2003年クリスマス24



 フッと、目が覚める。
 部屋の中は薄暗い。
 今は、何時頃なんだろう・・・?
 そう思ってベッドサイドの時計に視線を走らせると、もう、夕刻だった。
 昨日・・・いや、今朝早くに仕事から帰ってきて、すぐにベッドに飛び込んで眠ってしまったので、かれこれ半日は眠っていたことになる。
 大きく伸びをして、ハインリヒはベッドから滑り降りた。
 窓辺に歩み寄り、窓を開けると。
 美しくライトアップされた街の風景が、目に飛び込んできた。
 その風景を見て、ハインリヒは今更ながらに思う。
 ・・・今日は、クリスマスだ・・・。
『ハインリヒ、クリスマスの予定って、空いてる?』
 ジェットの声が、脳裏に甦ってきた。
『あいにく、その日は仕事で遅くなる予定だ』
 そう、返事をしたのだけれど。
「結局、早めに仕事が終わってしまったな・・・」
 独り言のように呟いて、ハインリヒが苦笑した時。
 突然、視界が暗くなった。
 目元を、誰か、の手で覆われる。
 その温かい手に、自分の手を重ねてみると。
「・・・誰だ?」
 笑いを含んだ声が、耳元で問いかけてきた。
「ジェット・・・??」
 名前を呼ぶと、小さな笑い声が聞こえ、視界が明るくなった。
 後ろからそっと、抱きしめられる。
「今、オレのコト考えてたろ?」
「・・・自惚れるな」
 そんな風に答えながらも、顔が見たいと思う。
「正直に言わないと、このままキミを離さないぞ?」
「・・・・・・」
 一呼吸おいてから、ハインリヒは答えた。
「考えてた・・・ほんの少しだけ、だがな」
 後半部分を、強調しながら。
 ジェットが吹き出すのが分かった。
「キミって・・・ホントに強情だよな。ま、そんなトコロが可愛いんだけどv」
 二本の腕から解放され、ハインリヒは何となく悔しいような気分でジェットを振り返る。
 振り返った先には・・・優しい笑顔があった。
「仕事で遅くなるって言われてたけどさ。少しの時間でもいい、今日の日をキミと過ごしたかったから。だから、会いに来た」
 その笑顔が嬉しいはずなのに。
 何故か涙が零れそうになって、ハインリヒは慌てて視線を伏せた。



「二人でクリスマスを祝おうと思って、色々と買い出してきたんだ」
 そう言って、ジェットは笑った。
 ジェットが持ってきた荷物の中には、シャンパン、チキン、ケーキ。
 おまけに、小さなクリスマスツリーまで入っていて。
「オレが、サンタみたいに見えるだろ?」
 ニヤリ、とジェットは笑う。
「バカ。お前みたいなうるさいサンタがいてたまるか」
 言いながら、ハインリヒもクスリと笑った。
 殺風景だった部屋が、急に明るくなったような気がする。
 ・・・ジェットが、側にいてくれるだけで。
「何だか・・・幸せだな」
 シャンパングラスを傾けながらポツリとそう呟くと、ジェットがハインリヒに向かって優しく微笑みかけた。
 ハインリヒの何もかもを見通してくれる、いつもの微笑みだ。
「キミが望んでくれるなら、オレは、ずっと側にいるよ」
 言い終わってから、ジェットは何事かを考え込むような仕草をした。
 それから、ひとことひとこと言葉を選ぶようにして・・・続けた。
「いや、それは違うな。キミが望まなくたって、ずっと、側にいる。オレが、そうしたいから。そんな風に思われるのって、迷惑か?」
「答えは・・・もう、知ってるだろう?」
「知ってる。だけど、キミの口から聞きたい」
 真摯なその眼差しに、何故か視線を逸らしながら、
「迷惑じゃない・・・」
 答えると、ジェットは更に、畳みかけるように聞いてきた。
「嬉しい?」
「・・・・・・」
 正直に『嬉しい』と言えば良いだけなのに、その一言がどうしても出てこない。
 ジェットの琥珀色の瞳が、じっと、ハインリヒを見つめる。
 優しい光を湛えて。
 じっと・・・。
 その眼差しに誘われるような気持ちになり、ハインリヒは小さく答えた。
「・・・・・・嬉しい・・・」
 答えた瞬間、シャンパングラスを取り上げられた。
 明るい茶色の髪が目の前をよぎって。
 頬に、キスされる。
 どうしようもなく頬が熱くなって、自分は今、真っ赤になっているんだろうな ・・・なんて、他人事のように考えてしまう。
「メリークリスマス」
 優しく囁かれ、今度は額にキスされた。
「ジェット・・・!」
 焦りつつ、ジェットの頭を押しのけて名前を呼ぶと、人を食ったように、ジェットは笑う。
「オレからキミへのクリスマスプレゼントは、言うまでもなく、このオレ自身だけど。キミからは?オレ、何も貰えないのかな?」
 言われて初めて、気付く。
 プレゼントを何も準備していなかった、という事実に。
 ・・・ジェットが来てくれるなんて、思ってもいなかったから。
「〜〜〜っ(オレは一体、どうすれば)!!」
 言葉に詰まるハインリヒに、ジェットはニコリと笑って見せた。
 ほんの少しだけ、意地悪く。
「今回は、キミからのキス、で手を打つけど?」
「・・・馬鹿・・・」
「OKか?それとも、NO??」
 今日という日に会いに来てくれたジェットに、何かお返しをしたかったから。
「・・・恥ずかしいから、目ぇ閉じてろ」
 やっとの思いでそう言うと、ジェットはそそくさと目を閉じた。
「メリークリスマス、ジェット」
 囁きかけてから、ジェットの両頬をそっと手の平で挟み。
 ハインリヒはジェットに、触れるだけのキスをした。
 キスした瞬間に、ギュッと抱きしめられる。
「何かもう、最高!キミからキスしてもらえるなんて、オレってホントに幸せ者だぜ!!」
「何を大袈裟な・・・」
 呆れるハインリヒを、ジェットは更にきつく抱きしめて。
 耳元で、囁いてくれた。
「キミのクリスマス。これからもずっと、オレが予約入れとくから。忘れないでくれよ?」
「オレのクリスマスを予約したいなんて物好き・・・お前ぐらいしかいないだろうさ・・・」
 窓の外から、美しい聖歌の調べが聞こえてくる。
「メリークリスマス」
 もう一度そう呟くと。
 ジェットの広い肩に顔を埋め、ハインリヒはゆくりと瞳を閉じた。
 



 そして、二人のクリスマスの夜は。
 静かに優しく。
 更けていくのだった。




〜 END 〜



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2003年にフリーにしていた、24クリスマス創作です。

まずは謝っておかなければっ。
す〜み〜ま〜せ〜ん〜。
折角のクリスマスだというのに、この短編さ!
マジでスランプ気味か、私!?
イマイチいちゃ度も足りないような気がっ!!!
本当に申し訳もございません。
管理人、書き逃げ状態です。
ホント、スミマセンっ。
こんなお話でも、喜んでいただけると嬉しいのですが・・・。




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