テーブルには清潔なクロスがかかっており、座椅子やソファは真っ赤なビロード張りだ。
照明が少し絞られ、辺りは微かに暗い。
広い、店内。
しかしその中に、客はたった一人しかいなかった。
「アルベルト・・・!」
ソファにゆったりと座っていた男が指を鳴らすと、黒い三つ揃えを着た給仕が現れた。
「お呼びでございますか?」
「まずは、ワインだ」
「銘柄は?」
「お前の選択に任せる」
軽く一礼してから給仕は男の前を下がり、やがて、ワインの瓶を持って戻ってきた。
「お待たせいたしました」
薄いワイングラスに、赤い液体が注がれる。
褐色の指がグラスを取り、中の液体を一口、口に含んだ。
バシャッ・・・!
「このような安っぽいワインが私の口に合うとでもいうのか?」
紅の瞳が、冷ややかに給仕を見上げる。
男の手の中には、一瞬にして空になったグラス。
給仕の白銀の髪から、赤い液体が滴った。
「し、失礼しました・・・」
髪から滴った液体が、白い頬に紅い跡を残し落ちていこうとする様を、男は興味深げに眺めた。
「ほう・・・」
そして、給仕の腕を掴み、引き寄せた。
「気が変わった。飲んでやろう」
男の口唇から、チロリと紅い舌が覗く。
そのまま、給仕の頬を伝うワインをペロリと舐め上げた。
「お前を介すれば、不味いワインの味も良くなるというものだ・・・。ククク・・・」
給仕が慇懃に頭を下げた。
「ワインをお取替えいたします」
男が口唇の端を上げて笑った。
「その必要はない。これから、食事を始めるのだからな」
「メインはお肉、お魚のどちらになさいますか?」
男の褐色の指が、給仕の腕を強く、掴んだ。
微かな痛みに表情を歪めた給仕に向かって、男は言い放った。
「アルベルト。メインは、お前だ。このような状況で私に抱かれるのも一興というもの。違うか?」
キュッと。
給仕が口唇を噛み締める。
「服を脱げ」
躊躇う給仕に、男は高圧的な口調で言い渡した。
「私の言葉が聞けないというのか?まさか、そんなわけはあるまいな・・・」
給仕の白い指先が、スーツのボタンにかかる。
上着とベストがハラリと床に落ち、シャツのボタンをいくつか外したタイミングで、男は笑いながら言った。
「シャツはそのままでいい。スラックスを下ろせ」
微かに震えながらベルトを緩める指先を、男は面白そうに見つめる。
「今更、躊躇いもなにも・・・。なあ、アルベルト?」
氷の瞳が男を見つめ。
「アルベルト。やるべきことは分かっているな・・・?」
コクリと小さく給仕は頷き、男の下腹部に手を伸ばした。
卑猥な水音と、喘ぎ声。
「なかなか美味いぞ。後でお前にも褒美をくれてやろう・・・」
他には誰もいない薄暗い店の中で、男は給仕に奉仕をさせる。
「チップはたっぷりと弾んでやるぞ」
クツクツと低く、男が喉を鳴らす音が辺りの空気に吸い込まれていく。
男はソファに座ったまま、満足気に給仕の姿に視線を当てた。
〜END〜
某店に行ったのですが、あまりにも黒様っぽいお店でしたので、
44で妄想をしてみました(笑)。
ハインにワインをかける黒様が書きたかっただけなのがバレバレですね・・・。
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