明日
(ジュリリモ)
その背中に純白の翼を持つ、宇宙の全ての生命にとって至高の存在であるその女性が。
聖殿の中庭をノンビリと横切り、そのまま外出していこうとする姿を確認し、ジュリアスは執務室から飛び出した。
「陛下・・・!!」
悪戯が見つかった時の子供のような仕草で、女王はペロリとジュリアスに向かって舌を出して見せた。
「あら。見つかっちゃった?」
「陛下!」
ジュリアスは声を荒げた。
「御身がどれだけ大切であるか、承知されているのですか?供も連れずに外出されるなど、正気の沙汰とは思えません!しかも・・・」
「ストップ!」
女王はしかめ面をしながら、ジュリアスの言葉を止めた。
「お説教はうんざりよ、ジュリアス。たまには自由に外出させて頂戴。閉じきった執務室や聖殿の中も、もううんざりなの。私だって、外に出て太陽の光や優しいそよ風を感じたいのよ。息抜きがしたいの!」
女王は、一気にそう捲くし立てた。
そして、チロリとジュリアスを上目遣いで見上げた。
「お供の人を連れていないのが気に入らないって言うのなら、ジュリアスが一緒に行けばイイわよね?」
ポンと嬉しそうに、女王は両手を叩いた。
「決定〜!!ジュリアス、さっさと準備してきて」
「陛下・・・!」
「これは女王命令ですv」
微笑みながらサワヤカに言ってのけられ、
「御意。陛下のお望みのままに・・・」
ジュリアスは諦めと共に頷いた。
息抜きがしたいという女王の希望に添えるか否かは謎だったが、ジュリアスはとりあえず厩舎に向い、馬を調達した。
馬を引いて、女王が待つ場所に戻ると。
「待ちくたびれたわ、ジュリアス」
「それは、申し訳ありませんでした」
軽く非難されたが、彼女は馬を見てキラキラと若草色の瞳を輝かせた。
「乗せてくれるの!?」
「ええ。陛下、失礼致します」
華奢な身体を抱き上げ、鞍に載せた。
それから、自身もその後ろにまたがり、鐙を踏んだ。
馬が、軽やかに走り出した。
「気持ちいいわ〜!!」
ジュリアスの腕の中で、女王はキャッキャと歓声を上げた。
まるで、女王候補だった頃のように。
ジュリアスの心も、あの頃のように跳ねた。
「ね、ジュリアス。ちょっと遠くまで行きましょうよ」
「そうですね・・・」
柔らかな金の髪が目元に掛かるのを払ってやりながら、ジュリアスは短く答えた。
そして、馬を走らせた先は・・・。
女王候補である最後の日に、二人一緒に訪れた場所だった。
小高い丘の上から、二人、聖地を見下ろすと。
女王の表情が、今までの砕けた様子から変わった。
「私は・・・女王になったことを後悔してはいないわ、ジュリアス」
慈愛に満ちた瞳で、彼女は空を見上げた。
「私はこれからも、宇宙の全てを愛します」
女王の決意に、ジュリアスもまた、気持ちを新たにする。
若く、力に満ち溢れた女王。
誰よりも美しく、優しい・・・。
「陛下・・・。陛下を女王として戴けた事は、このジュリアスにとって至上の喜びです」
ジュリアスに向けられた女王の瞳には、信頼と・・・それとはまた、別の色が浮かんだ。
その色をしっかりと受け止めながら、ジュリアスは改めて誓った。
「今後とも、全身全霊を懸けて、陛下にお仕えいたします・・・」
この丘の上から、ジュリアスには、ハッキリと見えた様な気がした。
宇宙の、未来が。
どこまでも続いていく明日という日は、優しさと希望に満ち溢れていることだろう。
女王の慈愛に包まれて。
クスリと、女王が笑った。
「難しい話は、これでお仕舞い」
言いながら、スッと差し出された手に、情熱を込めて口付けた。
「・・・アンジェリーク・・・」
小声で名前を呼び、顔を上げると。
女王の笑顔が、弾けた。
女王の頭上には、青い空。
この空のように、輝かしい明日がどこまでも続くよう、ジュリアスは願う。
ジュリアスの女王が、幸せでいられるように。
丘の上に一陣の風が吹きぬけ、ジュリアスと女王の金の髪をサワサワと揺らして去っていった。
〜 END 〜
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上手く纏められなくて、ちょっと長めの話しになってしまいました。
うう〜ん。
「明日」というコトで、希望に満ち溢れたお話にしたかったのです。
女王と守護聖の立場の二人ですが、
二人の間に流れる静かな愛情を感じ取っていただけると嬉しいです。
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