■ que様 ■



2回目のラバーズバースティ♥







去年の9月19日・・・・空を飛んで可愛いあの子が祝いにやってきてくれた。あいにくケーキも丸焼きのご馳走も無かったが、あの子のおかげで満腹になった。今年はどうする・・・そんな期待をしてしまうほどに、自分の誕生日を意識してしまう。365日のなかのただ1日に過ぎないのに。だけど戦いのなかで、一年生き延びたことを祝うんだと言い張るあいつの剣幕に逆らうほどのこともない。

去年と違って今年はしっかり約束させられた。仕事があっても夜は一緒にすごうと。僕もちゃんと飛行機で休みをとっていくからと。面と向かって一年に一回ぐらい恋人に逢いにいってもいいだろと俺より少し高い位置から、長い前髪の間のあの垂れ目でうるうるお願いされたら、約束せざるをえないだろ。そして約束は守らなくてはいけない。

というわけで仕事を早上がりしたハインリヒは、自分のアパートに戻るところだった。9月のドイツは既に季節は秋めいて冷たい風がふく。今夜はやってくる友人・・・恋人っていうのはどうにもまだ面映い・・・・・に出来合いのものだが、ドイツ式にご馳走してやらなくてはとマーケットにいき、愛車をアパートの前の駐車スペースに停めると大きな紙袋をかかえて、キーを片手に自室のある4階を見上げる。先ほどまでの風に雨粒が混じりこみ始めて、今夜遅くにはどうやら本格的な嵐がきそうだった。冷えそうだな。そう思いつつ、玄関の古びた重いドアを押し開けて、郵便箱の中身を確認し階段に向かった。

「・・・・・アルベルト。」

階段を上ろうとしたところに声をかけられた。声に聞き覚えがある。何故ここに?

「・・・・君は、どうしてここに?」
「あなたを待っていたのよ。今日はあなたのバースディでしょう?その袋、今からバースディパーティなのかしら!できれば私も参加させてもらえたら嬉しいのだけど。」
「・・・・いや、今日は誕生日でもないし、ただの買出しだよ。」
「でも、会社の書類にあなたの誕生日が今日だとかいてあったわ!」

彼女は少し前まで同じ運送会社の事務で勤めていた女の子だった。採用されたものの、どうにも他の事務の人たちと折り合いが悪く、数週間でやめていったのだ。だが、それからどうしたものか、ハインリヒのことが気になるらしく手紙などが頻繁にきていた。

見た目は平均以上の美貌で目を引くが、話をするとすぐ、彼女の自己中心さがわかってしまう。手紙ももちろんハインリヒが住所を教えたわけではない、彼女が勤務中に会社の書類を勝手に調べたのだ。もちろん誕生日などもそのとき知ったのだろう。眉をひそめて年若い女の子に諭すようにいう。

「そういうことは褒められたことじゃないな。勝手に人の書類を見るなんて。もう、今日は天気が荒れそうだから早く家に帰りなさい。」

そういって指差した出口の扉には荒れる気配の風が叩く音がした。いずれ雨足も強くなってきそうだ。

「・・・・・傘をもってないわ。」
「そこで待っていなさい、傘を持ってくる。」

荷物を抱えなおしハインリヒが階段をあがりかけると、その後を追いかけてくる。

「玄関で待っていてくれ。」
「傘を借りにいくだけよ。貸してくれるんでしょう。」
「部屋まで来ないでいい。」
「荷物もってあげる。」
「何もしないでくれ。」

はっきりと邪険にするわけにもいかず、押し問答をしながら、ハインリヒは結局、ともに4階の自分の部屋へ向かった。

「ねぇ、いいでしょう、アルベルト。」

弾んだ声で、女の子がついに紙袋を取ろうと強引に引っ張る。階段の不安定な場所で振り払うこともできなくてそのまま4階まで上がりきった。ハインリヒの部屋はこの廊下の奥東側だ。外はすっかり雨雲が覆いかぶさり、夕方以降普段でも薄暗い廊下がいっそう暗くなっていて、自分の部屋の前に人がいることに真近になるまで気がつかなかった。そこに人影があるのを知ってハインリヒが立ち止まる。ハインリヒが急に立ち止まったので、袋にしがみついた女の子もハインリヒに寄りかかる形でハインリヒの視線の先を見つめた。壁にもたれかかるように長身の人物がいるのがわかる。

「アルベルト?誰?」

その口調は可愛らしく甘えていて、いかにも二人は親密な関係を築いているといわんばかりだ。その一方的な親密さを滲ませた声でさらに擦り寄るようにしてハインリヒに問いかけた。

「お友達?やっぱり誕生パーティがあるんでしょう。私も入れて。ね。」
「いや・・・・。」
「どうして?私あなたのことが好きなの・・・・なんどもお手紙だしたから私の気持はわかるでしょう?家事は上手で大好きよ、お客をもてなすのも楽しますのも。安心して。」

予想が当たったと明るくはしゃぐ女の子の扱いに手を焼いていると、

「やぁ、え・・・と、フロイライン?」
「ええ、アルマよ。」
「ジェットだ。」
「よろしく、アルベルトの友人?あんまりイメージじゃないタイプね。」
「そう?見た目だけで判断してるとそのうち痛い目にあうよ。そろそろ、彼の手を離してあげたらどうだい?」
「あ、あたし。」

そういうと、さらにハインリヒの腕にぎゅっとしがみつく。

「アルマ、離してくれないか。」

困った顔をして女の子を見つめるハインリヒをちらりとジェットが見る。

「・・・・・アルマ、彼、心にいい人がいるんだ。アタックするだけ無駄だよ。」

人懐っこい笑顔をうかべながら、優しくジェットが女の子に声をかけた。

「どうしてあなたにそんなことをいわれなくちゃいけないのよ。関係ないでしょ。」

激しい口調で言い返され、ジェットもいったん目を瞑って身を起こし、こりゃラチが空かないやといつもの大げさな身振りをして伸びをした。

「ハインリヒ、そろそろ部屋の鍵を開けてくれる気にならないかい。随分待った。外は暗くなるし、雨も酷くなるだろう。はやく帰ったほうがいいよ、アルマ。」
「今日、誕生日なのよ、この人!」

