどとても出来ない。
「分かった。オレも探してみるからよ。見つかったら連絡する。そっちもアイツが戻ったら連絡くれよ」
「かしこまりました。引き続き捜索を続けます」
 執事を見送った後、ゼフェルは苛立たしげに舌打ちをした。
(オレのせいかよ!?)
 疑問符をつけるまでもなく、アンジェリークの失踪の原因は、ほぼ間違い無くゼフェルである。ということは分かっている。
「ゼフェル様、アンジェリーク様が行方不明なので?」
 尋ねてくる使用人に、
「…オレのせいだって言いたいんだろ?分かってるよ、ちゃんと責任持って探し出すから心配すんな」
 慌しく私邸から出たゼフェルを待ち受けていたのは。
「おやー、ゼフェル。こんな時間にどこに行くんです?悪いですけど、これから私と一緒に来てもらいますよ。女王陛下があなたをお呼びですからね〜」
 女王陛下の命を受けてゼフェルを迎えにきた、ルヴァであった。
(やっべー。もう陛下にまで知られてんのかよ!?)
 ルヴァに連れられて女王の執務室に向かうゼフェルは、何気なくルヴァの表情を観察した。が、ルヴァは平静と変わらない穏やかな表情で、何を考えているのか読み取れない。
 現女王のロザリアは、尋常でない程にアンジェリークを可愛がっているため、アンジェリークを泣かせて、しかも彼女の行方が知れなくなった、などということがバレようものなら、ゼフェルは酷い目に会うに違いなかった。
 考えているうちに執務室に辿り着き、ルヴァがそのドアをノックした。
「陛下、失礼致します」
「どうぞ入って頂戴」
 その声のトーンで、
(ぜってーバレてる…)
 ゼフェルは確信したのだった。
「ゼフェル。アンジェリークが行方不明のようですけれど。どういうコトかお聞かせ願えるかしら?」
 開口一番、にこやかに笑いながら、女王はゼフェルに声をかけた。しかし、目は笑っていない。いつの間にやらロザリアの側近くに席を移していたルヴァの、非難の眼差しも痛い。
「………」
「あら、答えられないようですわね?」
 微笑を絶やさず、しかし目つきは恐ろしいままで、女王は言葉を続けた。
「あの娘は今、聖地にはいないわ。どうやら星の小径を使ってどこかに行ったらしいの。アンジェリークはわたくしの可愛い可愛い優秀な補佐官ですわ。責任を持って、見つけてくださらないと困りますわね?」
 ゼフェルがロザリアの嫌味攻撃を受けている間に、守護聖たちが続々と女王執務室に駆け付けてきた。
『アンジェリークの一大事!』
 と聞きつけ、取りも直さず、迅速に集合したのだった。
 大集合した守護聖たちに、女王は命令を下した。
「みなさん、既にお聞きお呼びとは思いますけれど、アンジェリークが行方不明になりましたの。どうして、という質問は、わたくしではなくゼフェルにお願いしますわね。もう夜は遅いですし、手分けしてあの娘を探していただきたいと思って召集をかけた次第ですわ」
「はっ。陛下のご命令とあらば」
 いつも以上の情熱を込めて、ジュリアスが女王命令を拝命する。
「それでは、後はよろしく頼みます。見つかったら、すぐに連絡を頂戴」
 華麗なる女王陛下が優雅に姿を消した途端、守護聖達はゼフェルに群がった
「ちょっと、ゼフェル!一体どういうコトなのさ!?まさか、アンジェを泣かせたんじゃないだろうね??」
「わたくし達にも分かるように、キチンと説明してくださいね」
「さあ、早くこうなった原因を述べるが良い」
 質問の嵐を浴びながら、ゼフェルは茶色の髪をした風の守護聖を探した。探し出して、イチャモンをつけてやりたかったのだ。
 苦労せずに彼は見つかったので、ゼフェルは年長・年中の守護聖達を掻き分けて、ランディに詰め寄った。
「このランディ野郎、てめーが悪ぃんだからな!てめー今日庭園で、オレのアンジェと何を話してやがった!?」

