柔らかな朝の日の光が、窓から差し込んでくる。
「ううーん・・・」
 パチリと目を開いた後。
 ジェットは自分の隣で寝息を立てているハインリヒの姿に視線を走らせて、口元をほころばせた。
「ハインリヒ、おはよ。今日もいい朝だぜ?」
 前髪をかき上げ額に音を立ててキスすると、ハインリヒはぽっかりと目を開き、ベッドの上に身を起こした。
「ん・・・おはよう・・・」
 まだ寝ぼけ眼のハインリヒがひどく可愛らしくて、ジェットはクスリと笑いながら、新年の挨拶をした。
「ハッピーニューイヤー!今年もキミと一緒に迎えられたこと。それがオレには嬉しいよ」
「・・・おめでとう。今年もよろしくな」
 言った後、ハインリヒもクスリと笑い。
 二人はコツンと、額と額をぶつけ合った。



 ギルモア邸のお正月は、賑やかだ。
 世界の各地から、仲間・・・今では、家族と言ってもいいほどだ・・・が集まり、新年を共に過ごす。
 今年も例外ではなく、皆がギルモア邸に帰ってきている。

「博士、おめでとうございます」
「おめでとうございます」
 ジェットとハインリヒが揃って新年の挨拶をすると、ギルモアは我が子を慈しむ父親のような表情で笑った。
「うむうむ。二人とも、今年も仲良くするんじゃよ」
 年末に些細なことで大喧嘩をやらかし、ギルモアや他のメンバーに心配をかけてしまったという記憶がまだ新しく、ジェットは苦笑した。
「心配かけてスミマセン。でも、もう大丈夫ですから。な、ハインリヒ?」
 隣のハインリヒに話を振ると、ハインリヒも困ったように笑った。
「・・・反省しています」
「そんなに恐縮せんでもいい。それじゃ、二人とも、行きなさい。今年も良い年になるように、祈っておるからな」
「はい」
 ギルモアの部屋になっている和室から出て、ジェットはため息をついた。
「参ったなぁ。皆しばらく、あのケンカのコト、忘れてくれそうもないぜ?」
「・・・仕方ないだろう。あれだけ派手にやらかしたんだ」
 ハインリヒが肩をすくめた。
「あら、ジェットにハインリヒ!早くリビングにいらっしゃい」
 パタパタと廊下を走りながら、フランソワーズが二人に声をかけ、
「博士、お食事の準備が出来ましたよ〜」
 ギルモアの部屋に向かって呼びかける。
「おお。そうかそうか」
 障子を開けてギルモアが部屋から顔を出し。
 結局、四人でリビングへ向かった。



「和食は、あまり得意でないのコトよ」
 そう言いながら、張大人がリビングに料理を運んでくる。
「おめでとう!」
「・・・おめでとう・・・」
 リビングに集まった皆で交わす、挨拶。
 心が安らぐこの空間が、ジェットは好きだった。
「みんな、おめでとう!」
ハインリヒを伴ってリビングに入ると、皆の笑顔が二人を迎えてくれた。
「今年もよろしくね!」
「新しい一年を迎えたお前さん方に、幸多きを願う」
 ジョーとグレートのらしい挨拶に、ジェットは笑顔で言葉を返した。
「おう!こっちこそ、今年もヨロシクな」
 ギルモアから歳の順にお屠蘇を注いでもらい、まるで本当の家族のようだ。
 賑やかな、大家族。
 ジェットの隣では、ハインリヒが絶えず穏やかな笑みをその頬に浮かべている。
 ・・・なんだか、本当に幸せだな・・・。
 しみじみと幸せを噛みしめながら、ジェットは食事を続けた。

 そして食事の後。
 ジェットは、ハインリヒに声をかけた。
「なあ、ハインリヒ。腹ごなしに、初詣にでも行かないか?」
「初詣か・・・」
 ハインリヒはやっぱり穏やかに笑いながら答えた。
「付き合ってやるよ」
 二人の会話を聞いていたギルモアが、頼みごとをした。
「初詣に行くなら、破魔矢を買ってきておくれ」
「分かりました」
 そして二人は、初詣に出かけることなったのだった。