勝ち誇ったように女の子がいう。

「・・・・知ってるよ、友達だから。」

ジェットが穏やかな笑みを絶やさず、女の子に返す。

「パーティなんてしないんだ、そんなに目出度くもないからな。今日も365日のうちの1日にすぎない。」

二人のやりとりに振り向きもせずそういうと、ハインリヒが古い扉に鍵を差し入れる。がちゃんと音がして錠が開いた。ゼスチャーでジェットに入れと指示し、そのどさくさに部屋に入り込もうとする女の子に

「君はココでまっていろ。傘を。」
「なんで、アルベルト!そんなに冷たいの!雨もふっているのよ、お友達の前だからって照れなくてもいいじゃない!」

そう叫ぶ女の子の前で扉がしまった。待つこと数秒、再び扉があけられて、ハインリヒが手に緑の傘をもって彼女に渡す。

「この傘をあげるからはやく帰りなさい。そうしないと本当に雨が嵐になってしまうよ。」

ハインリヒの肩越しに、明かりをつけないカーテンを閉めたままの薄暗い室内にさきほどの長身の人物がたっているのがぼんやり見えた。

「あ、だけど・・・・あ、あの、・・・誕生日おめでとう・・・・傘!お借りします。また返しにくるから!きっと!」

流石に強気な女の子もそれ以上ハインリヒに絡むことができず、泣きそうな顔をして傘を受け取った。その目の前で再びゆっくりと古びた扉が閉まる。女の子はしばらく目の前の扉をじっと眺めていたが、やがて嬉しそうに手にした傘に軽く頬ずりをして抱きしめて、ゆっくり廊下を戻り階段をおりはじめた。





女の子に傘を渡し扉をしめて戻ってきても、部屋の中は暗い。先に入ったジェットがいつまでたっても明かりをつけないので、不審に思いながらも自分で照明のスイッチをいれた。

「よくきた、待たせたか?」

明るくなった室内でようやくハインリヒも寛いで、何もなかったかのごとく、やや、上機嫌で紙袋の中身をテーブルに広げ整理をしながら尋ねた。

「ああ、少し。」
「悪かったな・・・、仕事は予定どおりだったんだが、お前がくるからと思って買い物にいっていた。かなり奮発したぜ。」

手早く、冷蔵庫にいれるものを仕分け、テーブルの上を片付ける。

「ジェット?なんでずっとつったてる?」

ソファでくつろぐこともなく、自分を手伝うわけでもない、ただつったたまま電源のついてないテレビ画面をみているかのようなジェットの様子にさすがにハインリヒが声をかける。

「疲れたか?それならアメリカからわざわざ来ることも無いのに。」
「・・・・・・君の誕生日を祝ってくれる人は他にもいるみたいだしね。彼女と買い物?」
「ジェット?」
「忘れてたよ、君はモテルオトコだった。さっきの女の子は、どこで知り合ったんだい?亜麻色の巻き毛の可愛い娘じゃないか。僕のほうがもしかしてお邪魔しちゃったのかな?腕にぶらさがったりして、すっかり絵になっていたよ。」
「何いってるんだ、彼女は・・・職場でほんの一時仕事を一緒にしていただけだ。すぐやめちまったけどな。」
「へ~~~、もう一緒に仕事してるわけでもないのに、家まで教えたんだ。」
「何言ってる、教えたわけじゃない!会社の書類を勝手に盗み見たんだ。」

ジェットの言い方にかちんときたハインリヒがイライラして答える。今まで順調だった。仕事も難所をうまくくぐりぬけ、定時に終わらすことができた。ジェットが来ると思って、去年はなんのご馳走も喰わせてやれなかったせめてものお詫びだと、この一年で溜めた貯金をつかって、かなりいい値段のする食材も買ってきた。なのに、あの娘が来てしまって、どこかがかみ合わない。

「だから、今日誕生日だって知ってるってわけ?」

ジェットが唇を尖らして音のしない口笛を吹く。

「そうだ!」

そう答える以外ハインリヒにも答えようがない。

「ジェット、なんか誤解してないか?」
「・・・・・・別に。自分の足で飛ばずに飛行機なんてのってきたから、うきうきしすぎて逆に疲れちゃったのかな僕。シャワー貸してくれる?」
「・・・・。奥だ。」

いつものように穏やかな笑顔でにっこりと返されては、もっと何か言いたかったハインリヒもそれ以上言い募ることができなかった。





シャワーのコックをひねると、熱い湯がでてきた。頭からその温かい心地よい温度の湯を受けながら、その温度調節のハンドルを反対側、冷水のほうにゆっくりまわした。暖かい湯で疲れを癒されたいわけじゃない、サイボーグのこの体、飛行機で少々缶詰になったって疲れるはずないじゃないか。疲れたのはさっきの女の子とのやり取り。

階段を上がってくる音に耳をすませ、ああ、ハインリヒが帰ってきたと喜んだのは束の間、懐かしい愛しいその声に絡むような陽気な若い娘の声。困っているような照れてるような、ハインリヒの返答。サイボーグの聴力は伊達じゃない、大体の事情はそれを聞いていて分ったけど、あの時、僕は確かにその女の子を階段から突き飛ばしてやりたい衝動に駆られて、それをじっと押し殺して微笑んだ。

僕達は改造されてBGから脱出して、今はそれぞれの場所でそれぞれの関係をひろげている。僕だってハインリヒの知らない僕だけの友人や僕だけの場所を持っている。むしろ、彼が人並にそう過ごしてくれるようになったのは、喜ぶべきことだにちがいない。そんなことはよくわかっている。だけど・・・。さっきみたいに、僕の知らない人と、親しくしている彼をみるのがこんなに辛いとは思わなかった。どうしよう、こんな気持知らない。今まで、自分が好きになった人が他の人を好きになったって、僕のことを振り返ってくれなくなったって、こんな痛みを感じたことはない。ああ、飽きたんだな、ならしかたがない。そう思っていたのに。冷たい水がざぁさぁと全身を濡らしているのに一向に、頭の、胸の、奥でくすぶるこの嫌な炎を鎮めてくれない。ハインリヒが他の人といて、そんな独占欲を感じたことは無かった。

