「うーん。困りましたねぇ〜」
 地の守護聖・ルヴァが困惑の表情を見せることは、さして珍しいことではない。
 だがしかし。
 今回ルヴァが悩んでいる現場、というのは、まったく普段の彼らしからぬ場所で。
 ルヴァは今・・・アクセサリーショップにいた。
 非常に、似つかわしくない場所である。
 しかもその場所で、かれこれ30分以上も、彼は悩んでいた。
 可愛いネックレスが並んでいるショーケース。
 柔らかなピンク色のビーズのネックレスと、若草色の四葉のクローバーのモチーフがついたネックレス。
 二つのネックレスの間で、ルヴァの心は揺れ動いていた。
「本当に、困りましたねぇ・・・」
 何故ルヴァがこのような場所でこのように悩んでいるかというと。
 ホワイトデーが近いからである。
 付き合いだしてから始めてのバレンタインデー。
 アンジェリークはルヴァに、美味な手作りチョコレートと、趣味の良いルーペをプレゼントしてくれた。
 長年愛用してきたルーペは、最近壊れ気味だった。
 アンジェリークが、その事を知っていてくれて、気遣ってくれた。
 ルヴァにはそれが嬉しかった。
 そんな嬉しい気持ちをハッキリとアピールするために、ホワイトデーには、少し気の利いた贈り物をしようと思っていて。
 それで今回、アクセサリーショップに足を向けたわけである。
「女性なら、ネックレスとか喜んでくれそうですしねぇ〜。うんうん」
 などと、したり顔で頷きながら足を踏み入れたその場所であったが。
「はあぁ〜。女性に贈り物を選ぶのがこんなに難しいなんて、知りませんでしたよ」
 ボヤきながら、ルヴァはアンジェリークの姿を脳裏に思い浮かべる。
 太陽の光を溶かし込んだかのように眩しい、金の髪。
 優しく揺れる、若草色の瞳。
「分かりました!」
 ルヴァは一人で小さく叫んだ。
「この、クローバーのネックレスにしましょうねぇ。彼女の髪と瞳の色に、良く似合うことでしょう。思えば、アンジェリークはピンクの服が多いですしね、うんうん」
 レジにそのネックレスを運びながら、ルヴァは更に考えた。
「それに、クローバーは幸運を運んでくれると言いますし、ね」
 ルヴァは満足げに微笑み、レジの女性に声をかけた。
「お会計をお願いします。それと、プレゼント用に、包んでもらえますか?」



 アンジェリークは「ホワイトデー」なんて、一言も口に出さない。
(どうせ、そのことに関して私が全く知らない、もしくは忘れているとでも思われてるんでしょうねぇ・・・)
 我ながら情けないことだ、と、ルヴァはため息をついた。
 彼女はただ、ルヴァを見て優しく微笑んでくれる。
 そして、ルヴァを気遣ってくれる。
『ルヴァ様、あまりご無理をなさらないでくださいね?』
 それだけで、嬉しくなる。
 いつもルヴァに喜びを与えてくれる、ただ一人の女性。
 たまには、ルヴァの方から彼女を驚かせてみたかった。
 だから。
 執務室の机の引き出しに、大切にしまってある、小さな箱。
 時折、その箱の存在を確認しては、ルヴァはニコニコと笑った。
(アンジェリークは、喜んでくれるでしょうか?)