 ギルモア邸から少し距離のある神社は、いつもは人気のない場所だが、正月という事で、多くの人が出入りをしていた。
 躊躇うハインリヒの手を取り、ジェットは耳元で囁いた。
「大丈夫。オレが付いてるから」
 ハインリヒが、ジェットの手をギュッと握り返した。
「行こうぜ」
 ハインリヒの手を引いたまま、ジェットは歩いた。
 足元で、砂利がじゃらじゃらと音を立てた。
 人の流れに乗って、拝殿までたどり着く。
「せっかくだから、参拝していこうぜ」
 ジェットはゴソゴソとズボンのポケットを探り、小銭を出した。
「ホラ、キミも」
 五円玉をハインリヒの手の平に乗せると、ハインリヒがボソリと呟いた。
「二拝二拍手一拝だぞ。忘れるなよ?」
「ハイハイ」
 ケンカした時に、ハインリヒに日本贔屓だと言われたが、どっちがそうだか分からない。
 ジェットは、賽銭箱に五円玉を投げ入れ、じゃらじゃらと鈴を鳴らした。
 お辞儀と拍手を決まった数だけして、心の中で祈る。
(これからもずっと、ハインリヒと一緒にいられるように・・・)
 チラリと隣のハインリヒに視線を走らせると、ひどく真剣な表情で祈る姿が目に入った。

 参拝の後、二人は社で破魔矢を購入し、家路につく。
「なあ、ハインリヒ」
「何だ・・・?」
「キミは、何を願った?」
 ハインリヒの目元が、一瞬にして赤く染まった。
「べっ、別にお前には関係ないことだ」
「そんな態度取られると、気になるんだけど?」
 ジェットが追求すると、ハインリヒはワタワタと慌てた。
「だから、お前が気にするようなことではないと言ってるだろうがっ!!」
「・・・知りたい。今すぐ、知りたい」
 ジェットが迫ると、ハインリヒは赤い顔のままため息をついた。
「・・・分かった・・・。その代わり、お前のも教えろよ」
「いいぜ、別に」
「同時に言うんだからな?」
「ハイハイ、分かったって」
「じゃあ、言うぞ」
 いち、に、さん、のタイミングで二人は同時に口を開いた。
「これからもずっとハインリヒと一緒にいられるように!」
「ジェットとずっと、一緒にいられますように・・・」
 二人、同じ事を願っていた。
 それが分かって、ジェットは思わず吹き出した。
「なっ、何がおかしいんだ、お前は!?」
 耳まで赤くなっているハインリヒが、愛しい。
「ん?オレ達二人、同じ事を思ってた。それが、嬉しいだけ」
 赤い頬をますます赤く染めて、ハインリヒが俯いた。
「・・・・・・バカヤロウ・・・。恥ずかしい台詞ばかり口に出しやがって」
「キミってさ。ホントに可愛いvvv」
 笑いながら、ジェットはハインリヒの手を取った。
 神社にいた時のように。
「愛してるから」
 サラリとそう告げて、ジェットはそのまま歩き出す。
 見上げた空の蒼。
 冷たい風が、頬を撫でた。
「ずっと、キミだけを愛してる」
 俯いたままのハインリヒが、ボソリと呟く。
「・・・オレも、だからな」
「うん。知ってる」
 繋いだ手と手から、お互いの気持ちが伝わってくる。
「お互いさ、絶対にイイ一年を過ごそうな」
「・・・そうだな・・・」
 出会ってから、もう、長い時が過ぎたけれど。
 ずっとずっと、変わらない想い。
「これからも、大切にしていこうな?」
 半ば独り言のように呟いて。
 
 これからも、歩いていこう。
 キミと一緒に。
 ずっとずっと、側にいるから。

 世界中で一人の、キミのために。



〜 END 〜

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2004年にフリーにしていたお年賀SSです。

実は私、新年のお話を書くのって初めての体験で(笑)。
必要以上にダラダラとした話でスミマセンでした。
サイゼロは今年も24メインでやっていきますので、
どうぞよろしくお願いいたしますvvv