1 誰かが必要としているから
(1+4)




 最近、何だか周りの面々がソワソワして落ち着かない。
 何かイベントごとでもあったろうかとカレンダーに目をやった。
 暦は9月。
 19日の日付の下に、小さなピンクのハートマーク。
 恐らく、フランソワーズの手によるものだろう。
 それを見て、得心する。
 この日は・・・ハインリヒの誕生日だ。
 気を遣って貰う必要は無いと、いつも言っているというのに。
 毎年しっかりと、心を尽くして祝ってくれる。
 気持ちはありがたいのだが・・・。
 勿体無いと思う気持ちの方が、上回ってしまったりもする。
 自分のために、わざわざそこまでして祝ってくれなくても、と・・・。

 カレンダーから目を離し、フウ、と小さくため息。

『はいんりひ?』
 突然、頭の中に声が響いて、ハインリヒは軽く肩を跳ね上げた。
「い、イワン・・・??」
 ふよふよふよ〜、と、宙に浮いた小さな身体が近づいてくる。
『何ヲ考エテイルノカナ〜?』
 ハインリヒの目の前でピタリと動きを止めて。
 そのまま落下してくるのを、ハインリヒは慌てて受け止めた。
 ポスンと、小さな身体がハインリヒの腕の中に収まる。
 赤ん坊の温かな体温に、どこかホッとした。
『はいんりひ』
 咎めるような声。
「な、何だ・・・?」
『きみ、モシカシテ、ぼく達ガきみヲ祝イタイッテイウ気持チを迷惑ダトカ思ッテイナイダロウネ?』
 砂色の長い前髪に隠れた瞳が、ギラリと光る。
「お、思ってない、思ってないっ!!」
『ほんとニ?』
「ああ、本当だ」
 迷惑だとは思っていない。本当だ。
 コクコクと頷きながら答えると、小さな手の平がぺちぺちとハインリヒの頬を叩いた。
 柔らかな手の平の感触。
 ・・・癒される・・・。
『アノネェ、はいんりひ。ぼく達、モウ家族ナンダヨ?』
「は?」
 思わず問い返すと、ムギュウと頬を抓まれた。
『違ウナンテ言ッタラ・・・殺ルヨ??』
 思わずギョッとしたような顔をしてしまうと。
『ミンナ、ミンナ。きみガ大好キナンダヨ・・・。ネ、はいんりひ』
 クスリと小さく笑いを洩らして、イワンは続けた。
『ダカラ、ネ?モット、自分ノコトヲ愛シテ欲ホシイナ』
 チュ、と、柔らかな口唇が頬に触れる。
『少ナクトモぼくニハ、きみガイナイ世界ナンテ、考エラレナインダカラ。キット、ミンナモ同ジダヨ』
 数々の苦難を、共に越えてきた仲間達。
「オレも・・・みんなを、家族のように思っているよ・・・」
 答えると、
『うん・・・!』
 イワンの声が弾んだ。
『ダカラ今年モ、イッパイイッパイ、きみノ誕生日ヲ祝ワセテネ。約束ダヨ!!』
「ああ、楽しみにしているよ・・・」

 本当に、勿体無いぐらいに愛されている。
 グダグダ考えるのはやめて、素直に、嬉しいと思おう。

「ありがとうな、イワン」
 ボソリと呟くと、こまっちゃくれた返事が戻ってきた。
『イエイエ、ドウイタシマシテ』
 二人顔を見合わせて、クスクスと笑った後、ハインリヒはもう一度、カレンダーに視線を当て。
 穏やかな瞳で、19日に付されたハートマークを眺めた。


  〜 END 〜




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9月になりました!!
ハインさんのお誕生月だ、わー!!
ネタがないんで、今年はお誕生日お題に挑戦。
まずは、イワソと一緒vvv
お題は一話読みきりになる予定です〜。







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