それが本気の恋の嫉妬の炎だとジェットには自覚できなかった。今まで、そんなこと感じたことがなかったから。ただ、ハインリヒが他の女の子と楽しげに(女の子はすくなくとも楽しげに話しかけていたし、言葉の端々からハインリヒとただの知り合いではないように匂わせていたから)話しているだけでこんなに、どうしようもなく自分を見失いそうになる自分のことがジェットにはわからなかった。この気持は怒りではないのか。怒りだとしたら一体誰に何に向かう怒りなのか。

凹んで下を向けば、なぜか幾分怒張した自分に目が合った。ジェットは嫉妬がまたその欲望にスパイスとして使われることがあることも理解できていない。自分が肉欲だけの存在になったような気分になり、さらに凹んだ。どうして、僕はあのおっさんにこんなに振り回されてしまうのだろう。そう考えて、ハインリヒと抱き合うときの心地よさを思い出し、わずかに大きくなっていたそれが、さらにビクンと振るえ体積を増した。僕は処置なしだ。ジェットはシャワーに顔を向けて自分を鎮めようと水をあび続けた。





コン、コン。

すっかり買い物の片付けもついでに晩餐の用意もすんで、ジェットのやつずいぶん長いことシャワーを浴びているなと幾分気もそぞろになってきた頃、部屋の扉が叩かれた。嫌な予感にハインリヒが慌てて扉を開けるとそこには階下に住む家主が迷惑そうな顔で立っていた。

「ハインリヒさん。申し訳ないんだが、シャワーの音がうるさくてな。苦情がきているんだよ、もしかして、水漏れでもして気がついていないのかと思ってお知らせにきたのだが。」

家主は当然、ハインリヒが使っているものと思っていたので、ハインリヒがすぐさま戸口に現れ、髪も濡れてないのを見て、さらに興味を持ったようだ。

「あ、はい、すみません。友人が使っていて、すぐ、止めさせます。」
「ご友人?」

家主の顔には珍しいこともあるものだという驚きと、シャワーを借りる友人ということはつまり、という色がでて。そんな家主の苦情に営業用の笑顔でわび、扉を閉めると渋面でシャワールームへ向かう。

「ジェット、長すぎるぞ!シャワーとめろ!」

怒鳴るわけにもいかず、語気鋭く低くそう呼びかけると、すぐさまコックがひねられて水が止められた。そのままゆっくり、シャワーカーテンが引かれ、ぬれねずみのどこか拗ねた雰囲気を纏ったジェットが裸で現れる。いいすぎたかと思ったハインリヒは、返って言い訳のように聞こえるそんな声で続けた。

「ドイツじゃ、騒音にかなりうるさいんだ。悪いが・・・。」

ハインリヒがジェットにバスタオルを渡そうと近づく。ぽたぽた落ちる水滴にしっとり濡れて、いつもは逆立つ赤い髪がその色味を濃くして、顔から肩のラインにぴっとりはりついているさまは、ジェットの痩躯を幼子のように心細そうに頼りなくみせた。

「・・・・・外は、この風だせ。シャワーの音がどれほどだというんだい。」

タオルを受け取り、ぼやく口調がいつものジェットだったので、ハインリヒはなにか胸にひっかかる違和感をたいしたことないと片付けようとしたが、赤い髪から滴る水滴がまったくの冷たい水であることに気がついた。

「ジェット?」
「ああ、水か?別に暖かい湯じゃなくとも僕らは平気だろう?」

いつもできるだけ人間のように過ごそうと心がけているジェットからの台詞とは思えなかった。

「風邪はひかないし。」

にっこり明るく垂れ目を細めて、ぶるぶると大型犬のように身をふるわせ、いつもの陽気さをまとってタオルで髪の水滴を荒くふきとると、すぐさま癖のある髪がかわいたところから立ち上がろうとする。無言のまま、みつめるハインリヒの視線を背に感じつつ無視をきめこんで、腰の周りにタオルを巻きつけたまま、脱ぎ捨てた服を手にしてジェットはリビングへ。後を追いかけるハインリヒ。

「ジェット!」
「なんだよ、別になんでもないっていってるじゃないか!」
「なんでもないって態度かそれが。いいたいことがあったらいえよ!なんだ、その態度は!!」

瞬時、ジェットの中であの沸々と滾る怒りが沸点を超えた. せっかく一人でなんでもないと押し殺し、飲み込もうと思っていたのに。言い募ろうと後を追いかけてきたハインリヒの首の辺りを逆に掴み引き寄せ、大声で怒鳴った。

「わかんねぇかよ!」
「わかるかよ!」

今度は隣人が隣の壁を叩いた。

怒りの形相でハインリヒを引き寄せたものの、それ以上ジェット自身も自分の気持を説明する言葉もしらず、どうしていいかもわからない。二人はにらみ合った。やがてジェットはハインリヒから手をはなした。

「・・・・やってられるかよ。こんなおっさんとなんで僕が!」

そう呟くと、さっき脱ぎ捨てた、シャツとジーンズを下着もつけず手早く穿き、ハインリヒを突き飛ばし扉からでていってしまった。

長い足で、階段をほとんど跳ぶように降りきり、玄関ホールまで一気についた。外はずいぶんな風が吹いているが、雨はまだ小降りだ。ジェットはもうこのままアメリカに自力で帰るつもりだった。こんなに胸がふさがれるような思いはたくさんだった。せっかく、ハインリヒと穏やかで幸せな時間を過ごすために一年一生懸命頑張ってきたこともまったく無駄に思えた。これほどまでに自分が他人の動向をいちいち気にして、感情的に無防備になっていること自体、自分の弱さのようで、許せなかった。そしてそんな自分の精神を理解し、自分を守ることができない、ハインリヒに対しても怒りが・・それはまったく、不当だとジェット自身も思うのだが、どうにも押さえられなくて、それなのに、まだ、こんなにハインリヒが好きな自分がもっと許せなくて、頭にきていた。このまま不法入国で国に帰れば、きっとハインリヒが困るだろうと思うがそんなことは知ったことではない。

