キスがしたい
(44)
夜も更けた頃。
外出先から戻ってきた男は、城の一室に灯かりが点いているのを確認した。
「ふん・・・」
持ち主の許しも無くその部屋のドアを開け、一歩足を踏み入れると。
どこか淋しげな後ろ姿が目に入る。
一人窓辺にたたずみ、ハインリヒはそこからの風景を眺めているようだった。
月明かりに・・・重く沈んだ風景を。
「アルベルト」
名前を呼ぶと、薄い肩がピクリと動いた。
「どうした、こんなに遅くまで。よもや、私を待っていたわけではあるまいが・・・?」
弾かれたようにハインリヒが振り返る。
その顔の中にどこかホッとしたような表情を見い出し、男は、頬に薄く笑みを刷いた。
「アルベルト」
視線が、伏せられる。
薄暗い部屋の明かりの中、長い銀の睫毛がぼんやりと光を放った。
「アルベルト」
名前を呼ぶと、固く引き結ばれた唇が何か言いたげに震えた。
「どうした・・・?」
問いを投げると首を横に振り、再び俯いた。
腕を差し伸べ、命じる。
「アルベルト、こちらへ」
近付いてくる、華奢な身体。
手を伸ばせば届く距離まで側に来ると、白い指先が男の腕に触れた。
キュ・・・と、袖を掴まれる。
よほど気を付けていなければ、聞き取れないような声。
けれども、確かに彼は言ったのだ。
「お前を・・・待ってた・・・」
頼りなさげなその表情を目の当たりにし、 背中がザワザワとした。
胸の奥から沸き上がってくるこの想いの正体は何だ?
・・・恋か?
・・・愛か・・・??
自分がそんな感情を持ち得る筈がないと思いながら、目の前のハインリヒに視線を当てた。
「アルベルト・・・」
呼びかけた声はいつもの自分の物とは違い、どこか甘さを含んでいるかのように感じられた。
「オレを・・・。オレを、置いて行くな・・・」
身体を引き寄せながら、
「頼まれても手放さんぞ。お前は、私のモノなのだからな・・・。」
そう言うと。
白皙の頬に安堵の表情を浮かべ、綺麗に笑んだ。
気持ちを、持て余してしまいそうになる。
コレは自分のモノだと当然のように思い。
奪い、手の中に閉じ込めた。
自分のために存在する、ただの美しい玩具だと思っていた筈だったのに・・・。
どうしようもなく欲しくなり。
薄い唇のラインをそっとなぞった。
ピクリと肩を揺らし、躊躇いがちに視線を伏せる。
「私を見ろ」
言えば顔を上げ、黙ったまま男を見つめた。
どこまでも透き通った淡いブルーの瞳が、濡れたように光る。
この想いを・・・『愛しい』と表現してもいいのだろうか?
「 」
耳元で小さく囁くと。
頬に、薄っすらと紅を刷いた。
その様を見て、クスリと笑った後。
そっと、口唇を重ねてみた。
いつものほろ苦さが嘘のように、その味は甘露で。
もっともっと欲しくなり、更に深く口唇を重ねた。
〜 END 〜
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こんな感じで「キスがしたい」で大丈夫でしょうか?
ドキドキ。
44でこのお題は、難しかったです。
そして、どことなく生温くてスミマセン(汗)。
でも、甘めの(?)44が書けて自分は満足っす。
黒様の「 」の台詞は、皆様お好きに入れてみてくださいvvv
こんな台詞を入れてみたよ〜!
と、教えてくださると、管理人が喜びます!
「『キスがしたい』を44で」とリクを下さったのは、出様でした。
ありがとうございましたv
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