キスがしたい
(24)




 窓の外は雨。
 しとしと、しとしと。
 細かな水の粒が、絶え間なく降り続いている。


 一人、窓辺に佇み。
 キミは黙って外を眺めている。
 どこか淋しげな背中。
 ・・・キスが、したくなる。

 そして、小さな小さな溜め息。
 湿った空気の中に一瞬で溶けて消えてしまいそうなその吐息。
 聞いている自分の・・・胸が、苦しい。
 降りしきる雨の向こう側。
 キミには確かに『何か』が見えていて。
 その『何か』が、オレには何となく分かってしまう。
 伊達に長いこと、キミだけを見ているワケじゃない。
 キミのことなら、何だって分かる。
 だから・・・キスがしたい。

 慰めの言葉なんて必要ない。
「ハインリヒ」
 ただ、その名を呼んで。
「・・・ジェットか・・・」
 振り向いたキミの表情に、ああ、やっぱり・・・。
 ぎゅうと背中から抱き締め、もう一度名前を呼ぶ。
「ハインリヒ」
「何だ?」
 問いを返す口唇が、薄く開いた。
「・・・キスがしたい」
 答えも聞かずに口唇を塞いだ。
 キミの全部にキスがしたい。

 キミの淋しさも切なさも全て、オレが包んであげるから。
 いつまでも心に大切な人を住まわせている、そんなキミの強さと優しさにキスがしたい。

 ・・・ねえ。オレとのキス、好き・・・?
 オレは、キミとのキス、好きだよ・・・。

 口唇を離すと、上気した頬。
 どこか、咎めるような表情。
「好きだよ・・・。だから、キスしたい」
 言うと、頬に赤味が増した。

 ツイ・・・と。
 口唇のラインを撫でて、頬を寄せる。
「キスが・・・したい」
 躊躇いがちに閉じられる瞳、微かに揺れる長い睫毛。
 せめて、オレとキスしているときは忘れていて。
 苦しいことや、悲しいことは・・・。
 そして、二人で気持ち良くなろう。
「キスがしたい」
 ずっとずっと、キスをして。
 次に口唇が離れる時には、雨が上がっているといい。
 澄み切った空の蒼が瞳に映れば、キミの表情もきっと・・・。


 しとしと、しとしと。
 細かな水の粒が、絶え間なく降り続いている。
 窓の外は・・・雨。
 
 早く、止めばいいのに・・・。

 そんなコトを思いながら。
 腕の中のキミを抱きしめて、何度も何度も、キスを繰り返した。



  〜 END 〜




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24で「キスがしたい」です(梅雨時期なので、雨ネタ絡めて)。
44との違いをお楽しみください(違いがあるのか、というツッコミは・・・)v
24の方は、話の全体と台詞に「キスがしたい」を散りばめてみました。
スウィートハニーにしては甘さ控えめかもですね。
皆様にご満足いただけたか不安です・・・。
「『キスがしたい』を24で」とリクを下さったのは、ねこ太様でした。
ありがとうございました〜!!







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