少し先の小高い丘にある森までいけば、この天候だ誰にも見咎められることなく空に飛び上がれるだろう。防護服がないのが間抜けだが、アメリカって国は、とくに僕の住んでいるあたりは誰もそんなこと気にしないクレイジーなエリアだ。遠慮なく荒れる風になぶられて慌ててはおったシャツが空気をはらんでたなびく。まだ濡れた髪が、じっとり重く垂れ下がっている。数歩いくと、ハインリヒのアパートの軒先のようなところに見覚えのある女の子がじっとたっていた、手に緑の傘を大事そうに抱えて。

「アルマ?」

女の子が声をかけられてびっくりしてふりかえる。

「誰?」
「さっき、あったろ、ジェットだ、ハインリヒのお友達。」
「あ、髪がおりてて・・・わからなかったわ。」
「何しているの?」
「・・・・別に。」
「ヤツはこないぜ。アイツは冷たい男だよ。人の心なんてわかりゃしない冷血漢だ。やめとけよ。」
「そんなことないわ!あの人は素敵な人よ!あの人の素敵さがわからないなんて、よく友達やってるわね。・・なんであなた、ここにいるのよ。」
「・・・もう帰るところさ。そうだな、僕の変わりに君がいってやるといいのかもしれないな。」

その一言に警戒心をとき、しょんぼり風情だった女の子が俄然明るい表情でジェットに話しかける。

「あの人がそういったの??さっき、いった心に決めた人がいるってやっぱり、私のことだったのよね、私ずっとここで待っていたのよ。あの人照れ屋だから、きっと素直にお部屋に入れてくれるはずないとおもったの。だから、あたしが頑張ってあげるのよ。貴方が邪魔しなかったら、あのままお部屋に招いてくれるつもりだったのに・・・。だから、ここで待っていたらきっと声をかけてくると思ったの。ね、やっぱり、私のことを好きだったでしょう、あなた、さっき私の言ったこと信用してなかったわね。・・・・・・、何故髪が濡れているの?まだそんなに雨はふっていないわ?」

可笑しくなってジェットは笑いながらいった。

「たったいま、アイツと寝て、シャワーをあびたから濡れてるのさ。」
「ウソ。酷いジョークね。笑えないわ。」

勝ち誇った笑顔でせせら笑われてそう言われた。ジェットの心の中でもう止まらない悪意が走り出す。サイボーグにされて、友を、恋人を得て、久しく忘れていたがかつてそれはジェットにの日常にどこにでもあった感覚だった。まっとうな人間としての思いやりとは対極にある感情。目の前の女の子を酷く傷つけてやりたかった。

「ウソじゃない。アイツはね、僕と寝てるんだ。僕に・・いや、僕を抱いてるんだ、だからさ、あんたなんか入る隙間はないんだよ。」

だが、そんな内心の悪意をひとつも表に出すことなく、ジェットは魅力的な笑顔でにこにこアルマに言い放った。さっきまで幸せの絶頂のような顔をしていた気の強い彼女が、もろく傷ついてなきそうにゆがめた顔をみながらジェットはアルマはさっきの自分のようだな、とぼんやり考えた。

「そんなのでたらめよ。」

震える声で否定される。雨が徐々に酷くなってきた。水分を含んだ前髪が重い。足元のぬかるみ以上に地面に吸い込まれるような感覚が足首からふくらはぎへとぞわぞわと這い上がっていくる。冷たい感覚。なにもかも遠くへいってしまう予兆の感覚。

「ああ、なにもかもでたらめだ。そうだよ。」

ジェットは楽しそうに相槌をうった。

「悪いな、お嬢さん。ホントは僕、アンタと楽しもうと思ってきたんだ。あんなヤツより、かわいいから。」
「何・・?どういう意味・・・・?そういえば、あの人がアタシを呼んでいるんじゃないの?いやだわ、早くいってあげなきゃ。」

思いついた希望に顔を輝かし、ジェットの傍をすり抜けようとする。

「あの親切な男はお嬢さん、はやく帰れっていったろ・・・怖い目にあわないように。それを聞かなかったのはあんたのせいだ。」

ジェットが笑顔のまま一歩女の子に近づく。長身の男のその笑顔の奥にあるものに無意識に気がついて怯えて彼女は後ずさる。もちろんジェットだって本気じゃない。ほんのちょっとした腹いせにすぎなかった、だが、普通の人生を歩いている若い女の子にNYのスラム街で生き抜いてきたジェットの存在は十分禍々しい。

「あ・・・。」

気配に怯えてアルマの目が恐怖に見開かれ、唇が震える。逃げ出したいのに、プライドと思い込みがそれを邪魔する。恐怖を認めたくなくて、なのに、恐怖にすくんで飛び出すこともできない、まるで哀れな小動物を追い詰める如く、その昏い喜びを自分が楽しんでいることを十分知りながら、衝動を止める気も起きず、さらにいたぶろうとジェットの手が伸びる。

「よせ。」
「ア・・アルベルト!」

先ほどまでの硬直状態が嘘のようにすばやくアルマはジェットの傍をすりぬけ、その後ろのハインリヒにしがみつく。

「助けて!あの人が友達なんて、嘘よ、騙されてるのよ、あの人、あなたを侮辱したのよ。もちろんアタシには嘘だってわかってた・。・!待っていたわ、アルベルト!きっと来てくれると・・・。」
「聞いてた。アルマ。」

