その日は、ギルモア邸で温かなクリスマスの晩を過ごした。
ギルモア博士や仲間達に囲まれていると、自分の家に戻ってきたような気持ちになる。
もう自分には縁がないと思っていた、温かな家庭の雰囲気。
ハインリヒは、その雰囲気が好きだった。
張大人の心尽くしの料理。
皆で飾りを付けたクリスマスツリー。
ブリテンのシェイクスピア節が、朗々と部屋の中に響く。
ひどく、平和で穏やかな空気が心地よい。
暖かな部屋の中を見回して、ハインリヒが満足げに微笑んだ時。
『はいんりひ』
頭の中に直接語りかけてくる声がして、ハインリヒは声の主に視線を送った。
その視線の先には、小さな揺りかご。
優しく瞳が和み、ハインリヒは揺りかごに近づいた。
「どうした、イワン?起きてたのか」
『ウン。スゴク楽シソウナ雰囲気ガ感ジ取レタカラ、思ワズ目ガ覚メチャッタ。コノ空気ヲぼくモ共有シタカッタシネ』
「そうか・・・」
揺りかごの中に手を伸ばし、ハインリヒはイワンを抱き上げた。
そして、賑やかな輪の中に入っていった。
「あら!イワンが起きたの?」
「ああ。あまりに賑やかだから、目が覚めたようだ」
皆で食べたり飲んだり喋ったりで。
本当に、賑やかで楽しい我が家。
『あふ〜』
腕の中で、イワンが欠伸をした。
「眠いか、イワン?」
尋ねると、
『眠リノ時間ノ途中デ起キチャッタカラ・・・』
消え入りそうな声で、イワンが答えた。
「今日は、一緒に寝ようか?」
『・・・うん・・・。ソウシタイ・・・カナ・・・』
長い前髪に隠れた砂色の瞳が、少しずつ閉じていって。
どうやら、イワンは再び眠ってしまったようだ。
「イワン?」
腕の中の身体を軽くゆすったが、もう反応はなかった。
フランソワーズに断りを入れ、ハインリヒはイワンを連れて自室に戻った。
ポカポカと暖かい小さな身体を抱いて、ハインリヒはベッドに滑り込む。
イワンの体温と心地よい眠気が、ハインリヒを夢の世界へと誘った。
その夜、夢を見た。
空から小さな天使が降りてきて、ハインリヒに優しくキスしてくれる夢。
背中に真っ白な可愛い羽根を持った、天使の姿。
その頬は、ふっくらとしていて。
髪は、少しクセのある砂色。
・・・どこかで見たことがあるような、良く知っているような・・・。
眠っているハインリヒの唇が、ふと綻び。
その頬には、優しい笑みが浮かんだ。
ひどくスッキリとした気分で目が覚める。
ベッドの中は、いつになくポカポカと暖かく感じられた。
隣で、スヤスヤと安らかな寝息を立てながら眠っているのは、イワンだ。
・・・この暖かさは・・・イワンの暖かさだ。
そう思うと、ひどく嬉しいような気持ちになった。
「おはよう、イワン」
聞こえないのが分かっていたが、そう挨拶して。
砂色の髪に、そっと手を触れた。
本当に、天使のような寝顔だな・・・。
イワンを起こさないように気を遣いながら、ベッドから抜け出した。
「今日は何だか、いい日になりそうだ」
白いカーテンを開けると。
窓の外には抜けるような青空が広がっていた。
〜 END 〜
−−−−−−−−−−−−
2004年にイラストとSSを
フリーにしていた、クリスマス14です。
あんまりクリスマスらしい雰囲気に
なりませんでした・・・(汗)。
ほのぼのでサワヤカな雰囲気を意識して。
14スキーの皆様に、
少しでも喜んでいただけたら幸いです。
まあ、私のSSなどより、
一さんのイラストをお楽しみいただければ(笑)。
ちなみに、このSSには題名がありません。
皆様のお好きなお題をお付けください。
ふみふみ拝