MajiでKoiする5秒前




 きっかけは、ほんの些細な一言だった。
 女王補佐官と女王候補だけのお茶会の席で。
「ゼフェル様って、とっても優しい方よっ。私、大ファンなんだもんっ!!」
 思わず言ってしまった、その言葉。
 こんなに大事になるなんて、思わなかったの。
 だって、ロザリアがゼフェル様のコト、怖いって言うんだもの。
 全然怖くない方だってコト、言いたかっただけなのに。
 まさか、こんなことになっちゃうなんて・・・。



 何だか、守護聖様方に、笑われているような気がする。
 気のせいかしら?
 聖殿の廊下をテクテクとあるいていると、マルセル様が私に声をかけてくれた。
「おはよう、アンジェリーク!」
 マルセル様って、本当にお可愛らしい方。
「おはようございます」
 にこやかな気分で挨拶を返すと、マルセル様がひそひそと私の耳元に囁いた。
「ねえ、アンジェ。君って、ゼフェルのファンなの?」
「ええ〜っ!?」
 思わず手に持っていた資料を取り落としそうになる私に、マルセル様は続けた。
「みんな言ってるよ。ゼフェルにアンジェは勿体ないって。でも、アンジェがゼフェルの事好きなら、僕も応援するよ。頑張ってね!」
 ひらひらと可愛らしく手を振りながら、マルセル様はご自分の執務室に戻っていった。
 一体、どういうコト!?
 これから、ゼフェル様の執務室に伺おうとしていたのに、ゼフェル様もこのコト、ご存知なのかしら・・・??
 私はただ、ゼフェル様がお優しい方だって主張したかっただけなのに、どうしてこんなコトに!?
 クラクラとする頭を抱えながら、廊下をウロウロしていると。
「あら、アンジェリーク。こんな所でチョロチョロと、何をしているの?」
 ロザリアが登場した。
「ロザリア〜っ。どうしてか知らないけど、私がゼフェル様のファンだって噂になってるみたいなの〜」
 思わずロザリアにそう言うと、彼女は嬉しそうにクスリと笑った。
「わたくしが、皆様にお教えしたのよ」
 その爆弾発言に、私はまた、書類を落っことしそうになってしまった。
「ロザリア〜(涙)」
 泣きそうになりながらロザリアに縋りつくと。
「何を泣きそうな顔をしているの?わたくしがこうして、皆様に言いふらしたんだから、ゼフェル様もあんたを放っては置けなくなるわよ。可愛いあんたのことを思っての、この親心。分かって欲しいわ」
 ・・・ロザリア、それって、親心のつもりだったのね・・・。
 項垂れる私の背中を、ロザリアが軽く押した。
「さ、これからゼフェル様の執務室に行くんでしょ?とっととお行きなさいな」
 ロザリアはツカツカとゼフェル様の執務室の前に歩み寄り、ドアをノックした。
「さ、早くっ!!」
 急かされて、ゼフェル様の執務室に入らざるを得ない状態になる。
 私は覚悟を決めて、執務室のドアを開けた。
「失礼します」


 ゼフェル様は、いつもどおりに私を迎えてくれた。
「よお!元気してたか?」
 ほとんど毎日お会いしているのに、元気も何もないと思うんだけど。
 ちゃんと聞いてくれる、ゼフェル様の優しさが嬉しい。

 この前ジュリアス様に怒られた時。
 森の湖の木の陰に隠れて泣いていたら。
 ゼフェル様がそこを通りかかって。
『どうした』
 って聞いてくれて、私が泣き止むまで、ずっと側にいてくれた。
 いつもは乱暴な言葉遣いで、態度もぶっきらぼうで。
 ちょっと怖いイメージがあるゼフェル様だけど。
 ホントは優しい方なんだな、って、その時思ったの。
 それから私は、ゼフェル様が全然怖くなくなった。
 どんなに乱暴なことを言われても、私は知ってるから。
 ゼフェル様が優しい人だってコトを。