 そして、ホワイトデーの朝。
 ルヴァは女王補佐官の執務室へと足を運ぶ。
 ドアを軽くノックすると、中から入室を促す声が聞こえてきた。
「どうぞ」
「あー、おはようございます、アンジェリーク」
 ルヴァが執務室に入っていくと、アンジェリークは小首を傾げてルヴァを見つめた。
「おはようございます、ルヴァ様。こんな早くに何か御用ですか?」
「ええ。ちょっと、大切な話がありましてね」
 アンジェリークの側近くに歩み寄り、ルヴァはコホンと咳払いをした。
「アンジェリーク。少しの間、目を閉じていただけませんか?」
 素直に、アンジェリークが瞳を閉じる。
 ルヴァはいそいそと、準備しておいた小箱を開いた。
「ルヴァ様?」
「申し訳ないですけど、もう少しそのままでいてくださいね」
 そして、ほっそりとしたアンジェリークの白い首筋に、ネックレスを巻きつける。
「どうぞ、目を開けてください」
 ルヴァが声をかけると瞳をそっと開き、アンジェリークは自分の胸元に視線を落とした。
 可愛らしいクローバーのモチーフがその瞳に映った瞬間、アンジェリークの表情がパッと輝いた。
「ルヴァ様、これって・・・」
「アンジェリーク」
 名前を呼ぶと、美しい若草色の輝きがルヴァをじっとみつめた。
「なんですか?」
「四葉のクローバーは、その持ち主に幸せを運んでくれると言われています。知っていますよね?」
「はい」
「あなたは私にいつでも幸せを与えてくれる、私にとってかけがえのない女性です。いつまでも、側にいて欲しい。そして・・・」
 そこでルヴァは、一旦言葉を切った。
 このまま続けると、きちんと言えないような気がしたからだ。
 大きく深呼吸をして。
 アンジェリークの瞳を覗き込むようにして、ルヴァは言葉を紡いだ。
「そして、私に幸せを与えてくれるあなた自身も、いつまでも幸せでありますように」
 アンジェリークの首筋で揺れる、小さなクローバー。
 手に取って、ルヴァはそっと口付けた。
「・・・そんな願いを込めて、あなたにこのペンダントを贈ります・・・」
「ルヴァ様・・・」
 アンジェリークの瞳が、優しく潤む。
「私、とっても嬉しいです!ずっと大切にしますから」
 腕の中に、華奢なアンジェリークの身体が飛び込んできて。
 ほんの少しだけよろめきながらも、ルヴァはしっかりとその身体を受け止めた。
「喜んでもらえて、私も嬉しいです」
 そう答えると。
 ルヴァの腕の中で、アンジェリークが悪戯な笑みを見せる。
「でもね、ルヴァ様。私も、いつだって幸せなんですよ?」
「??」
「だってルヴァ様が、こうしていつでも側にいてくださるから・・・」
 アンジェリークの笑顔が弾ける。
 その笑顔に、思わず照れてしまう。
「ルヴァ様」
「何ですか?」
「大好きですから!」
 自分の頬が、カッと赤くなるのが分かる。
 いつもならば、焦りつつ笑って誤魔化してしまうのが常なのだが、ルヴァはキチンと返事することができた。
 穏やかに、微笑みながら。
「私も、あなたが好きですよ?」
 アンジェリークの髪を優しく撫でてから、ルヴァはハッと気付いた。
 時計の針が、執務開示時刻間近を示している、ということに。
「ああっ!?いけませんね、もう執務が始まる時間です。そろそろ自分の執務室に戻らなければ・・・」
 慌てて補佐官執務室を退出しようとするルヴァを、アンジェリークが呼び止めた。
「ルヴァ様!」
「はい?」
 振り向いたルヴァの頬に。
 チュッv
 アンジェリークが可愛らしくキスをしてくれた。
「今日も一日頑張りましょうね!それでは、また後ほど!!」
 執務室を出たルヴァは、頬に手を当て、ニコニコと上機嫌で笑った。



 その日、ルヴァの執務室に訪れた者は、地の守護聖のしまりない笑顔に後ずさりすることになる。
 しかしながら皆、ルヴァのその表情の原因がなんとなく分かっているので・・・。
 面と向かって何もいうコトも出来ず、執務室を出てから、嘆息するしかなかった。
 鋼の守護聖・ゼフェルのボヤキを一言。
「ルヴァ・・・アイツ今日、仕事になんのかよ・・・」


 ルヴァ様、いつまでもお幸せに(笑)。 

〜 END 〜



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2003年にフリーにしていたバレンタイン創作です。

ルヴァリモは、ホワイトデーネタにしてしまいました(汗)。
「男らしいルヴァ様」を目指したつもりですが、男らしかったのは一瞬だけ・・・。
あとはちょっと情けなかったかな、と反省。
ルヴァ様ファンの方、申し訳ありませんっ!!
ああでも、ルヴァ様好きだ、好きだ〜。
普段あまり書かないけど、大好きだ〜。
という事を実感しましたよ、今回のお話を書いていて(笑)。
皆様にも楽しんでいただけたらいいのですが・・・。





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