<キングスポートの街角>
第1話 パティの家
暖炉の灯が揺れ、ふわりと広がる金の髪を、明々と照らし出した。
繕い物をしていた手を休め、アンジェリークは小さく息を吐いた。
にゃお。
艶やかな毛並の黒猫が、構ってくれとばかりにアンジェリークにその身を摺り寄せてきた。
この猫は、アンジェリーク達がパティの家に住み始めたばかりのある雨の日に、学校帰りのアンジェリークの後ろをひどくみすぼらしい姿で付いて来たのだ。
同居者のレイチェルが薬を使って殺そうとしたが、それを生き延びて以来、彼女の猫として、この家で飼われている。
アンジェリークは、彼をクラヴィスとと名付け、可愛がっていた。
「どうしたの、クラヴィス?」
優しい白い指が猫の喉元を撫で、彼は満足そうに瞳を細めて喉を鳴らした。
「アンジェリーク!」
パタパタと軽快な足音がして、レイチェルが2階から降りてきた。
「あら、レイチェル。レポートは終わったの?」
「決まってるでしょ。バッチリだよ!!」
元気よく答えてから、レイチェルは言った。
「でもワタシ、お腹が空いちゃった。何か食べるものないかな?」
「キッチンのお鍋の中に、シチューが入ってるわ。どうぞ召し上がれ。アップルパイも焼いたから、良かったら食べてね」
「やったあ!!ワタシ、アンジェのアップルパイ、大好物だよvvv」
レイチェルは、そのままキッチンに駆け込んで行った。
その後姿を笑いながら見送っていると。
「アンジェリーク、おはよう・・・」
コレットが、眠たげな顔で現れた。
「まだ眠そうね」
「うん・・・。でも、もういい加減に起きなきゃ・・・」
瞳をこするコレットを、アンジェリークはまるでクラヴィスのようだと思い、愛しく思った。
「あ・・・いい匂いがする〜」
不意に、コレットが小さな鼻をうごかせた。
「レイチェルが、シチューとパイを温めているんだと思うわ。コレットも食べてきたら?」
「うん!そうするね」
コレットもキッチンに姿を消し、アンジェリークは繕いかけの服を手に取った。
故郷のディアが持たせてくれた、冬のコート。
少し濃い緑色が、アンジェリークの眩しい金の髪と、白い肌を引き立ててくれる。
ディアの愛情がたっぷり詰まったこのコートを、アンジェリークは愛していた。
今年、着ようと思って出してみたら、裾が少しほつれていたのを見つけ、それで、繕っているのだった。
アンジェリークが繕い物の続きを始めようとした時。
バタンと玄関のドアが開いた。
「ただいま」
「お帰りなさい、ロザリア」
散歩に出ていたロザリアが、戻ってきたのだ。
ロザリアとは大学になってから知り合ったのだが、彼女はアンジェリークを心から愛し、崇拝していた。
アンジェリークもまた、美しく賢く、そして優しいこの友を、愛していた。
「アンジェリーク。とてもいい香りがするわね?」
手袋とマフラーを取り、コートを脱ぎながらロザリアが尋ねた。
「レイチェルとコレットが、遅い昼食を取っているところよ」
「・・・それだけではないわね。わたくしの大好きな、あんたの手作りアップルパイの香りがするわ」
「うん。さっき、焼いたから。食べる、ロザリア?」
「もちろんですわ。例え千ドル出すって言われたって、あんたのアップルパイを食べる機会は譲れませんからね」
即答したロザリアに、アンジェリークは苦笑した。
「言いすぎよ、ロザリア」
「いいえ。わたくしは本気も本気よ!」
キッパリハッキリと言い切った後、ロザリアはニッコリとアンジェリークに微笑みかけた。
「繕い物は、後でもいいでしょう?みんなで、ティータイムと洒落込みましょうよ。お茶はわたくしが淹れるから。ね?」
「そうね」
アンジェリークも笑い、立ち上がった。
パティの家のリビングに、笑い声が溢れる。
ほんわかと湯気の立つ琥珀色の紅茶と、美味しいアップルパイ。
娘達は、幸せだった。
「あ・・・雪・・・」
コレットが窓の外を指差す。
ふわり、ふわり。
雪の華が舞い落ちてくる。
「キレイね・・・」
アンジェリークが、うっとりと瞳を細めると、ロザリアとレイチェルが、小さく頷いた。
「積もるといいね」
「そうしたら、みんなで雪の中をお散歩に行きましょう」
キングスポート街の一角に、『パティの家』と呼ばれる小さな可愛らしい一軒家。
そこには今、4人の娘が住んでいて。
これから、彼女達の・・・アンジェリークの物語が始まります。
〜 続く 〜
まずは、女の子達の紹介から。
こんな感じで、楽しい4人生活を送ってます。
猫のクラヴィス様は、私の趣味です。
勝手に名前付けてごめんなさい、マサさん(汗)。
次は男の子達の紹介をお願いしま〜すvvv
などと、無責任なことを言いつつ逃げます。