夏の一日


 パタパタと軽やかな足音が耳に届いた。
「ゼフェル様〜っ!!」
 名前を呼ばれ、ゼフェルが振り返ると。
 ピンクのマーメードラインのドレスを身に纏った女王補佐官が、ゼフェルに向かってものすごい勢いで駆けてくる姿が目に入った。
 長いドレスの裾を今にも踏みつけそうで、危なっかしいコトこの上ない。
「バッ、バカヤロウ!んなに急いで走ってると・・・」
 『転んじまうぞ!!』
 と、言う間もなく。
「キャッ!?」
 ゼフェルの目の前で、アンジェリークは派手にひっくり返った。
 年頃の娘にあるまじきその姿を見て、一瞬クラリと目の前が暗くなったが。
「おいおい、大丈夫かよ?」
 声をかけて、手を差し伸べてやると。
 アンジェリークはゼフェルの手をキュッと握りしめ、ニッコリと微笑んだ。
「ゼフェル様、海に行きましょ♪」
 唐突なその言葉に、
「はあ??」
 ゼフェルは間の抜けた聞き返し方をした。

 ゼフェルに引っ張り起こしてもらったアンジェリークは、ドレスをポンポンとはたきながら言う。
「主星ではもう、夏なんですよv夏といったら海!白い砂、青い波。波打ち際で語り合う恋人たち。ね、ゼフェル様。海に行きたくなったでしょ?」
「あのなぁ・・・」
 ゼフェルはため息をついた。
「おめーってヤツは、どうしていつもそうなんだ?ホンット、季節モノとか、イベントに弱いのな」
「だってぇ」
 ぷうっと頬をふくらませながら、アンジェリークが主張した。
「ゼフェル様と一緒に、海にいったコトないんですもの!夏は年に一度しか来ないんですよ!!今年行かなかったら、また来年まで待たなくちゃいけないじゃないですかぁ。それとも・・・」
 アンジェリークが瞳をウルウルさせる。
「ゼフェル様、私と一緒に海に行きたくないんですか?」
「・・・・・・」
 若草色の瞳を潤ませられると、もうゼフェルの負けだった。
「わーったよ!海だろうが山だろうが、おめーの好きな場所にドコでも付き合ってやる!!」
 半ば自棄になってそう言うと、アンジェリークの表情がパッと輝いた。
「わっ、嬉しい!じゃあ、次の日の曜日に♪絶対ですよ、ゼフェル様vvv」
 さっきまで泣き出しそうだったのが嘘のような極上の笑顔でアンジェリークは笑い。
 ヒラヒラと手を振りながら、ゼフェルから遠ざかっていく。
(・・・アイツって、ホントによぉ・・・)
 その後姿を見送りながら、ゼフェルはため息をついた。
 ・・・でもゼフェルは、そんなアンジェリークが好きなのである。
 ハッキリ言って、骨抜きであった(笑)。



 そんなこんなで、約束の日の曜日。
 ゼフェルはアンジェリークに主星に連れ出されていた。
「ロザ・・じゃなくて、陛下のご許可はいただいてま〜すvvv」
 ゼフェルを私邸に迎えに来たアンジェリークは、そう言ってニッコリと微笑んだ。
「さ、行きましょ、ゼフェル様」
 手を引っ張られ、ゼフェルは半ば強制的に海へと引きずられる。
 アンジェリークのパワーに圧倒されるゼフェル。
 ・・・長い一日になりそうだ。

