Melty Kiss




 他人にはどうでも良いような。
 そんな小さな、日の曜日の出来事。



 ドドーン!!
 というような効果音が、ゼフェルの頭の中に鳴り響いた。
 目に前に並べられた、見るからに甘そうな数種類のお菓子たち。
 ゼフェルは、そのお菓子を並べてくれた少女にチラリと視線を向ける。
 ふわふわの金の髪を持つ愛らしい少女は、ニコニコと笑っていた。
 ・・・怒りながら・・・。
「ゼフェル様v」
 可愛い声で、名前を呼ばれる。
「全部、愛情た〜っぷり込めて作りましたv最低、一個ずつは召し上がってくださいね?」
(カンッペキ怒ってやがる・・・)
 冷や汗をかきながら、ゼフェルは思った。
 ゼフェルは甘いモノが苦手である。
 目の前でニッコリと微笑んでいるこの少女もそれを知っているワケで・・・。
 知っていて、こんなに大量のお菓子を出してくる、というコトは、もう嫌がらせ以外の何物でもなかった。
(日の曜日の約束、2回もすっぽかしちまったからなぁ)
 ゼフェルは遠い目をしながら、そんなことに思いを馳せる。
 1回目は、女王陛下の急な用事で。
 この件に関しては、アンジェリークも優しく許してくれた。
 しかし。
 2回目は、作りかけのロボットに夢中で、すっかり約束を忘れていて。
 この時のすっぽかしは、アンジェリークをひどく立腹させたらしい。
 そして今日、どうやらゼフェルは時の仕返しをされているようであった。
 ニコニコニコニコと、アンジェリークは笑う。
 しかしその微笑みは迫力ある笑みで。
(もう、逃げられねぇ!!)
 覚悟を決めて、ゼフェルはまず1つ、菓子を頬張った。
「美味しいですか?」
 アンジェリークがやっぱりニコニコと笑いながら、問いかけてくる。
(うめーけど、あめー!!)
 目を白黒させながらも、ゼフェルは健気にアンジェリークに頷いて見せた。
「嬉しい!」
 アンジェリークは笑うが、瞳は笑っていない。
「それじゃ、沢山食べてくださいねvv」
 言葉の端々にチクチクと棘を感じて、ゼフェルは途方に暮れ、思わず涙目になりながら決意した。
(仕方ねえ!こうなったら、もう全部食ってやる!!!)



 そして、30分後。
「みっ、水っ!!!!!」
 目の前に並べられていたお菓子を食べ尽くし、ゼフェルはアンジェリークに水を所望していた。
 胃が、ムカムカする。
 本来ならばトイレに駆け込んで戻してしまうところだが、そうならないのはひとえに、アンジェリークのお菓子が美味だからであった。
「どうぞ、ゼフェル様」
 アンジェリークが、冷たい水を差し出す。
 ゼフェルは無言で、その水を喉に流し込んだ。
「大丈夫ですか??」
 心配そうに聞いてくるアンジェリークは、もう、いつものアンジェリークだ。
 死ぬ思いでお菓子を平らげた成果が上がり、どうやらゼフェルは許してもらえたらしい。
「死にそうだけど、何とか生きてるぜ」
 そして本当にゼイゼイしながら、ゼフェルはアンジェリークにお願いをした。
 アンジェリークがもう怒っていないのは分かっていたが、ちゃんと言っておこうと思ったのだ。
「おめーが怒ってたってのはよっく分かったからよ。もう、キゲン直してくれよ。これからは、ぜってー約束すっぽかさねーようにするから」
「はい!」
 アンジェリークが元気良く答える。
「お菓子を半分食べてくれたら許してあげようと思ってたんですけど。全部食べてもらっちゃったので、ちょっと嬉しいですvvゼフェル様、私のことちゃんと思ってくれてるんだなって感じられて・・・」
「・・・頑張りすぎちまって、ちょっと、グロッキーだけどな・・・」
 死にそうになりながらテーブルにうつ伏せるゼフェルに、アンジェリークは可愛らしく小首を傾げてみせる。
「ゼフェル様」
「・・・あんだよっ」
 アンジェリークに向かって顔を上げると。
 軽く身をかがめて、アンジェリークがゼフェルにキスをしてくれた。
 ・・・チュっ・・・
 柔らかい唇の感触。
 それは、お菓子よりも甘いキス。
「・・・・・・」
 無言で目をぱちくりさせるゼフェルに、アンジェリークは悪戯っぽく笑ってみせる。
「少しは気分が良くなりました、ゼフェル様?」
 甘いモノは甘いモノでも、こんな甘さなら大歓迎だった。
 少し生き返ったような気分で、ゼフェルはアンジェリークの細い腕を掴んだ。
「頼むから、もっかいやってくれ。今、味わう余裕がなかったからよ」
 アンジェリークはニコリと笑って、ゼフェルに背中を向けた。
 そして、ゼフェルの声が聞こえなかったかのように、別のことを言う。
「お水、もう一杯持ってきますね」
 その言葉に。
 ガクリ。
 ゼフェルは、再度テーブルにうつ伏せ。
 ちょっと脱力してしまうのであった。



 とある日の曜日の。
 とても些細な物語でした。


〜 END 〜



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スランプを脱出しようとして、ゼフェリモに頼ってみました(笑)。
ちょっと可愛い感じのお話が書きたいな、というコトで、この内容に。
いかがなものでしょう??
本当は、もう、「スウィート ハニー」とか題名つけようと思っちゃいましたよ(爆)。
甘〜いお話になったと自分では思ってるんで・・・。
ゼフェリモ書くのも久々でしたので、楽しく書けました♪
でも、スランプ脱出には遠いかも・・・(涙)。





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