安堵をにじませ、勝利の優越を忍ばせた訴える女の声に何時もと変わらぬハインリヒの声が被さる。ジェットは二人に背をむけたまま待っていた。はやくハインリヒが自分に愛想をつかして、濡れて怯えた女の子の相手をするために、ここを立ち去る瞬間を。そしてそれは永久にハインリヒの前から自分がいなくなるその瞬間だった。目は呆然と雨にけぶるドイツの町並みを眺めていたが、全神経を集中して、背後の、ハインリヒの感覚を捕らえようとしていた。こんなに自分は捕われているのに!こんなに求めているのに!あと少しでそれをすべてあきらめる瞬間がくるのだ。最後のコンマゼロまで、その瞬間まで許されたハインリヒの痕跡のひとかけらさえ失いたくなくて、このまま塩の柱になってしまうほどの時間感覚の失調に襲われながらその瞬間をまった。

最後の一言はなんだろう、それともそれもないのかな。そんなの望むことも僕にはすぎた幸せかな。

激しさを増す雨音と、落雷、ヒステッリクに響く、ハインリヒに訴える堰をきったような女の声。そんななかで彼の一言だけを漏らすまいと尖らす聴覚。ますます、激しく訴えかける女性を落ち着かすために優しくうつ低めの相槌の気配。大好きだったよ、優しい君。その優しさにふさわしいのは僕じゃないんだ。

「つれて帰って!」

女の声が胸に刺さる。このままいつまでもここに立っているマヌケさに今さら気がつき、ずぶ濡れのスニーカーをぎこちなく持ち上げる。ここから一歩、ハインリヒから離れる為に。

「できない。君は君の家に帰りなさい。」

やっぱり最後の一言を聞くことができなかったな。それとも、そんなもの、ない、のがふさわしい。言葉をもらえるほどの僕じゃない。このまま駆け出して、人目がないのを幸いとジェットを点火してしまえば全ては彼方に遠のく。いつの日かまた、召集がかかるその日まで。

そうしようとしたその瞬間。

「ジェット!帰るぞ!」

憤然と怒鳴る声が胸に突き刺さった。

「ど、どうして?あたしは?あの人、ヘンよ?危ないわ!」

ハインリヒを見上げて女の子が今度こそわからないとハインリヒの腕にしがみつく。ハインリヒがその手をゆっくりと毅然と引きはがすのを振り返った僕は見た。離すまいと無意識にのばしてくる女の子の手をまた、失礼のない程度に振り払って、

「嘘じゃない。」
「え・・?」
「アイツのいったことは嘘じゃないんだ。だから連れて帰るんだ。」
「嘘・・!どうして、そんな嘘ばっかりつくの!アタシは、アタシを・・!」
「・・アルマ、あんたにアイツがしたことは謝る。多分俺が悪いんだ。許してやってくれ。」

そういうとハインリヒは女の子の傍からジェットのほうへ歩き出した。ジェットの長い前髪が完全に雨に負けて半分を隠している。それがべそをかいている情けなさも隠してくれていた。そのべったり張り付いた髪をかきあげて、ジェットより少し背の低いハインリヒがさらに下から覗き込むようにして、ジェットを確かめる。

「俺のところに帰るな?」

言葉は喉に絡んだままでてこない。わずかに頷いたのを確認してハインリヒは腕をぬれねずみのジェットの背をまわして、反対側の肩をつかんで引く。やや抵抗があったが、そんなことに怯むハインリヒではない、強引に力にまかせてジェットに重い一歩を踏みださせる。もう女の子に注意を払わずハインリヒはジェットを引きずるようにアパートを目指す。

「アルベルト!あんたなんて・・・○××○野郎!」
「傘は返しにこなくていい。」

女の子が涙と雨で顔をぐしゃぐしゃにして汚い言葉で罵った。振り返りもせずにハインリヒはそう返した。





「自分で階段は上がれよ。」

ずぶ濡れの額から前髪をかきあげてハインリヒが告げる。その目を見れなくて目をつぶったままジェットが答える。

「やっぱり帰る。」
「はやく階段をあがれといってるだろう、着替えたいんだ。」
「僕は着替えたくない。濡れていたいんだ。もっと頭を冷やしたい。」
「ああ・・・らしくないことをしたからか・・・・・・。」
「らしくない?らしくないことない、あれが僕だ。掃き溜めでずっと歩いてきた僕だ。まともな生まれじゃない僕だ!」

ハインリヒは深くため息をついた。

「じゃあ、俺がらしくないことをした。彼女、明日にでも俺の職場に投書しそうだな。スキャンダルだ。」

そこで初めてジェットは目を見張った。さっきハインリヒはあの子になんて言っていた?すっかり自分の気持ちに沈みきっていてそんなことさえ、気が付きもしなかった。無言でみつめるジェットにハインリヒは無表情のまま、階段をあがるように背を押す。ジェットはハインリヒに何か言いたくて、だけどどういっていいか気持ちがこんがらがって言葉がみつからず、ぐいぐい押されるまま階段をあがるハメになった。

「おまえはそこでまってろ。」

無用心に鍵の掛け忘れられた扉を開いて、上がり口でジェットを待たせ、バスルームへタオルを取りに走る。すっかり水分を含んでべったり顔中にへばりついた髪が冷たくて気持ち悪く、ジェットも自分で髪を後ろに持ち上げた。気分は十重二十重に落ち込んでおり、もはや胃弱などという状態からほど遠いシステムと置き換えられた人工臓器の胃の腑がそれでも鉛をのんだように重く冷たい。

ハインリヒがタオルをもって戻ってくるのをみて、今、どうして扉を開けて出て行かなかったのか、己の愚かさを悔やんだ。ハインリヒのように白いバスタオルを頭の上にかぶせられがしがしと髪を拭かれる。

「服も脱げ。風邪をひく。」
「風邪なんかひくもんか。」

ハインリヒの髪を拭く手の動きが一瞬とまったが、次の瞬間、さらに力をこめてがしがしと拭かれた。そうして、頭をバスタオルで包んだまま、ジェットが顔を覗かすと真近にハインリヒの怒った顔があった。

やっぱり怒ってる。そうジェットが怯んだ時そのハインリヒの顔がぼやけた。ハインリヒがジェットにさらに顔を寄せてキスをしたからだった。逃げようにも頭を包んだバスタオルでがっちり拘束されさらに引き寄せられて舌まで侵入してくる。ジェットはこの行為の意味がさっぱりわからなくて棒のように硬直していた。