 怒りの矛先を向けられたランディは、困惑の表情でゼフェルを見た。
「何って…。内緒って言われてたけど、こうなったら言うしかないよな…。もうすぐゼフェルの誕生日だろ?だから、俺達でお祝いパーティをしようって相談してたんだよ」
 ゼフェルは、目の前が暗くなった。
(オレはもしかして、もしかしなくても、アンジェリークに悪いことをしてしまったのではないか??)
 自分がイライラしていたからって、つまらないことでアンジェリークを疑い、そして傷付けてしまった事への後悔が、今更ながら波のように押し寄せてきた。
「で、ゼフェル。お前はそんな些細なことが原因で、あのお嬢ちゃんを泣かせたというのか?」
「いやーね。男の嫉妬容量は女の100万倍って言うけど、それで女の子を泣かせるなんてサイテー」
「ちっ、違うっ!それだけじゃねーんだ!!元凶はあのヒヒジジイなんだよっ。この前聖地に来てたヤツ。アイツがアンジェのコトやらしい目で見るからずっとイライラしててよ、やっと帰ったと思ったら、今度はアンジェが『ゼフェル様には内緒で』なーんてランディ野郎と話してるから、ついカッと来ちまったんだ」
「…ただの言い訳に過ぎぬな…」
「あー、ゼフェル。それは男としての度量が足りないとしか言い様がありませんねぇ」
「ゼフェルって、子供だよね」
 質問の嵐とは打って変わって、今度は非難の嵐に捲き込まれるゼフェル。これも自業自得と、しばらくは我慢していたが、やがて我慢の限界に来て叫んだ。
「うっせーっ!!!とにかく、オレが連れて帰ってくるから、おめーら手出しすんなよ?」
「心当たりはあるのだろうな?」
「あったりめーだぜ」
 ゼフェルに念を押す首座の守護聖に自信満々で返事を返し、
「では、ここはゼフェルに任せることにいたしましょう」
 他の守護聖達の承諾を得て、ゼフェルは単身、アンジェリーク探しに出掛けた。



 一方、アンジェリークはというと、主星に降り立っていた。
 学生時代にお気に入りだったアンティークショップに始まり、本屋、ケーキ屋、甘味所と、思い出の場所を巡りに巡った。
 アンティークショップで可愛いテディベアを見つけた。本屋で立ち読みをした。ケーキ屋のケーキと甘味所のあんみつは、以前と同じに美味しかった。
 が、アンジェリークは全然楽しめなかった。
 テディベアを抱いている時も、本を読んでいる時も、大好きだったイチゴムースのケーキを食べている時も、黒蜜の味が絶妙なあんみつを食べている時も、ゼフェルのことが頭に浮かんだ。
(叩いたりする前に、もっとゼフェルと様と話し合えば良かった…)
 と、思う。
 気が付けば、もう夜になっていたけれども。帰るに帰れなくて、アンジェリークはこれまた学生時代に大好きだった、公園に行くことにした。
 公園は学生時代と変わらぬ佇まいで、アンジェリークを迎えてくれた。
(そう言えば、ゼフェル様と一緒にここに来たこともあったけ…)
 付き合い始めて間もない頃、ゼフェルに主星に連れて行ってもらったことがあった。そして、今日アンジェリークがたどったのとほとんど同じルート(その時は、ゲームセンターにも立ち寄ったので)を二人でデートしたのだ。
 本当は甘いものが嫌いなのに、アンジェリークのケーキとあんみつに付き合ってくれた優しいゼフェル。
 機械の工学書を見て、瞳を輝かせていたゼフェル。
 この公園では、『おめーも良く食べるよなぁ』とかブツブツいいながらも、アンジェリークのためにソフトクリームを買ってきてくれた。
(今日を楽しめないのは、ゼフェル様がいないからだ。そして、私はゼフェル様と一緒にここに来ることは、もう2度とないかも知れない…。だって、嫌われちゃったんだもん)
 アンジェリークの瞳から、涙が零れた。今日は散々泣いて、もう涙なんて無くなってしまったと思っていたのに。一粒、二粒。後は、数えられないぐらい。
(みっともないから、早く止めなくちゃ)
 そう思ったとき、アンジェリークの目の前に、グレーのハンカチが差し出された。
「ったく、いつまでもメソメソしてんじゃねーよ」
 信じられない思いで前方を振り仰いだアンジェリークの瞳の中に、ゼフェルの姿が映し出された。



