3 ケーキを囲んでカウントダウン
(14+24)




 タンタンタン、と、軽やかな足取りで、ジェットはアパートの階段を上っていた。
 その手にぶら下がっている四角い箱には、真っ赤なリボンが結んであった。
 とある部屋の前、立ち止まって、ベルを押す。
 一回、二回。
 しばらく待っていると、ガチャリとドアが開いて。
 サラリと美しい銀髪が、扉の影から覗いた。
「ん?ジェットじゃないか。どうした、こんな時間にこんなところまで」
 瞳を丸くして、ハインリヒが問う。
 自分は、アメリカにいるはずなのだから、ハインリヒが驚くのも無理はなかった。
「キミに、会いに来たんだ」
 簡潔にそう告げると、はにかんだように笑んだ。
「そうか・・・。疲れたろう、とにかく上がれ」
 言葉に甘えて、遠慮なく家に入らせてもらった。
 ハインリヒ宅のリビングに向かうジェット。
 明るいリビングから、声が聞こえてきて、驚く。
「ハインリヒ〜。こんな時間に、誰?お客さん??」
 誰?とはジェットの台詞である。
 ハインリヒのバースデーイブに、どこのどいつが押しかけて来ているのだ?
 そんな事を考えるジェットの目に飛び込んできたのは、優しい砂色。
 砂色・・・砂色・・・。
「あれえ?ジェットじゃないか。何?邪魔しに来たワケ?」
 砂色の人物は、少年だ。
 少年だが、どこか大人びた表情をしている。
 その表情を、ジェットは知っている・・・ような気がした。
「もしかして・・・イワンか・・・??」
「もしかしなくても、イワンです」
 ツンとジェットから顔を背けながら、それでも返事が戻ってきた。
 テーブルの上には、白いケーキが乗っている。
 ジェットが手に持っている箱の中身も、ケーキだった。
「おい、ジェット。手に持っている箱は何だ?」
「えーと・・・。ケーキ・・・だったりするんだけど・・・」
「えええ!?被ってるよ、ジェット!ケーキはボクが準備したのに!しかも、ハインリヒの好きなレアチーズケーキだよvvv」
 ジェットが持って来たケーキは・・・チョコクリームだった。
「まあまあ、イワン。せっかくジェットが持って来てくれたんだ。ありがたくいただこうじゃないか」
 バチバチと睨み合う二人を、ハインリヒが宥めた。
「二人共、わざわざオレに会いに来てくれて、嬉しいぞ。ケーキがあるんだから、茶を淹れないとな」
 ほっこりとした表情で笑って、ハインリヒが白いティーポットを手に取った。
「あ、手伝うよ〜!」
 イワンがトテトテとハインリヒの後に続いて、キッチンへと向かう。
 一応、ジェットも自分が持って来たケーキを皿に乗せたりぐらいはしてみた。

 そんなこんなで、テーブルの上にはホールケーキが2個、置かれている。
 チラチラ、チラチラと、ジェットは壁に掛けられている時計に視線を走らせた。
 向かいの席で、イワンも時間を気にしているようだ。
 時計の針が0時を指したら。
 ・・・ハインリヒの誕生日だ。
 のんびりと、ハインリヒがティーポットを手にしている。
 白いカップに、コポコポと音を立てながら、お茶が注がれて。
 ふんわりと立ち上る紅茶の香りが、ジェットの鼻先をくすぐった。
 ジェットとイワンの間の席に、ハインリヒが腰掛ける。

 時計の針がチクタクと動いて・・・。
 5・4・3・2・1・・・。

「ハインリヒ、誕生日おめでとう!」

 紅茶のカップに手を伸ばしているハインリヒに、まるで二人で示し合わせたかのように、両脇からチュウv
 チュッv
 ハインリヒの左右の頬から、可愛らしい音がした。

 カップに手を伸ばした格好のまま、ハインリヒは固まっている。
「おめでとう」
「おめでと〜うvvv」
 ジェットとイワンが改めてそう言うと、やっとハインリヒが甦った。
 微かに上気した頬を緩めて。
 優しく、瞳を細めながら笑う。
「ああ・・・ありがとう」
 誕生日の夜はあわよくば二人きりで、なんて思っていて。
 イワンが邪魔だ、などと思ったりしたけれども。

 柔らかで暖かい、その笑顔が見られたから・・・。
 まあ、色々と不満はあるが、今日はコレで良しとしよう。

 そう思いながら、ジェットが笑うと。
 同じように嬉しそうに笑っているイワンと目が合って。
 ハインリヒを囲んで、二人で声を立てて笑った。



  〜 END 〜




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イワンとジェットからはケーキとキッスのお祝いです(笑)。
ダラダラとお題を続けてしまい、申し訳ありませんでした。
これで、今年のハインさんのお誕生日をようやく祝い終えた気分。
ハインさん、おめでとうございました〜!!!







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