そんなジェットの唇を軽く咬み、唇のラインをたどり、さらに反応の薄いジェットの舌を誘うように絡めとるハインリヒの器用な舌と唇。さらに大きく口を合わせられて、首の角度を変えて口付けは続く。すっかり熱がこもりはじめるほどの長い時間ハインリヒからのキスが続いた。

ようやく、一息ついたのかハインリヒが眦のあたりを薄紅く染めて、半開きの艶めいた唇をはなす。そしてその唇をくっと引き締めるとジェットの後ろに手を伸ばし、忘れられてた扉の鍵をガチンとかけた。

服を引き剥がす勢いで脱がされ、そうしながら全身をタオルでさらに拭かれ、彼の早業におどろいている間にジェットはボトムも靴も脱がされた。玄関口ですっかり裸にされて、まだ滴った雨水の水滴のなごりを拭かれ、手を引かれた。強引なハインリヒの行き先はベッドルーム。

「え、ハインリヒ?」

ジェットをベッドに突き飛ばすとハインリヒもさっさと服を脱ぎ始める。

「ホントはメシのあとご馳走になろうと思っていたんだが、どっちが先でもいいよな。」

ベッドに片膝をかけてやはり仏頂面のままハインリヒがジェットの上に乗りあがる。

「メシは後でゆっくり食べよう。酒も。俺達に今必要なのは栄養じゃない。」
「・・・何が必要、なんだ?セックスか、快楽か?!」

自分が相手にされていないという気分になったジェットが挑戦的に噛み付く。

「違うよ、ジェット。」

ハインリヒが優しく目を細め密やかに囁いた、秘密を打ち明けるかのように。

「俺達に必要なのはお互いだ。お前が欲しいのは俺だろう?俺が欲しいのはお前だ。」

ジェットの心で何か暗いものが弾けて、反作用とでもいうべく、恍惚の無数のシャボン玉が湧き上がり、体中を駆け巡り、ジェットという枠にぶつかり、はぜて、関節の隙間さえ何か甘いものが広がって埋めた。ジェットはハインリヒの肩に腕をまわし必死で抱きついた。体のそこかしこから湧き上がるこの感情、この熱、これはハインリヒへの大好きだという気持ち。雨で濡れて冷えた身体が一瞬で暖まり、その情熱は激しすぎて涙まで吹き上げてしまいそうだ。唇が湧きあがるもので閉じていられない。

「ハ、ハインリヒ!ふぅ・・・。」

ジェットはハインリヒの首っ玉にしがみついたまま嗚咽を始めた。二人をさまたげるものはなにもなく、体温だけを分け合いハインリヒは優しく泣き出したこの青年の頭を撫でた。

「ジェット、泣くなよ・・・。ジェット。」
「ひ、止まらない、涙、止まらないんだ・・・。」
「仕方ないな、泣かなくてもいいのに・・・。ジェット。」
「ごめん、ごめん、ハインリヒ、僕が、僕・・・。」
「様子がおかしかった、それに気がつかなくって悪かった。」
「君は、悪くない、僕が・・・一人・・・。」
「ジェット。愛してるよ。信じてくれよ。」
「ごめ・・・・。嬉しすぎて、信じられない・・、ごめん・・。」

ようやくジェットがしゃくりあげなくなって、涙で汚れた目を両手で擦り、ハインリヒを見て笑った。ドイツにジェットが来て初めてハインリヒに見せた、ハインリヒが好きなジェットの笑顔だった。

ハインリヒもようやくほっと安心した。自分がジェットへのもてなしで心が一杯になって浮かれていていて、ジェットの様子がおかしいのにちっとも注意を払わなかった。アクシデントとはいえ、女の子と親しそうにしている俺の姿がまだ幼いジェットのこころに棘をさしてしまったに違いない。気安さと面倒だとちゃんと説明しなかった俺の迂闊さは、結局ジェットの心を追い詰めてしまったらしい。やきもちをやかれるのは悪い気分ではない。ただ、怖い思いをさせただろうアルマにはほんのすこし罪悪感があるが、まあ、これで俺にまとわりつくのがやんでくれれば結果オーライというものだろう。

「ふふふ、ジェットに焼かれるなんてな。」
「なにも焼いてないぞ。」

素で返すジェットにまた可笑しさと愛しさが募る。ジェットの胸を人差し指でとんとつつき、

「やきもちだろ、ジェット。俺があの子と親しくしてるって誤解したんだろ。」
「・・・・・やきもち?ジェラシー??」
「そうだ・・・・結構お前、独占欲強いよな。ときどき、俺のほうすごい目でみてるときあるけど・・・自覚ないだろ。」
「苦しいから・・・こんな気持ち嫌だな。そんなの知らないほうがいい・・。」
「・・・・・・それも人間さ。それに。」

ハインリヒが身をおこそうとするが、ジェットががっちり首に回した腕をひきよせるのでそれが出来ない。

「オイ・・・・。」

ジェットが遠慮なく下肢を擦り寄せる。ソコはすっかり熱く滾って勃ちきっていた。

「熱い・・・ハインリヒ、すごく。」
「ジェット・・・。」
「最初、部屋に入ったときからずっとこんなで、水でシャワー浴びたけど、おさまらない。君に嫌われると思ってもちっともおさまらないんだ。あの子に・・・いじわるしてる時も、ずっとココが疼いてた。そんな状況じゃないのに、君きっとそんな僕を軽蔑すると解っているのに、我慢しようと思ったのに・・・。そんなに優しく僕にしないで。止められない、怖いよ。君をどれだけ欲しがるか、自分でもわからない。止められなくなる。・・・・・・さっきまでなら、きっとなんとか自分を止められた。君をあきらめることができた。それで仲間に戻ることができたと思う・・・。こんな気持ち知らない。こんな気持ち、君が僕を許したらもう君を離せない。ハインリヒ。」
「弱気だな、ジェット。俺は荷が重いか。」
「違う・・・違うんだ、ハインリヒ、僕はこんなに人を好きになったことはない。自分を見失う・・・君を壊すかもしれない・・・。」
「馬鹿だな、俺が壊れるとおもうか?大丈夫さ。」
「君に頼ってしまう・・・いないと僕がダメになる・・・。そんなの情けない・・・。」
「可愛いことをいうなよ。」

