雪の中の44
(甘44注意)




 夕刻からフワリフワリと降り始めた雪は。
 次第に、辺りを銀世界に変えていった。
 雪が積もっていく微かな音を掻き消すかのように、暖炉の炎がパチパチと時折音を立てている。
 真っ赤に燃える炎の前で、男の白銀の髪が赤く染まった。
「アルベルト・・・?」
 男の口唇から零れ落ちた名前に、言葉を返す者はなく。
 薄い笑いと共に溜め息を吐きながら、男は座っていたソファから立ち上がった。



 探している人物に与えてある部屋にもその姿は見えず。
 男は、中庭に足を運んだ。
 仄白い雪明りの中に浮かぶ人影。
 それに向かって、男は呼びかけた。
「アルベルト」
 真っ白な雪の中で。
 振り向いたその人物の、白銀の髪、白い肌。
「まるで、雪の中に消えてゆきそうな風情だな・・・」
 男の言葉が聞こえたのか、そうでないのか。
 彼はゆっくりと。
 男を振り返った。
「シュヴァルツ・・・?」
 淡いブルーの瞳が、雪明りを映して瞬く。
「アルベルト、一体、何をしている」
「ただ、見ていただけだ。雪を・・・」
 雪を踏み分け、男は彼に近づいた。
傍らに立ち、
「アルベルト」
 名前を呼べば、微かに笑んだ。
「雪は、綺麗だ・・・」
「純白の雪は、確かに美しい。だが、お前の美しさには遠く及ばんな」
 男の言葉に、彼は再度微笑み。
 ポスンと男の腕の中に倒れ込んできた。
 髪から、肩から。
 雪を払ってやりながら、男は詰るようにして呟いた。
「身体が冷たいな・・・。どれほどの時間、此処にいた?」
 軽く、首を傾げて彼が答える。
「・・・覚えてない」
 それから、彼は男を見つめた。
「冷たくなってたって、別に構わないじゃないか」
 不機嫌そうに頬をゆがめる男に。
「お前が・・・暖めてくれるんだろう?」
 婉然と、彼は笑いかけた。
「アルベルト・・・!」
 思いもかけぬ言葉に、男の瞳に僅かだが動揺の色が浮かぶ。
 それを見て、クスクスと楽しそうに彼は笑った。
「・・・暖めてくれないのか・・・??」
 冷えてしまった腕が、男の首に巻き付く。
 ひどく、甘えたような仕草で。
 自分より少しだけ細身の身体を抱き上げて、男は歩き出す。
「シュヴァルツ?」
 問いかけるようにして名前を呼ばれ。
「少し黙っていろ」
 口唇を重ね、言葉を遮った。

 フワリ、フワリ。
 空から雪が舞い落ちてくる。

 口唇を離すと。
 伏せられた瞳。
 長い睫毛はほんのりと紅色に染まった頬に影を落とし、自身は雪明りを受けてキラキラと輝いた。
 まるで、雪明りの中に溶け込んでいってしまいそうな、その人に。
「お前は美しいな・・・」
 感慨を込めて囁くと、同じ顔なのにと言って、笑った。

 フワリフワリ。
 舞い落ちる雪の中。
 男は、足早に歩く。

「部屋に戻ったら、お前が嫌だと言っても暖めてやろう」
 その言葉に、彼は実に嬉しそうな笑みで答えた。


 〜 END 〜




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黒様鬼畜じゃなくてスミマセン(汗)。
昨年、自サイトのクリスマス企画でアップしたSSの、
別バージョン(スウィートバージョン)を発掘。
勿体無いのでアップ。
ハインさんが、黒様に懐いています・・・(汗)。






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