百万本の薔薇
(オスリモ)




「アンジェリーク」
 アイスブルーの瞳が笑って。
 差し出された大きな薔薇の花束に、私は驚く。
 驚いたのは、その色に。
 オスカー様がいつも好んで贈る薔薇の花は、司る力を思わせる、燃えるような赤。
 けれども、今日は花の色が違う。
 真っ白な、薔薇の花束。
「受け取ってはくれないのか、アンジェリーク?」
 その声に、ハッと我に返る。
「・・・ありがとうございます」
 どこかボーっとしながら腕を出すと、バサリと花束が置かれて。
 抱えきれないほどの薔薇の花に、オスカー様の表情が隠れた。
 今日はどうして、白い薔薇なんですか?
 尋ねたいのに、尋ねられずに。
 白い花びらの中に顔を伏せると、強く、薔薇が香った。
「アンジェリーク」
 名前を呼ばれて顔を上げた。
 やっぱり、花びらに隠れて、オスカー様の顔が良く見えない。
 声だけが、耳に届いて。
 ・・・何だか・・・いつもより真剣・・・??
 そんな事を思いながら、花びらを透かすようにして、オスカー様の表情を伺おうとした。
「アンジェリーク」
 今日は、名前を呼ばれてばかりのような気がする。
「はい?」
 スイと、オスカー様の腕が花束に伸びるのが見えた。
 花を一本そこから抜き取って、花びらにキスをする様子を、まるで遠い風景のように眺めた。
 そんな姿は、やっぱり、とても絵になる。素敵だ。
「アンジェリーク」
 名前を呼ばれるのは、何度目だろう?
 腕の中の重みが無くなり、視界が開けた。
 白い薔薇の花束は、私の腕の中から、小さな丸テーブルの上に位置を移した。
 あまりにも、大きな花束だから。
 テーブルから、溢れて落ちそう。
「花が邪魔で、君の顔が見えない」
 その花をくれたのはオスカー様なのに。
 なんて、不満そうな顔。
 思わず、クスリと笑ってしまうと。
「やっと笑ったな・・・」
 長い指が伸びてきて、クシャリと私の髪を撫でた。
「オスカー様」
 今なら言えるような気がして、問いかける。
「薔薇の花。いつもと色が違いますね?」
「・・・そうだな・・・」
 スッと、オスカー様が瞳を細めた。
「けれども、君に一番良く似合う色だ。だから今日は、この色を選んだ。本当は、この部屋を埋め尽くすぐらいの薔薇の花を贈りたかったんだが・・・」
 私は、首を傾げる。
 今日は、何か特別な日なのだろうか?
「分からない、という顔をしているな・・・」
 オスカー様は、苦笑して。
「君に想いを伝えてから・・・ちょうど、一年が経った」
「え・・・?」
 もう、そんなに経ったのかと思う。
 そして、当時を思い出し、私は自分の頬が赤くなるのを感じた。
「今日君に贈ったのは小さな花束だが・・・気持ち的には、百万本の薔薇だ。一年間・・・ありがとう、アンジェリーク。これからも、俺と共に・・・」
 互いの想いを確かめ合って、一年なんて。
 私はすっかり忘れていたのに・・・オスカー様の気持ちが、何だかとても嬉しい。
「・・・はい!」
 大きく背伸びをして、オスカー様の頬にキスをした。
「これからも、よろしくお願いしますね、オスカー様v」
 オスカー様から貰った、特別な薔薇の花。
 百万本も、必要ない。
 オスカー様の気持ちがこもっていれば、きっとたった一本の薔薇の花でも、私には百万本以上に見えるから。
 真っ白なその花束を腕に抱えて。
 私は、胸いっぱいにその香気を吸い込んだ。



  〜 END 〜




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ベタ甘でスミマセン、スミマセン(滝汗)。
タイトルに偽りあり・・・かなぁ・・・。
オスカー様が気障過ぎてスミマセン。
なんか、すごく(管理人的に)気合の入ったオスカー様になりました。
「『百万本の薔薇』をオスリモで」とリクを下さったのは、あきら様でした。
ありがとうございました〜v





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