<キングスポートの街角>
第3話 素晴らしい日々
アンジェリークの学園生活は、楽しいものだった。
大学の社交界の花形であるロザリアと常に行動を共にしていることもあり、社交的な集まりの門戸はアンジェリークに向かって大きく開かれていた。
それぞれに個性的な魅力を持つ4人の少女達に仕えたいという男子生徒は大勢いたが、彼女達はそのようなことには全く頓着せずに、青春を謳歌していた。
学生の本分は勉学である、ということも皆は良くわきまえており、優秀な成績を収めていた。
アンジェリークは英語、ロザリアは幾何、コレットは古典が得意で、レイチェルはどの科目も平均して優秀だった。
春の試験が終了し、4人の少女達はランディとゼフェルを伴い、パティの家の近くの公園まで足を運んでいた。
太陽の光が優しく降り注ぎ、公園の花壇には鈴蘭の花が咲き乱れていた。
風に揺られて鈴蘭の花が白い頭を揺らす。
そこから微かに立ち昇る香気に、アンジェリークは瞳を細めた。
「私ね、鈴蘭の花って、大好きなの」
ランディに向かって、アンジェリークは柔らかく微笑みながら言った。
「この可愛らしい白い花達と話していると、心が安らぐわ」
アンジェリークの白い指が、鈴のような小さな花に触れ、鈴蘭の花はフルフルとその身を震わせた。
「何かとても悲しいことがあった時には、私、この子達に慰めてもらいたいって思うの」
ランディの空色の瞳が、優しくアンジェリークを見つめる。
「君に、悲しみなんて訪れないように祈るよ」
物思いにふけりながら、アンジェリークは再び、鈴蘭の花を指で揺らした。
「でも、いつかは必ず悲しいことが起きるわ。生きるって、そういうことですもの。あなたもそう思うでしょ、ランディ?」
生命の輝きに満ち溢れたこの愛らしい少女と、悲しみを結びつけて考えることが、ランディにはどうしてもできなかった。
少しだけ考えた後、
「もし俺の思い通りに世の中が動くのなら。君の世界から、幸福と喜び以外を締め出してしまうよ」
ランディはひどく真面目な表情で、アンジェリークにそう告げた。
言葉に、自分自身の想いを乗せて。
アンジェリークの瞳が、一瞬困ったような表情を見せた。
けれども彼女はすぐにニッコリと笑い、少し早口になった。
「ダメよ、ランディ。試練や悲しみを乗り越えていかないと、人間として成長できないわ。そんなコトを言うなんて、分別がないのね?」
自分が分別がないのはアンジェリークに対してだけだと心の中で思ったが、アンジェリークの態度に危険信号を感じて、ランディはそれを口にしなかった。
優しい若草色の瞳をした、美しい少女。
ランディの代わりに、アンジェリークの側に付き添いたいという男は、それこそ星の数ほどいるのだ。
幼馴染のゼフェルを含めて。
アンジェリークの嫌がるようなことを言って、迷惑に思われるのは、得策ではなかった。
小学校時代からの一番の男友達、という立場を守るのが、今のランディにとって重要な使命だった。
「ハハッ。そうだな。確かに君の言うとおりだ。様々な経験をしてこそ、人は大きくなれるんだからね」
「ふふっ。そうでしょう?」
小さく、そして安心したように、アンジェリークが笑い。
「アンジェリーク!早くいらっしゃいな」
ロザリアが呼ぶ声がして、アンジェリークはランディからロザリアに視線を移した。
「はーい!今行くわね!!」
軽やかな足取りで駆け出したアンジェリークの後姿を見つめ、ランディはため息をついた。
「ねえねえ、二人で何話してたの??」
「鈴蘭と、人生の悲しみについて」
「あ?んだよ、それ??」
「私は、鈴蘭が大好きvっていう話よ」
「そんじゃさ、今度オレが、鈴蘭の花束をプレゼントしてやるよ!!」
「ありがとう」
今は、友人という立場に甘んじるしかない。
ランディは自分自身にそう言い聞かせ。
自分も、話の輪の中に加わるのだった。
〜 続く 〜
ちょっと短いでしょうか・・・???
空回りしているランちゃん。
リモちゃんはランちゃんを自分の王子でないと思ってるので、
ランちゃんからアッピールされても、ちょっと困っちゃう。
という感じを出して見たかったんですが・・・。
そして、今は全く報われないランディ様。
ラブラブエンディングまでは遠すぎるような気が・・・(笑)。
中途半端にマサさんにタッチですvvv