「はいっ、元気ですっ!!」
 ニコニコと返事をすると、ゼフェル様も嬉しそうに笑ってくれた。
「おめーはホント、いっつも元気だよな。で、今日は何だ?」
「育成のお願いに・・・」
「分かった。覚えといてやる」
「よろしくお願いします!」
 どうやらゼフェル様は、私がゼフェル様のファンだってコト、知らないらしい。
 良かった、とホッとして、私がゼフェル様の執務室を退出しようとすると。
「ちょっと待て」
 呼び止められた。
 振り返ると、ゼフェル様はさり気なく私から視線を逸らせながら、言った。
「おめーよぉ。今度の日の曜日、時間空いてるか?」
「えっと、大丈夫ですけど?」
「んじゃ、オレと一緒に出掛けようぜ。おめーの好きそうなケーキの店に連れて行ってやるよ」
 ケーキ、と聞いて、私の目はハートマークになる。
「ええっ!?ケーキですかっ!?!?喜んでご一緒させていただきます〜」
 ウキウキ気分でゼフェル様の執務室を出てから、私は気付く。
 もしかしてこれって、デートのお誘い?
 ゼフェル様は普通を装っていたけれど。
 知ってらっしゃったのかもしれない、私の爆弾発言。
 ああ、もうイヤっ(涙)!!



 守護聖様方に色々とからかわれ、ジュリアス様からは
 『程々にするようにな』
 と、訓戒を受け、日の曜日がやってきた。
 昨日の晩、一生懸命着ていく服を選んだんだけど。
 ふわふわのひらひら、ゼフェル様は嫌いだろうな〜。
 でも良いの、これが私が一番可愛く見える格好なんだもの。
 慣れない格好をして、変な姿でお会いしたくないわっ!!
 待ち合わせは、公園の噴水の前。
 ざわめく人達を眺めながら、5分前には約束の場所に着いた。
 心臓が、ドキドキしている。
 私、ゼフェル様のコト、好きなのかしら?
 優しくしてもらって、好意は持っているけれど、本当に好きなのかな??
 そう思って、噴水の水面を眺めていると。
「悪いっ!遅れたか??」
 ゼフェル様が現れた。
 焦り顔で走り寄るその眼差しに。
 本当にこの方に恋してしまいそうな、そんな予感がした。



 ゼフェル様が連れて行ってくださったケーキ屋は、本当に美味しいお店だった。
「ウマイか?」
 そう聞かれて、私は答える。
「はいっ!!すっごく美味しいです〜vv」
 私の目、きっと、ハートマークになっているに違いない。
 大好きなイチゴのヨーグルトムース。
 甘さ控えめで、ヨーグルトの酸味とイチゴの甘さがマッチして、とっても美味しい。
 大好きな、レアチーズケーキ。
 チーズの風味がとってもきいていて、レモンの酸味もいい感じなの。
 本当に、美味しい。
 でもどうしてゼフェル様が、こんなお店を知ってらっしゃるのかしら?
 甘いものは嫌いって、前にお伺いしたような気が・・・。
「ゼフェル様、甘いものお嫌いって言ってらっしゃいましたよね?どうしてこんなに可愛くて美味しいお店を知ってるんですか??」
 ゼフェル様は、ニヤリ、と笑った。
「おめーのために、調べてやったんだよ」
「えっ、ウソ!?」
 思わず言ってしまった私に、ゼフェル様はやっぱり、ニヤリ、と笑って言った。
「つーのはウソで、マルセルに教えてもらったんだ。アイツ、おめーと一緒で甘いもの大好きだからな」
「そうなんですか〜」
 マルセル様セレクトなら、このお店の良さにも納得ね!
 ケーキをつつきながら頷く私に、ゼフェル様は更に続けた。
「なんかよぉ、周りがうるさくって、かなわねーぜ。たまにはデートに誘ってやれとかよぉ。おめー、ロザリアに余計なこと言うなよな」
 ああっ!あのコトだわっ。ゼフェル様、やっぱり知ってらした!?
 思わず青くなったり赤くなったりする私に、
「でもよ、嬉しかったぜ。オレのコト、優しいって庇ってくれたんだろ?んなコト言ってくれるの、おめーだけじゃねーの?」
 ゼフェル様は、優しい笑顔で微笑みかけてくれた。
 やっぱり私、ゼフェル様のコト、好きみたい。
 そうじゃなかったら、どうしてこんなにドキドキするの?
 顔が、上気して。困ってしまう。
 黙ったまま、ケーキをつつく私に、ゼフェル様は穏やかに告げた。
「ケーキは、その礼だからな。ゆっくり味わって食えよ。オンナって、好きなモンはじっくり食うのが好きなんだろ?」
 さっきからゼフェル様は、コーヒーばかり飲んでいる。
 それなのに、私を気遣って『ゆっくり食えよ』って言ってくれる。
 ゼフェル様は、本当に優しい。
 もっと、ゼフェル様のことを知りたい。
 そう思う。
 こんな心のトキメキ、ゼフェル様も感じてくれてると良いな。
 上目遣いでゼフェル様を見ると、目が合ってしまった。
 笑いかけてくれるその眼差しが優しくて。
 私は赤くなって一人俯きながら、黙々とケーキを食べた。



