あなた
(ジュリリモ)
全てが、固く、閉ざされた部屋。
天井に近い位置に、一つだけ空いた窓。
そこから差し込む、月の光。
アンジェリークは瞳を凝らし、窓の外を眺めた。
今頃、どうしているのだろう。
ロザリアは・・・守護聖達は・・・ジュリアスは。
突然、閉ざされていたドアが、音を立てて開く。
漆黒のマントをバサリと靡かせながら現れる、一人の男。
皇帝・・・レヴィアス。
「どうだ、大人しくこの私に従う気になったか?」
その問いかけに、アンジェリークは事も無げに答えた。
「いいえ。私は宇宙を守るために生きているのだから。破壊の手助けなんて、ゴメンだわ」
面白そうに、レヴィアスは笑った。
「囚われの身だというのに、気の強いことだ」
「侵略者に対しては、全力で戦うわ」
「・・・此処からは、逃れられんぞ・・・?」
「ご心配なく」
アンジェリークは強く、レヴィアスに視線を走らせた。
「私の守護聖が、必ず助けに来てくれますから」
「お前の自慢の守護聖は、この私の手の中に捕えられているというのに?」
「捕えられたまま、大人しくしている人達ではありませんから」
レヴィアスの口唇から、溜め息のようなものが零れた。
「本当に・・・強情な女王だ」
そのまま、クルリとアンジェリークに背を向けて、去っていこうとする。
「待って!」
アンジェリークは、レヴィアスを呼び止めた。
「ひとつだけ教えて頂戴。ロザリアは・・・私の補佐官は、無事なの?」
「生かして・・・捕えてあるぞ」
その言葉に、安堵する。
「全ての責は私が負います。殺すなら、私を殺して。補佐官には手を出さないで・・・お願い・・・」
「美しい女王陛下の弱点は、その補佐官、という訳か・・・?」
薄く笑うと、レヴィアスは再びアンジェリークに背を向けた。
「レヴィアス!」
鋭く、その名を呼ぶと。
レヴィアスはアンジェリークを振り向いた。
「女には手は出さん・・・私はな・・・。だが、私の部下は分からんぞ?」
「私の補佐官を傷付けることは、絶対に許しません!」
「・・・覚えておこう」
足早に歩き、レヴィアスは姿を消した。
アンジェリークは、ヘタヘタとその場に座り込んだ。
突然の侵略者。
慈しんで愛してきた宇宙はどうなるのだろうか?
不安で不安で、たまらなくなる。
迷った時や苦しい時。
アンジェリークに真っ直ぐに道を示してくれるその人は・・・今は、側にはいない。
けれども・・・。
クイ、と、アンジェリークは顔を上げた。
侵略者に、屈してはならない。決して。
必ず、宇宙を守る。
ねえ、ジュリアス。あなたならきっと、そう言うわよね・・・。
アンジェリークは、クスリと笑う。
厳格な、首座の守護聖の顔を思い浮かべて。
不安など感じていては、叱られてしまう。
私は、信じる。
頼もしい、私の守護聖達を・・・あなたを。
「・・・ジュリアス・・・」
豪奢な金の髪を揺らしながら。
その時はきっと、少し怒ったような顔で、あなたは私に呼びかけるだろう。
『陛下。このジュリアスが、貴女をお迎えに上がりました』
だから、大丈夫。
・・・大丈夫・・・。
挫けないし、泣いたりなんかしない。
臆するところも見せたりはしない。
若草色の瞳が、強く、決意の色を宿した後。
優しく、瞬いた。
「ジュリアス、どうか無事で・・・」
呟きは、冷たい石畳の中に溶けていく。
小さな窓から差し込む一条の光の下で、アンジェリークは祈りを捧げるようにして、胸の前で両手を組んだ。
きっと、同じ月を見ている。
だから。
「どうか・・・無事で・・・」
この想いがあなたに届いて。
少しでも、あなたの力になりますように。
〜 END 〜
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天空の鎮魂歌で、レヴィアスに捕えられていた時の、
リモちゃんイメージで。
失望などすることはなく、強く。
自分の守護聖を信じていたと思います。
リモちゃんの心の強さと、
ジュリアスさまへの信頼の強さを
感じ取っていただければ嬉しいです。
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