ハインリヒがなんとか抱きしめられている腕のなかから首を起こしてジェットのとがった顎あたりにバードキスを降らせる。軽く歯をたてて頤を甘噛みする。すこし緩んだ腕にまた力がこもり、そしていきなりの勢いでハインリヒの唇がふさがれた。強引に捩じられて引き寄せられた少々負荷の大きい首の角度に苦笑しつつ、そのジェットからの今日始めてのキスの甘さを分け合う。ようやくジェットが自分の傍に戻ってきてくれた気がした。

まだ湿っけて柔らかさの残る紅い髪に指に絡ませてジェットのキスを堪能する。人工の唾液、成分的には自らのものと大差ないはずのその体液が甘く感じられるのはどうしてだろう。先ほどとかわって、責めてくるジェットの舌の動きをなめらかに甘受しながら首の角度を二度三度と入れ替え、より深く、相手の心を開かせようと、時にジェットの舌を強く吸い上げ、咬む。

首を固めていたジェットの片手がそろそろと背筋を滑り落ちてハインリヒの尻を一撫でし、ぐっと掴みあげた。瞼を下ろしてキスの感覚を追っていたハインリヒはうっすらとその銀の睫毛をあげてジェットに熱っぽいぼんやりとした視線を投げる。

「どっちだ・・・?」

開いたジェットの内腿をそっと撫でてハインリヒが囁いた。そのまま指をさらに奥にのばし、柔らかな双球を包むふっくらとした薄い皮膚くすぐり、髪と同様の下生えの真っ直ぐな手触りをしゃりしゃりと楽しむ。

「僕・・・!」

ジェットが煽られてたまらないともう片手もハインリヒの白い尻を掴む。ハインリヒが無意識だろう、愛しくてたまらないという笑顔をその顔に刷いた。ハインリヒがジェットの張り詰めたものをしっかり掴んだ。そうして身体を下方に移動して、その泣いて濡れている愛しいものの側面にキスを降らせ、名残の熱さで根元に吸い付いた。ジェットの手がハインリヒの銀の髪に差し込まれ、より感じようと足を大きく開く。ハインリヒは肝心なところを愛撫せず、臍のあたりから、下腹部の筋肉の曲線、紅い体毛の肌触りを楽しんでその大きめな二つのひんやりした部分にたわむれの口戯を施す。焦らされてジェットがたまらずハインリヒの頭をかき乱し、大きくなった自分のものを咥えてくれと片手で自分のものを握り締め、ハインリヒの口に向けた。

ジェットの意向に逆らわずハインリヒは素直に差し出されたものを大きく口を開けて奥まで飲み込んだ。ジェットの喘ぎ声が聞こえる。構わず上下に頭をふって吸い上げ、感じるところを刺激してやると、それがどくんと大きく震えてまた口の中で径を太くした。大きくしやがって、そう満足をおぼえて一瞬油断した。ジェットが髪に差し込んでいた両手で股間に顔を埋めるハインリヒの首を持ち上げたのだ。せっかく咥えていたそれが音をたてて外れた。あっと思ったのも束の間、今度は興奮しきったジェットに逆に身体を起こされて仰向けにひっくり返された。性急に太ももを持ち上げられて、受け入れるところまですべて大きく晒された。ハインリヒのものは先ほどからすっかり興奮して勃ちあがり、ジェットが感じていると思うだけで、ぽたりと先走りの一雫をながしていた。

その様子をまじまじと見つめて、ジェットは少しホッとしたような表情をつくる。そのジェットの顔をみてハインリヒが恥ずかしさに紅くなる。一言言ってやろうと口を開けたが、ジェットが身を大きくかがめて先端をちゅっと吸ったので憎まれ口は叩けなかった。

細めた舌で穴の中をこじ開けるようにジェットが弄う。そのまま裏の敏感なところを舌でちろちろと行ったりきたり。

「ジェット、そのまま・・するつもりなら、ちょっとまてココに・・。」

ジェットに弄られて目が霞むほどの熱が立ち上ってくるのを堪えてハインリヒがベッドの横にあるサイドテーブルの上の引き出しに手を伸ばす。身を捩ってなんとかそこまで手をのばして開けた引き出しから潤滑剤のチューブを取り出した。

「あるほうが、楽だろう・・・?」

まだ封をきってないそれをなんとも嬉しそうな眼差しでみたジェットはハインリヒがどんな顔でコレを買ったのかとか、多分僕に使う気だったんじゃないのかなとか、いろいろ想像して、それがみんなジェットへの気持ちからでたことだということを理解していっそうハインリヒを好きになった。

「うん・・・。でも・・・。」

ジェットはそこを指で軽く撫でた。今は熱で湿りはじめた、久しぶりのそこの感触にくらくらする。すべらかな、そこの皮膚をハインリヒ自身の先走りのぬめりを掬った指先でくるくると撫で回す。つぷりと指の先を沈めてみる。ハインリヒは格別潤滑剤に未練はなかったようで、すぐそれを横にほうりだし、ジェットの愛撫を堪える。力を抜いてジェットのリズムに自分を合わせようと、息を整える。ジェットが自分の指を唇に含み唾液をたっぷりまぶして引き抜く。一本、また一本増やされる指と圧迫感。擦られる粘膜が熱を伝えてくる。

つっとジェットの指が慣らすだけではない動きをした。とたんにきゅうと締め付けられる。それが始まれば、もう潤滑剤なんて必要ない。サイボーグのそこは戦場でも使えるようなっているというわけだ。

