4 愛情の贈り物
(44)
*黒4も4もかなりおバカさんになってますので、ご注意*




「アルベルト」
 涼しげな声で、名前を呼ばれる。
「・・・なんだ?」
 答えると、頬を緩めながら、尋ねてきた。
「もうすぐ、お前の誕生日だな。可愛いお前を心から祝ってやるぞ。何か欲しいものはないか?」
 コイツはまた、馬鹿なコトを言い出して・・・。
 そんな事を思い、ハインリヒは、はあ、とため息をついた。
 シュヴァルツと共に居住しているこの部屋には、モノが満ち溢れている。
 それこそ、ハインリヒが欲しいと思うようなものは全て。
「何も要らない」
 どうせ、要らないと言っても、鼻先で笑いながら勝手に用意するに違いない。
 思いながら言い放つと。
「そうか・・・」
 ハインリヒが思っても見なかった反応を返された。
「・・・え・・・?」
「お前は、私からの贈り物など要らん、と、そう言うのだな。分かった」
 鼻先で笑うなど、とんでもなく。
 どこか気落ちしたような仕草を見せながら、シュヴァルツはハインリヒの前から姿を消してしまった。
「何なんだ、一体・・・?」
 肩透かしを食らったような気持ちで。
 ハインリヒはシュヴァルツの背中を半ば呆然と見送った。



 それからというもの、シュヴァルツの態度がおかしすぎる。
 ということを、ハインリヒはいやがうえにも感じずにはいられなかった。
 口数が、極端に減った。
 いつもは饒舌すぎるほど饒舌で、要らぬ薀蓄を長々と語りだし、少々鬱陶しいぐらいなのに。
 必要最低限の会話は交わすが、それだけだ。

 何でだ・・・??

 考えた。
 どう遡っても、アレだ。アレしかない。
『何か欲しいものがないか?』
 尋ねられて。
『何も要らない』
 と言い放った事しか思い浮かばない。

 もしや、ヤツは拗ねているのか・・・?

 有り得ない結論に到達し、ハインリヒはブルブルと首を振った。
 いつも余裕の態度。ハインリヒが一人でワタワタしているのを見て、鼻先でフフンと笑うあの男が・・・!
 チラリとシュヴァルツに視線を走らせると。
 ハインリヒの事など気にしてません!といった体で、ゆったりとソファに凭れながら本を読んでいる姿が目に入った。
 しかし。
 よくよく観察してみると、いつもと、オーラが違う。
 迷惑など顧みずに向けられてくる、鬱陶しいまでのオーラが感じられずに。
 そこはかとなく、不機嫌というか、怒っているというか・・・。
 そんな空気を身に纏っていた。
「おい、シュヴァルツ」
「・・・・・・・・・・・・」
「おい」
「・・・何だ?」
 ようやく、返事をした。
「お前、何を怒ってるんだ?」
「・・・・・・・・・・・・別に」
 別にという態度でないから、聞いてやっているのではないか・・・!!
 取り付く島もないシュヴァルツの様子に。
 どうしていいか分からず、ハインリヒは一人、途方に暮れた。

