今日は、2月14日。
世に言う『バレンタインデー』の日だ。
街中は幸せそうなカップルで溢れている。
そしてオレ達も・・・今日というこの日に、一緒に並んで歩いている。
誘ったのは、オレの方だ。
オレは、コートのポケットの中を探る。
手に触れる小さな包みの中にはチョコレートが入っているのだ。
決死の思いで買ってきたチョコレート。
けれども、渡せずにいる。
会った時にすぐに渡せば良かったのだが、どうにも照れてしまって、渡せなかった。
宮田は、オレの隣で飄々と歩く。
ボクシングバカで世俗に疎そうなコイツのことだから、今日が何の日かなんて、全く頓着していないんだろう。
チラリと表情を伺うが、いつもどおりのクールな表情で。
カッコイイよなぁ・・・。
なんて、男のオレでも惚れ惚れしてしまう。
オレ達は、そのままデートを続ける。
時折、オレのコートのポケットでカサリとチョコの包みが音を立てる他は、普段と変わることなく。
一緒に街を散歩して、食事を済ませる。
日が落ちてしまった薄暗い通りを、二人で歩いた。
カサリと、ポケットの中で小さな包みが動くのが気になりながら。
隣の宮田を、じっと見つめた。
月の綺麗な晩。
サラサラの黒髪が、眩しく月明かりを反射する。
キレイだな、と素直に思う。
宮田と一緒にいる時間が好きだ。
笑顔や何気ない仕草、全てが愛しくて。
一緒にいられるとそれだけで幸せな気分になれる。
これからもずっと、お前のことを好きでいられたらいい。
「なぁ、そうだろ、宮田?」
オレの突然の言葉に。
宮田は静かに微笑みながら言葉を返してきた。
「そうですね・・・。オレもアンタを、ずっと好きでいたいですよ」
参った。
何も言ってないのに、オレの気持ちが分かってしまうのか。
ヤツは、ニヤリと笑った。
「木村さんのコトなら、あらかた分かりますよ」
自信満々なその態度も。
好きなんだよな、やっぱり。
宮田は実に紳士的に、オレを家まで送り届けてくれた。
結局、渡せないままになりそうな、チョコレート。
どうしよう・・・。
考えながら、でもオレの口唇は、宮田に対して別れの言葉を紡ぎだす。
「今日は楽しかったぜ。ありがとな」
「・・・オレも楽しかったですよ。アンタと一緒にいられて」
静かに微笑みながら、宮田はそう言った。
その笑顔のあまりの優しさに、胸がキュンとして。
ああ、オレはコイツが本当に好きなんだなぁ、なんて、しみじみと思ってしまった。
恥ずかしがってる場合じゃないぜ、ホント。
「それじゃ、オレはこれで。また誘ってくださいね。オレも、誘いますから」
踵を返そうとする宮田に、
「ちょっと待て!」
声をかけると、宮田は不思議そうに振り返った。
「何です?」
店のショーウィンドウの中から花を一本取り出し、適当な長さにカットした。
そしてコートのポケットをの中から、小さな包み。
その包みに花を添えて差し出すと、
「今日が何の日か、オレだって知らないわけじゃないですからね。・・・素直に、嬉しいですよ」
宮田は、笑った。
今日という日の意味、知っていながら何も言わなかったのも、コイツの優しさなのだろうか?
「それにしても、木村さんがどんな顔してチョコを買ったのか、見たかったな・・・」
「・・・うるさいぞ」
上目遣いで睨み付けると、宮田はクスリと笑った。
「ハイハイ、オレが悪かったですよ。それじゃ、また・・・」
宮田はそのまま、スタスタと去っていく。
その後姿を、何となくボーっと見送っっていると、歩きながら、宮田がヒラヒラと手を振った。
薄暗がりに小さな白い花が微かに光を放って、その手の動きと一緒に揺れた。
部屋に戻り、風呂から出てみると、携帯電話がチカチカと光っていた。
電話を手に取ると、宮田からのメール。
『オレも、愛してますよ。昔も今も、そしてこれからも、アンタだけ』
うわっ。恥ずかしい・・・。
そう思いつつも嬉しくて、オレの頬はだらしなく綻んだ。
宮田に贈った花・・・マーガレットの花言葉は、【真実の愛、誠実】。
花に託したメッセージを、宮田はしっかりと受け止めてくれたらしい。
でも、アイツが花言葉を知っているとは思えないし・・・。
わざわざ調べたのかと思うと、余計に嬉しかった。
手の中の小さな電話に、チュッとキスをする。
そして、オレはメールを打ち始めた。
宮田に返事を出すために。
伝えたいのは、ただ一つの言葉。
『愛してる』
送信ボタンを押して、オレはベッドの上に仰向けになった。
〜 END 〜
宮木は一応、バレンタイン話になりました。
ベタ甘なのは管理人の芸風と言うことで、笑って許していただきたく。
私は花言葉に併せて花を贈るのが好きですv
特に木村さんはお花屋さんvなので、
今回は宮田くんにお花をプレゼントしてもらいました。
自分の想いを、花言葉に乗せて。
っていうのも好きなんですよね〜vvv
HOME 企画部屋