カプチーノ




 ふわぁと欠伸をしながら、ゼフェルは己の執務室に足を踏み入れようとしていた。
 今日も退屈な(?)執務が始まる。
「アンジェリークでも来りゃあ、ちょっとは退屈しのぎになるかも知れねえけどな」
 などと呟きながら、執務室のドアに手をかけたタイミングで。
「ん〜ふ〜ふ〜vvv」
 背後から不吉な笑い声が聞こえてきて、ゼフェルは固まった。
「ゼ〜フェル〜v」
 呼びかけを無視してドアを開け、執務室に入ろうとする。
「おんや〜?このワタシを無視しようっていうワケ?それは残念だねぇ。あの子達が喜びそうな可愛いカフェを見つけたから、情報提供してあげようと思ったのに」
 カツカツカツ。
 高いヒールの靴音を響かせて。
「まあイイさ。ワタシがアンジェリーク誘って遊びにいっちゃおv」
 ゼフェルより奥にある夢の守護聖の執務室へと向かおうとするオリヴィエ。
「おい、待て!!」
「んふふv話を聞く気になったかい?」
 コクコクと頷くと、ニヤリと嫌な笑い方をした。
「ところでゼフェル?ワタシこの前、ルビーの原石をアンタに加工して貰いたいってお願いしたよね?その時は、断られたんだけど・・・」
「分かった!何でもするっ!どうして欲しいんだ!?」
 ニ〜ッコリとオリヴィエは満面の笑みを見せた。
「そうこなくっちゃvイヤリングにして欲しいんだよ。大振りのゴージャスなヤツにね〜vvv」
「・・・任せろ」


 そんなこんなで、大きな犠牲(?)を払って、カフェ情報を手に入れたゼフェル。
 早速、アンジェリークを誘ってその場所を訪れた。


 ざわざわ、ざわざわ。
 カフェは女性連れが多く、華やかな笑いで溢れている。
「わーvすごくお洒落なお店ですね〜vvv」
「ま、まあな」
 店は客で満ち溢れており、上品な感じの店員に20分待ちを宣告された。
「おう、どうすっか?」
 アンジェリークを振り向いて尋ねると、
「待ちましょう。ゼフェル様と一緒だったら、待ってる時間も楽しいですしv」
 などと可愛いことを言ってくれるものだから、ゼフェルは動揺して、思わず赤くなってしまった。
「ゼフェル様、顔、赤いですよ?」
「あ〜、何でもねえ!気にすんな!」

 言われていた待ち時間より少し早く、席に案内してもらえた。

「うーっし!何でも食え」
「キャーv嬉しいですvvv」
 若草色のキレイな瞳をキラキラさせて、アンジェリークがメニューを見ている。
「そういやおめー、カプチーノ飲めるか?」
 オリヴィエから固く言われている。
『いいかい!?お店では出来るだけカプチーノを頼むんだよ!カプチーノが、その店のオススメなんだ!!』
 なんとか自然な感じで、話を持っていけている・・・ハズだ。
「はい?大丈夫ですけど・・・??」
「ココのオススメ飲み物は、カプチーノらしいぜ。頼んどけ」
「ゼフェル様は?」
「オレもカプチーノだ」
「はいvじゃあ、そうしますね〜」
 ウキウキとアンジェリークがケーキのページに視線を落としている。
 どうせ、イチゴのショートケーキかレアチーズケーキ辺りを所望するのだろう、この少女は。
 そんなことを思いながら、黙ってアンジェリークの様子を見守った。
「ん〜、どうしよう・・・」
「ゆっくり考えろ。んで、好きなもん食え」
「はい〜」
 やがてアンジェリークは、決意に満ち溢れた表情でメニューから顔を上げた。
「決まりました!」
 ウェイトレスを呼び止めて、注文を。
「カプチーノふたつ。あとは・・・」
「イチゴのショートケーキをくださいvvv」
 やっぱりなぁ。
 クックと笑うと、アンジェリークがプウと膨れている。
「何がおかしいんですか、ゼフェル様?」
「ああ?悪い、何でもねえ」
 ゼフェルの答えにアンジェリークは少々不満のようだったが。
 やがて運ばれてきたケーキを前に、瞳をハアトにして喜んでいる。
「わーvvv美味しそ〜う!!」
 そしてケーキの隣に置かれたカプチーノを見て、アンジェリークの目が丸くなった。
 零れて、落ちてしまいそうなぐらいに。
「え?えええ〜??わわわっ!すっごい可愛い〜っvvv」
 何だ何だと、ゼフェルも自分の前に置かれたカプチーノを見た。
 カプチーノの泡の上に・・・シナモンの粉で、可愛いらしく絵が描いてある。
 アンジェリークのはうさぎ、ゼフェルのはハートに包まれた子リスだ。
「わ〜vvvすごい〜っ!!!可愛い〜っvvv」
 アンジェリークの満面の笑みに、ゼフェルまで嬉しくなってしまう。
「当店お勧めの、デザインカプチーノでございます」
 ここまで喜んでもらってウェイトレスも嬉しいのか、ニッコリと笑みながらアンジェリークにそう言葉をかけた。
「すっごい可愛いですっ!ありがとうございますっ!飲むのが勿体ないぐらい・・・」
 アンジェリークの喜びように、ゼフェルはテーブルの下でグッと拳を握り締めた。
 よっしゃ、おれ!親密度がぐ〜んとアップだぜっ!!!
 他の守護聖達の悔しがる顔を想像して、ゼフェルはフフンと一人、鼻先で笑った。
「何だか、かき混ぜるのがもったいないなぁ」
 などと言いながら、アンジェリークが砂糖をひとつ、カップに落として。
 グルグルとかき混ぜている。
「飲め、んで、食え。んなに気に入ったんなら、また連れてきてやるからよ」
 アンジェリークが、パッと花が咲いたように笑った。
「はいっ!約束ですよ、ゼフェル様?」
「分かった、分かった」
 幸せそうにケーキを攻略しカプチーノを飲むアンジェリークを、ゼフェルも幸せな気分で見守った。
 何だかもう、アンジェリークの可愛らしい笑顔満載で、素晴らしすぎる今日という日だった。



 後日・・・。
 夢の守護聖の私邸に、どーーーーんとゴージャスな貢物が献上されたのは言うまでもない。



   〜 END 〜



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デザインカプチーノは、実在します。
本物見て、あわあわして、ゼフェリモに飲ませたいな、と。
それだけの思考で出来た、この話です。






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