 ケーキを食べ終えた後、ゼフェル様のお買い物に付き合った。
 ゼフェル様が買ったのは、難しそうな工学書。
 機械いじりがお好きだって、前に言っていらっしゃったのを思い出した。
「ゼフェル様って、何をお作りになられるんですか?」
 そう、訊ねると。
「ロボットとか、まあ、色々な。今、エアバイクを作ってんだ。そうだ!出来上がったら、おめーも一緒に乗せてやるよ」
「本当ですか!?」
「おう!約束な!!」
 嬉しい!ゼフェル様の作ったエアバイクに乗せていただけるなんてっ。
 キラキラと瞳を輝かせる私に、ゼフェル様は照れたような表情になった。
「オイオイ、あんまし期待すんなよな。出来上がりまで、まだ時間かかりそうだしよぉ」
「でも、楽しみにしてますね♪」
 女王候補寮の前まで、ゼフェル様は私を送り届けてくれた。
「ゼフェル様、今日はありがとうございました!!」
 そう、お礼を言った私を見て、ゼフェル様は黙り込んでしまった。
 間を持たせられなくて、
「それじゃ、失礼します」
 寮に戻ろうとした私に、ゼフェル様が不意に聞いた。
「次、いつ会える?」
「え??」
 驚く私に、
「オレ、おめーのコト、気に入ったからよ。これからも色々と付き合ってやるよ」
 ゼフェル様はそれだけ言うと、クルリと私に背を向けた。
「そんじゃ、またな。あばよ」
 手を振り去っていく後姿に、やっぱりドキドキしてしまう。

 ゼフェル様の後姿を見送りながら、私は囁いた。
 その、背中に向かって。
「ゼフェル様、大好き!」
 そう呟くと。
 心から嬉しい気分になって。
 私は足取りも軽く、自分の部屋に戻るのだった。
 自然に笑ってしまう表情を、どうすることも出来ずに。
 何だかとっても、幸せな気分で。


〜 END 〜


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ゼフェル様、2002年6月のお誕生日、おめでとうございまーす!な、お話です。
お誕生日ネタは昨年使ってしまったので、今回は別ネタで攻めてみました。
付き合うとかそういう以前の胸のトキメキが、ふみふみは大好きです。
好きな人を見て、キャーキャー言ってる時期(笑)。
なので、そんなゼフェリモが書きたいな〜、と思って書いたんですが。
既に二人、ラブラブモード入ってますね(爆)。
という訳で、ゼフェル様、おめでとうございます。
これからも素直じゃないけど可愛いお人でいてください(笑)。




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