4 愛情の贈り物
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*黒4も4もかなりおバカさんになってますので、ご注意*
「アルベルト」 涼しげな声で、名前を呼ばれる。 「・・・なんだ?」 答えると、頬を緩めながら、尋ねてきた。 「もうすぐ、お前の誕生日だな。可愛いお前を心から祝ってやるぞ。何か欲しいものはないか?」 コイツはまた、馬鹿なコトを言い出して・・・。 そんな事を思い、ハインリヒは、はあ、とため息をついた。 シュヴァルツと共に居住しているこの部屋には、モノが満ち溢れている。 それこそ、ハインリヒが欲しいと思うようなものは全て。 「何も要らない」 どうせ、要らないと言っても、鼻先で笑いながら勝手に用意するに違いない。 思いながら言い放つと。 「そうか・・・」 ハインリヒが思っても見なかった反応を返された。 「・・・え・・・?」 「お前は、私からの贈り物など要らん、と、そう言うのだな。分かった」 鼻先で笑うなど、とんでもなく。 どこか気落ちしたような仕草を見せながら、シュヴァルツはハインリヒの前から姿を消してしまった。 「何なんだ、一体・・・?」 肩透かしを食らったような気持ちで。 ハインリヒはシュヴァルツの背中を半ば呆然と見送った。 それからというもの、シュヴァルツの態度がおかしすぎる。 ということを、ハインリヒはいやがうえにも感じずにはいられなかった。 口数が、極端に減った。 いつもは饒舌すぎるほど饒舌で、要らぬ薀蓄を長々と語りだし、少々鬱陶しいぐらいなのに。 必要最低限の会話は交わすが、それだけだ。 何でだ・・・?? 考えた。 どう遡っても、アレだ。アレしかない。 『何か欲しいものがないか?』 尋ねられて。 『何も要らない』 と言い放った事しか思い浮かばない。 もしや、ヤツは拗ねているのか・・・? 有り得ない結論に到達し、ハインリヒはブルブルと首を振った。 いつも余裕の態度。ハインリヒが一人でワタワタしているのを見て、鼻先でフフンと笑うあの男が・・・! チラリとシュヴァルツに視線を走らせると。 ハインリヒの事など気にしてません!といった体で、ゆったりとソファに凭れながら本を読んでいる姿が目に入った。 しかし。 よくよく観察してみると、いつもと、オーラが違う。 迷惑など顧みずに向けられてくる、鬱陶しいまでのオーラが感じられずに。 そこはかとなく、不機嫌というか、怒っているというか・・・。 そんな空気を身に纏っていた。 「おい、シュヴァルツ」 「・・・・・・・・・・・・」 「おい」 「・・・何だ?」 ようやく、返事をした。 「お前、何を怒ってるんだ?」 「・・・・・・・・・・・・別に」 別にという態度でないから、聞いてやっているのではないか・・・!! 取り付く島もないシュヴァルツの様子に。 どうしていいか分からず、ハインリヒは一人、途方に暮れた。 そして、ハインリヒを更に途方に暮れさせる出来事が起こった。 一人優雅に紅茶を楽しむシュヴァルツの姿。 通常ならば、カップはもう一客準備されていて。 ハインリヒに笑いかけながら、シュヴァルツは言うはずなのだ。 『アルベルト、お前もこちらで茶を楽しむがいい』 ハインリヒが茶の感想を述べると、実に誇らしげに笑いながら蘊蓄を垂れる。 しかし・・・。 今、ハインリヒのカップはテーブルの上に準備されてはいなかった。 ブチリ。 ハインリヒの中で、何かがブチ切れた。 「シュヴァルツ!!」 優美さに欠けるとシュヴァルツが眉根を顰めそうな、そんな足取りで。 ズカズカと歩み寄った。 「おれに何か文句があるのなら、言えばいいだろうが!!」 「・・・私はお前の希望通りにしてやっているだけではないか。私からは、何も必要ないのだろう?」 何を屁理屈を・・・! と思い、ハインリヒはギロリとシュヴァルツを睨んだが。 紅い瞳がどことなく気弱な色を湛えている様をみて、ウッと言葉を飲み込んだ。 そして、おもむろに口を開いた。 「シュヴァルツ」 「・・・・・・・・・」 そんな子供みたいに拗ねて・・・一体、オレにどうしろというんだ・・・。 ため息を一つ吐いた後、 「オレはな、モノは必要ないと言ったんだ、モノは。周りを見てみろ。必要なものは全て揃っているだろう?お前が揃えてくれたものだ。これ以上、オレに何を欲しがれというんだ、お前は?」 チラリと、シュヴァルツの視線がハインリヒに走る。 畳み込むようにして、ハインリヒは宣言した。 「だから、誕生日に特別なプレゼントなんて必要ない。お前は、いつもどおり・・・オレに紅茶を飲ませろ!」 チェアに腰掛けたまま、ハインリヒを見上げるシュヴァルツ。 ・・・流石に、その上目遣いは不気味だ・・・。 徐々に。 じわじわと、シュヴァルツの瞳に頬に、いつもと同じ、不遜な光りやらニヤリ笑みやらが戻ってくる。 ハインリヒは、心の底からホッとした。 良くやった、オレ・・・! と、自分を讃えたい気分だった。 優美な手付きで、シュヴァルツはティーポットを手に取り、ご機嫌に笑った。 「お前がそこまで言うのなら、極上の茶を淹れてやろう。茶葉の希望は?」 「ハティアリのクオリティー」 「承知した」 フンフンと鼻歌を歌わんばかりの勢いで、シュヴァルツは部屋を出て行く。 その後姿を見送って、ハインリヒはヨロヨロとその場に座り込んだ。 「良かった・・・。アイツの機嫌を損ねたままだと、とんでもないぞ・・・胆に銘じておこう」 誕生日の日に、贈り物の箱がハインリヒの前に現れることはなく。 けれども・・・。 「どうだ、アルベルト?」 「・・・すごい・・・!!」 洋菓子店の一流コックも顔負け、な佇まいのバースデーケーキ。 「モノは要らんとお前が言うのでな。私が自ら作ってやったぞ。愛がたっぷりこもっているからな、心して食すがいい」 「食べる、食べる!!」 ふわふわスポンジ、真っ白で口の中で美味しく蕩ける生クリーム。 真っ赤なイチゴは幸せの甘さだ。 「紅茶はオランガジュリだ。偶然、店で見かけたのでな。お前のために入手してやったぞ」 「オランガジュリ!?」 瞳をハートにして、ハインリヒはシュヴァルツの手元のポットを凝視した。 アッサムティーの中でも一番好きな銘柄だ。 クオリティもので、シーズン中でもなかなか入手できない。 でも、最高に美味なのだ!! ドキドキしながら、白いカップに注がれる濃い褐色の液体を覗き込む。 「可愛いお前の生まれた日に・・・愛を込めて」 スイ、と褐色の指先が、ハインリヒの前に紅茶のカップを置いた。 「どうだ、アルベルト?これでお前も、文句はあるまい」 「ああ、そうだな。・・・ありがとう・・・」 素直に礼を述べると、満足げにシュヴァルツが笑んで。 ハインリヒも嬉しくなって、ニコニコと笑った。 〜 END 〜 |
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しつこいようですが、念のため申し上げておきます。
拙宅のハインさんは甘党設定です。紅茶大好きです。
今年は黒様が御自らケーキを作ってくださいましたよ(笑)。
テーマは、拗ねる黒様、でございました〜。
最後はお誕生日らしく(本人はそのつもり(笑))。
ネタを下さったフロイラインに感謝ですvvv
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