 そして、ハインリヒを更に途方に暮れさせる出来事が起こった。
 一人優雅に紅茶を楽しむシュヴァルツの姿。
 通常ならば、カップはもう一客準備されていて。
 ハインリヒに笑いかけながら、シュヴァルツは言うはずなのだ。
『アルベルト、お前もこちらで茶を楽しむがいい』
 ハインリヒが茶の感想を述べると、実に誇らしげに笑いながら蘊蓄を垂れる。
 しかし・・・。
 今、ハインリヒのカップはテーブルの上に準備されてはいなかった。
 ブチリ。
 ハインリヒの中で、何かがブチ切れた。
「シュヴァルツ!!」
 優美さに欠けるとシュヴァルツが眉根を顰めそうな、そんな足取りで。
 ズカズカと歩み寄った。
「おれに何か文句があるのなら、言えばいいだろうが!!」
「・・・私はお前の希望通りにしてやっているだけではないか。私からは、何も必要ないのだろう?」
 何を屁理屈を・・・!
 と思い、ハインリヒはギロリとシュヴァルツを睨んだが。
 紅い瞳がどことなく気弱な色を湛えている様をみて、ウッと言葉を飲み込んだ。
 そして、おもむろに口を開いた。
「シュヴァルツ」
「・・・・・・・・・」
 そんな子供みたいに拗ねて・・・一体、オレにどうしろというんだ・・・。
 ため息を一つ吐いた後、
「オレはな、モノは必要ないと言ったんだ、モノは。周りを見てみろ。必要なものは全て揃っているだろう?お前が揃えてくれたものだ。これ以上、オレに何を欲しがれというんだ、お前は?」
 チラリと、シュヴァルツの視線がハインリヒに走る。
 畳み込むようにして、ハインリヒは宣言した。
「だから、誕生日に特別なプレゼントなんて必要ない。お前は、いつもどおり・・・オレに紅茶を飲ませろ!」
 チェアに腰掛けたまま、ハインリヒを見上げるシュヴァルツ。
 ・・・流石に、その上目遣いは不気味だ・・・。
 徐々に。
 じわじわと、シュヴァルツの瞳に頬に、いつもと同じ、不遜な光りやらニヤリ笑みやらが戻ってくる。
 ハインリヒは、心の底からホッとした。
 良くやった、オレ・・・!
 と、自分を讃えたい気分だった。
 優美な手付きで、シュヴァルツはティーポットを手に取り、ご機嫌に笑った。
「お前がそこまで言うのなら、極上の茶を淹れてやろう。茶葉の希望は?」
「ハティアリのクオリティー」
「承知した」
 フンフンと鼻歌を歌わんばかりの勢いで、シュヴァルツは部屋を出て行く。
 その後姿を見送って、ハインリヒはヨロヨロとその場に座り込んだ。
「良かった・・・。アイツの機嫌を損ねたままだと、とんでもないぞ・・・胆に銘じておこう」




 誕生日の日に、贈り物の箱がハインリヒの前に現れることはなく。
 けれども・・・。
「どうだ、アルベルト?」
「・・・すごい・・・!!」
 洋菓子店の一流コックも顔負け、な佇まいのバースデーケーキ。
「モノは要らんとお前が言うのでな。私が自ら作ってやったぞ。愛がたっぷりこもっているからな、心して食すがいい」
「食べる、食べる!!」
 ふわふわスポンジ、真っ白で口の中で美味しく蕩ける生クリーム。
 真っ赤なイチゴは幸せの甘さだ。
「紅茶はオランガジュリだ。偶然、店で見かけたのでな。お前のために入手してやったぞ」
「オランガジュリ!?」
 瞳をハートにして、ハインリヒはシュヴァルツの手元のポットを凝視した。
 アッサムティーの中でも一番好きな銘柄だ。
 クオリティもので、シーズン中でもなかなか入手できない。
 でも、最高に美味なのだ!!
 ドキドキしながら、白いカップに注がれる濃い褐色の液体を覗き込む。
「可愛いお前の生まれた日に・・・愛を込めて」
 スイ、と褐色の指先が、ハインリヒの前に紅茶のカップを置いた。
「どうだ、アルベルト?これでお前も、文句はあるまい」
「ああ、そうだな。・・・ありがとう・・・」
 素直に礼を述べると、満足げにシュヴァルツが笑んで。
 ハインリヒも嬉しくなって、ニコニコと笑った。



  〜 END 〜




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しつこいようですが、念のため申し上げておきます。
拙宅のハインさんは甘党設定です。紅茶大好きです。
今年は黒様が御自らケーキを作ってくださいましたよ(笑)。
テーマは、拗ねる黒様、でございました〜。
最後はお誕生日らしく(本人はそのつもり(笑))。
ネタを下さったフロイラインに感謝ですvvv







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