はしたない身体の秘密が露呈するこの瞬間がハインリヒには恥ずかしかった。だから、潤滑剤も普通の人間のように用意してみたのだが・・・・。抜き差しするジェットの指がスムーズになって、粘性の高い水音をたてる。すっかりやわらかく蕩けてしまった下半身の中でジェットの長い指が複雑なビートを奏でている。徐々に高められるかとおもうと、いきなり泣き所を強く刺激されて声が殺せない。NY出身のジェットだからか、そのビートは激しく強くロックであるかとおもえば、ファンキーで時に驚くほど切なくジャジーになり、翻弄され、酔わされる。快感に朦朧となりながらついついリズムを数えて、身をゆだねてしまう癖は生身のときに身についたものだ。心地よいリズムをかく乱させられてさらに高い快感に追い上げられそうになる。自分の身体もジェットのビートに沿うように、或いは反抗するように締め付けては切なく身悶える。

ジェットの指が前触れなく引き抜かれ、すぐに変わりの肉の棒がそこにのめりこみ始めた。指とは違う固さと弾力を持ったそれが粘膜を引き込みながら開かれた身体を埋めた。その肉の棒を、ハインリヒの身体は思いっきり抱きしめる。抱きしめて自分も心地よさで手放しそうになる。

「っつ・・あ、ハインリヒ!ふぁ、・・そんなにしたら!」
「ん!あ、お前が、さんざん、焦らすからだろうが・・!」

重なりあった皮膚からさざなみのような快感の波紋が身体中にひろがる。一突きした状態のまま、快感の只中を漂う。上になったジェットのほうが先に自分を自制するのに成功したようだ。気を取り直し、そのまま深く激しい抽送をはじめた。身体を、何もかもをハインリヒにぶつけるようなそんな動きだった。だってそうしていいとハインリヒが許してくれているから。喜びや楽しみだけでなく、苦しい思いも、醜い思いも、全部ハインリヒは受け入れてくれる、そういうことをジェットは理解したから。

ハインリヒのほうはといえば、激しい挿入に堪えかねて無意識に逃げようと腰が浮いて捩られる、それを逃すまいと捉えるジェットにしがみつくしか堪える術がない。がむしゃらな行為に快感自体は遠のいていたが、そんなジェットの熱をハインリヒは大事に抱きかかえた。強い刺激に無意識に逃げをうつ反らせたハインリヒの肩にジェットは噛みついて逃すまいとする。突然おそわれた痛みに痛いだけでなく、あきらかに快感を覚えてハインリヒの喉から短く、高い悲鳴があがる。

ジェットが身を起こしてハインリヒの体勢を変えようとする。ハインリヒはジェットの激しさを受け止めるには確かに先ほどの体位では負担が多すぎると思っていたので、素直に白い背中をジェットに向けた。体位を換えるために一旦抜いたそこはまだ痺れて熱めいて、ジェットのものを咥えているかのようだ。

尻をジェットに向けるとすぐさま、ジェットが両手をハインリヒの腰骨に手をかけ、ぐっと引き寄せた。開いたままのソコが当然の帰結とジェットの猛ったものをずくずくと飲み込む。飲み込ませている最中に、ジェットはもう知っているハインリヒの泣き所を大きく抉った。ハインリヒの背中がのけぞる。上体を支えている腕がシーツを掴み、枕が悲鳴を吸い取った。大きく引き抜いて、また同じところを擦りあげるようにして楔を飲み込ませる。何度も何度もそれを繰り返し、そのたびハインリヒは悲鳴を堪えるために枕に顔を押し付けた。

技巧の何もない、単純な、まっすぐなジェットそのものの抽送が続けられた。単純で美しい律動、もちろんそれが甘美でないはずなく。

「ハインリヒ、出る・・・・・。」
「ジェット・・・あ、ジェット!」

先に階段を上りきったジェットがあふれ出る熱い体液でハインリヒをみるみる満たし、さらに数回その上をかき回していく。最大になった凶器で奥の奥を突かれ、堪えていたハインリヒも同時に手放した。吸い込まれるように、ジェットは虚脱してハインリヒの背中に覆いかぶさる。ハインリヒもすっかりジェットの情熱にかき回され続けて意識がブっ飛んでいた。ただ、そばのジェットの身体の重みと温かさだけが全てだった。

やがてジェットがハインリヒを抱きしめる。

「君が好き。大好き。死にそうなほど好き。誰にも渡したくないほど好き。君が生まれた今日この日に神に感謝をささげます。きみが生まれた今日、神に感謝します。ハッピーバースディ、DEAR アルベルト・ハインリヒ。MY LOVE.。MY SWEETHEART。」

まじめに囁かれて赤面するハインリヒ。照れくさいのか、正気にもどり、ごそごそと身を起こそうとするのをジェットが妨害する。

「おい・・・。」
「駄目・・・逃げないで。」
「だってメシ・・・・。せっかく、用意したんだ・・・、お前の為に、結構値が張ってるんだぜ。」
「・・・祝われるほうがご馳走するなんて・・・ドイツ人のかんがえることはわからないや。でも大好きドイツ人。ご馳走様でした。」
「? まだ、食べてないぞ。」
「・・・・・今ハインリヒ、君をいただきました。ご馳走様。」

そういってハインリヒの傍の枕に頭をうずめ、柔らかく、悪戯な瞳で微笑んでジェットは見返した。

「なるほど・・・・。もてなせたか・・・。」

ハインリヒが今はじめて気がついたと、ジェットの唇を指でなぞる。

「なら、このまま眠っていいか・・・。」

そのまま瞼が静かに伏せられた。まもなく規則正しい寝息が聞こえてくる。外はまだ雨、雨の音とハインリヒの寝息を子守唄がわりにして、ジェットもやがて安らかな眠りに引き込まれていった。テーブルに盛られたご馳走は次の日の朝ご飯にゆっくり食べることにしよう。



Happy Birthday ,dear Heinrich!! My love!!




<おしまい>






◆コメント◆

誕生日おめでとうございます!
また今年のこの日を無事祝うことが出来て嬉しいです。
9月はハインリヒLOVE魂全開で!
ジェットからも、皆からも愛されてハインリヒハピバ!

拙い駄長文を読んでいただいてありがとうございました。




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