大分早い時間に、何故か目が覚めてしまって。
 傍らで軽く寝息を立てている男を、ハインリヒは黙って見つめていた。
 普段は精悍な顔立ちをしている彼だが、眠っていると、少し子供っぽく思えるのが不思議だ。
 明るい茶色の髪に触れ、ハインリヒは小声で、彼の人の名前を呼んだ。
「ジェット・・・」
 返事はないと、分かっていながら。
「オレ達、いつまでこうしていられるんだろうな・・・?」
 呟かれたその言葉は、薄い闇の中に吸い込まれていったように思えたが、
「決まってるだろ?ずっとだって」
 返された言葉に驚く。
 小さな笑い声が耳に届き、ジェットがベッドの上で上体を起こした。
「寝てると思ってた?」
「・・・知らん」
 再度、ジェットの笑い声が聞こえた。
 きっと、琥珀色の瞳を揺らめかせて、優しく微笑んでいるのだろう。
 薄暗がりの中、その表情が良く見えないことをハインリヒは少し残念に思った。
 それは、ハインリヒがとても好きな表情だから。
 ・・・オレも、大概我儘だな・・・。
 そう思い、自身に苦笑した。

「オレ達きっと、終わる時だって一緒だと思うぜ。なんて、それはオレの勝手な希望だけどな」
 それなら。
 勝手なのは、自分だって同じだ。
 ジェットのその言葉が、泣きたいぐらいに嬉しいのだから。
 このままずっと・・・最期の最期まで一緒にいられたら
「ジェット・・・」
「ん?何??」
『愛してる・・・』
その言葉を口に出すことが出来ずに、ハインリヒはそのまま、ジェットの首に両腕を回した。
ジェットの手が、ハインリヒの背中に触れる。
「もう一眠りしようぜ。な?」
「そうだな・・・」



 気がつくと、カーテンの隙間から朝の光が差し込み始めていた。
 いつもと同じ、朝がやってくる。
 一日一日を大切に繰り返していきながら。
 ずっと、一緒にいたい。
 お互いにお互いを必要としているから。

「いや、より必要としているのは、オレの方かも知れないな・・・」
 自分自身に向けた筈の言葉が、ポロリと唇から零れ落ちた。
 世界中の誰よりも、ジェットだけがハインリヒを強く、優しくしてくれる。
 ジェットだけが、ハインリヒの全てを受け止めてくれる。
 何の迷いもなく、ただ、優しく。
 だから・・・。

「ハインリヒ、おはよう」
 声に気付いて視線を向けると、隣でジェットが微笑んでいた。
 その笑顔を、ジェットの全てを・・・。
『愛してる』
 やっぱり、口に出せないけれど。
 言葉などなくてもきっと伝わっていると、確信に近い思いを抱いた。
「大丈夫、キミの事なら全部分かるから」
 悪戯っぽく琥珀色の瞳が揺れて、ジェットは軽くハインリヒにウインクした。
「今、オレのコトが好きでたまらない、って顔してたぜ?」
「自惚れるな」
 額を軽く小突くと、ジェットはアハハと大きく声を出して笑って、
「オレはキミが好きで好きでたまらないんだけどな、ハインリヒ?」
 ああもう、オレだってお前を・・・。
『愛してる』
 もう一度心の中で呟いて、ハインリヒはジェットに答えを返した。
 言葉ではなく、極上の笑顔に想いを乗せて。

 ・・・愛してる・・・。



  〜 END 〜



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2004年のバレンタインにフリーにしていたものです。

バレンタインネタではありませんが、甘く、甘くを心がけたところ。
なんじゃこりゃー!?甘すぎじゃないの!?
的な作品に。
いいんだ、私はスウィートな24が好きなんだ〜!!
と叫びつつ、失礼いたします。