 アンジェリークの行方についてゼフェルには幾つか心当たりがあった。
 聖地を出てどこかに行くのなら、まず生まれ故郷である主星に行っているに違いない。そして、主星の中でのアンジェリークのお気に入りスポットも、ゼフェルは知っていた。
 前にデートしたときに、アンジェリークが案内してくれたのだ。アンティークショップ、ドでかい本屋、ケーキ屋、甘味所。ゲーセンはゼフェルが行きたくて連れて行ってもらった場所なので候補から外して、ゼフェルは片っ端から彼女のお気に入りスポットを回った。
 アンティークショップは既にしまっていて。本屋はでかすぎているのかいないのか分からない。ケーキ屋の主人に『可愛い金の髪の少女が、すっごく嬉しそうな表情でイチゴムースのケーキを食べに来なかったか』尋ねて、ようやく目撃証言を得た。次に行った甘味所でも、店員が彼女を目撃していた。
(残るは公園しかねーな)
 ゼフェルはダッシュで公園に向かった。
 アンジェリークがまた泣いているかも知れないと思うと、いても立ってもいられなかったからだ。
 公園に駆けつけたときは息が上がってしまっていた。肩で息をしながら、ゼフェルは目だけでアンジェリークの姿を探す。
 木陰の下の、ベンチで。フワフワの金の髪が、光っていた。
 ゼフェルはアンジェリークの側に近寄った。
 やっぱりアンジェリークは泣いていて。ゼフェルはぎこちなく自分のハンカチを彼女に差し出したのだった。
「ったく、いつまでもメソメソしてんじゃねーよ」



 月明かりの下の公園で、二人の男女が向き合った。
 ゼフェルはホッとした面持ちだった。アンジェリークは困惑した表情だった。
 お互い向き合ったままで、ほんの少しの時が流れて。
「ごめんなさいっ」
 アンジェリークは、ゼフェルの前から逃げようとした。
 ゼフェルは、逃がさない。アンジェリークの白い腕を掴み、そのまま自分のほうに抱き寄せた。
「アンジェ、オレが悪かった!だから、逃げたりするなよ…」
「ゼフェル様…」
 もう絶対離さない、という決意も新たに、ゼフェルはアンジェリークを抱きしめる腕に力を入れた。
「顔…。ゼフェル様、お顔、大丈夫ですか?」
 アンジェリークのためらいがちな声が聞こえてきた。
「んなコト気にすんな。おめーの心の方がオレの顔なんかよりずっと痛かったんだし…。ホント、悪かった。最近イライラしてたからって、おめーにあたったりして。…許してくれるか?」
「もう怒ってなんかいません。ただ、ゼフェル様に嫌われちゃったと思って、悲しかったの。でもこうして、迎えに来てくれて、嬉しいです。ゼフェル様が、前にここでデートしたことを覚えてくれていて、嬉しいです」
 アンジェリークの両手が、おずおずとゼフェルの背中に回された。
「ゼフェル様。私やっぱり、ゼフェル様が好き。だってゼフェル様と一緒じゃないと、何をしても全然楽しくないんだもの。だから、これからもずっと側にいて良いですか?」
「バカヤロー、それはオトコの台詞だろ?オレがおめーにオネガイしなくちゃなんねーんだろうが?その、よ。ずっと側にいてくれってよ。今回のコトは一方的にオレが悪いんだしな」
 ゼフェルはアンジェリークを抱きしめている腕の力を少しだけ抜いて、アンジェリークの顔が見られるような態勢を取った。
 そして、その若草色の瞳を見つめながら、勇気を出して告げたのだ。
「アンジェリーク。オレと一緒に聖地に帰ってくれ!!」
 返事は…。
「…はい」
 もちろん、『イエス』だった。
「アンジェリーク…!」
 ゼフェルは彼女の細身の身体を思いっきり抱きしめて、嬉しさを表現したのだった。



 無事にアンジェリークを聖地に連れて戻ったゼフェルは、今回の件について再び女王陛下からお小言&嫌味をいただく事になった。
 が、あんまりにもゼフェルがヘラヘラしているので、ロザリアは呆れてこう言ったという。
「んもう、そんなに締りの無い顔をして…。今回はアンジェリークに免じて許して差し上げますけれども、またアンジェリークを泣かすようなことがあれば…。許しませんわよ?」
「分かってるよ。もうぜってー泣かせねーから、安心しな」
 


 そして6月4日のゼフェルのバースデーには、アンジェリーク主催で予定通り盛大なパーティが催された。
 相変わらず他の守護聖たちがアンジェリークにちょっかいを出してくるけれど。彼女はゼフェルだけの特別な笑顔でいつでも彼の側にいてくれるから。
 ゼフェルは自分を、世界一の幸せ者だと思う。

 HAPPY BIRTHDAY!ゼフェル様!
〜 END 〜







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