ベッドの上、気だるそうに身体を起こした人物の名前を呼ぶ。
「アルベルト」
 不機嫌そうな淡いブルーの瞳が、こちらに向けられた。
「身体が重い、だるい・・・!」
「仕方あるまい。昨夜はわた・・」
「死ねっ!!」
 飛んできた枕を、ヒラリと交わした。
「何をそんなにイラついているのだ?お前とて、楽しんだろう?」
 サラリと言ってやると、ふくれっ面でそっぽを向いた。
「いい加減、機嫌を直したらどうだ?」
「・・・・・・」
 無言で、ポスンと布団の中に顔を埋めた。
「まあいい」
 ニッコリと笑いながら、彼の人を見下ろした。
「今日は天気がいい。私は庭でティータイムと洒落込んでくるか」
 ピクリ、と、白い肩が反応した。
「お前は気が済むまで、そこで子供のように膨れているのだな」
 部屋から去り際に、もう一度振り向くと。
 恨めしげな視線とぶつかった。
「ではな、アルベルト」
 閉じたドアに、ボスンと枕らしきものがぶつかる音。
「お前なんか大嫌いだ・・・!!」
 肩を竦め、苦笑して、その場を離れた。



 初夏の太陽の陽射しが降り注ぐ中、茶の準備を進めた。
 準備は二人分。
 どうせ我慢が出来なくなって、彼が不貞腐れながらも庭に出てくることは分かりきっている。
 バツの悪そうなその時の表情を想像して、クスクスと笑っていると。
「・・・何を一人で笑っているんだ?」
 不機嫌を装った声。
「おや、アルベルト。大嫌いな私の顔を見に来たのか?ん?」
 意地悪く言ってやると、
「お前の事は嫌いだが、茶は好きだ」
 言いたい事は分かるが、何だか良く分からない回答が戻ってきた。
 そして偉そうに、ふかふかのチェアに身体を沈めた。
「機嫌はまだ直らないか?」
「・・・・・・」
 やっぱり、プイとそっぽを向いた。
 透明なカップを目の前に置いてやると、チラリと視線を向け、驚いたような表情を見せた。
「おい」
「何か?」
「お前が透明のカップを使うなんて、初めてだ」
「まあ、な・・・」
 ニヤリと笑って、ガラスの瓶の蓋を開けた。
 その中から小さなひと固まりをカップに入れる。
「??」
 興味津々、といった体で、カップを覗き込んでくる様が面白い。
「可愛いお前のために・・・」
 こぽこぽと淡く黄金色に輝く液体をカップに注ぐと、小さな固まりはふんわりと広がった。
 透明なカップの中で、広がったのは薔薇の花びら。
「うわ・・・!」
 感嘆の声を上げながら、問い掛けてくる。
「シュヴァルツ!これって、薔薇の花びらか??」
「私が作った薔薇ジャムだ。まあ、ジャムと言うより花びらのシロップ漬に近いのだがな。見た目も楽しかろう?」
「すごい、綺麗だ!お茶は??」
「ジャムに合わせてローズティーだが・・・」
 打って変わってのニコニコ顔を見つめながら。
「機嫌が直ったようで安心したぞ?」
 そう言うと、しまった!というような顔をした。
「お茶で釣るなんて卑怯だぞ!!」
「釣られるお前が馬鹿なのだ」
 涼しげに言ってやると、憮然とした表情の後、笑いながらカップを手に取った。
「いただきます」
「どうぞ」
 一口飲んで、パアアと表情が輝く。
「ほんのりと甘くて美味いv」
「そうか。お前が気に入ったのならば、良かった」
 手を伸ばし、サラリと前髪を撫でてやると。
 陽の光が、零れて弾けた。
 眩しそうに瞳を細める、ご機嫌麗しいその人を見つめながら。
 自分のカップを手に取って、仄かに甘い薔薇の香りを吸い込んだ。
 透明なカップの中でゆらり。
 薔薇の花びらが揺れた。



   
〜END〜




N様の素晴らしい44のイメージには遠く及ばないと感じつつも、
力いっぱい44を書かせていただきましたv
何だかバカップルで幸せすぎてスミマセン(土下座)。
N様、SSを付けるご許可をいただけて嬉しかったですv
ありがとうございました〜vvv



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