 海には、人が大勢いた(当たり前だが)。
 人の多さに慣れていないゼフェルは、それだけでうんざり気分だ。
 しかし、アンジェリークは嬉しそうにはしゃいでいる。
「この人出!やっぱり海はこうでなくっちゃ!!」
 主星で育ったアンジェリークは、海は人が多いものだと思っているらしい。
 ゼフェルは健気にも、愛する彼女のために悲壮な決意を固めた。
(分かった・・・今日は気の済むまで、おめーに付き合ってやるからな・・・)
 しかし、ゼフェルのその決意は一瞬にして崩壊した。
 水着に着替えてゼフェルの目の前に現れたアンジェリーク。
 その姿を見て、ゼフェルは目が点になった。
 ・・・アンジェリークは、ビキニ姿だった。
 クリーム色の生地に、ひまわりの花が元気いっぱいに散らばっている。
 すらりと伸びた白い手足。
 キュッと引き締まったウエストが眩しい。
「ちょちょっ、ちょっと待て!!」
「??」
 キョトンとするアンジェリークに、ゼフェルは叫んだ。
「おめーなぁ!ビキニはマズイだろ、ビキニはっ!!!!」
「どうしてですかぁ?」
「若い娘が、んなに肌を露出させんなっ!!」
 まるでジュリアスのような物言いである。
 アンジェリークの頬がふくらむ。
「ゼフェル様のために、せっかく可愛いの選んできたのに〜」
 ゼフェルはアンジェリークを訥々と諭した。
「そーゆーカッコは、ハッキリ言って、オレも嬉しかったりする。けどよ、オレと二人きりの時だけにしてくれ、頼むから」
「でも・・・」
「他のヤツに、おめーのそんなカッコ、見られたくねーんだって!!」
 拝み倒すようにそう言うと、アンジェリークはニコニコと笑った。
「なっ、なんだよ!?」
「え〜?嬉しいんですv私、ゼフェル様のモノって感じでvvv」
 二人の間を、夏の熱い風が吹き抜ける。
 アンジェリークの柔らかな金の髪がフワリと風に揺れ、辺りに眩しく光を振りまいた。
 目を細めてその様子を眺めた後、ゼフェルはアンジェリークの腕を掴んだ。
「つーワケで、帰るぞ」
「えーっ!?だってまだ、全然泳いでないのに〜」
「その水着じゃダメだ、って言ってるだろーが!?」
「だってぇ〜」
「こればっかりは、泣こうがどうしようが、ぜってー譲らねえからな!」
 思いっきりふくれっ面でアンジェリークがゼフェルを見上げた。
「・・・その代わり、おめーの好きな店で、ケーキを好きなだけ奢ってやるから。な?」
そうゼフェルが提案すると、アンジェリークは少し機嫌を直したようだった。
「ホントに好きなだけ?」
「約束する」



 約束どおりアンジェリークにたらふくケーキを食べさせ、二人の一日は終わろうとしていた。
 何だかひどく、疲れてしまい、ゼフェルはアンジェリークに気付かれないように、小さくため息をついた。
「ゼフェル様、また、海に行きましょうね♪今度は絶対に、泳ぎたいもの」
 そう言って、アンジェリークは無邪気に笑う。
「ぜってーイヤだ」
「今度はちゃんと、ワンピースの水着を着ていきますからvね?」
 チラリと上目遣いで。
 アンジェリークがゼフェルを見つめる。
 この視線に、ゼフェルは弱いのだ。
「分かった。ちゃんとした水着を着てくなら、また付き合ってやるよ」
「きゃっ、嬉しいvvv」
 アンジェリークが飛び上がって喜びを表現する。
 ゼフェルにギュッと抱きついて、頬にチュッとキスをした。
「絶対に約束ですよ、ゼフェル様?」
 その笑顔は、やっぱり眩しくて。
「おう。約束な」
 ゼフェルはアンジェリークから視線を逸らしながら、ぶっきらぼうに答えた。



 白い砂、青い波。
 波打ち際で語り合う恋人たち。

 今日は実現させられなかったけれど。
 アンジェリークの望みを、近いうちに必ず叶えてやろう。
 自分の隣で愛らしく微笑むアンジェリークを見つめ、ゼフェルはそう思うのだった。
 



〜 終わり 〜




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一応、当サイトで3回目のゼー様のバースデー創作のつもりです(滝汗)。
リモちゃんが、すっごく押しが強いコになってしまいました・・・お許し下さい。
リモちゃんに振り回されるゼー様って結構好きなので・・・自分では書いていて楽しかったり。
改めて海に行く話しも、夏中に書ければいいな。
そんなこんなで、ゼフェル様、お誕生日おめでとうございましたvvv





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